ジュエルビースト戦in黒ジャミル編

 

ほぼ実話なプレイ日記をSS風にしてみた第2弾。10周目黒ジャミル編ジュエルビースト戦顛末です。

……そして特に今回ポカばかりやらかした為、攻略としてはあんまり参考にはならないと思いますのでマジでくれぐれもご注意願いますorz

 

 

「なぁジャミル。エルマンがここ2日ばかり俺と口をきいてくれないんだが」
夕飯の後、困ったように頭をかきながらホークが俺に話かけてきた。
「心当たりねーのかよ、オッサン」
「実はミリアムにもダークにも同じことを言われてなぁ、参っちまうぜ。
しかもさっき久々にエルマンと話が出来たと思ったら、あの目ひん剥かれながら「貴方は1週間、夕飯3割減ですからね!」だとよ」
「3割ですんで良かったと思えよ・・・」
「なぁ、俺何かしたのか? エルマンに」
「マジで覚えてねーのかよ!? 
バルハルマラソン中にアンタがペンギン夫婦に魅了されて、あいつに思っきりフライバイ(フランシスカ装備)ぶちかましたのを!!」
「な、何ィィ!?」
本気で覚えていなかったらしい。「ともかく、夕飯減らされるぐらいですんで良かったと思うぜ。グレイなんか、同じように魅了された時セルフ火の鳥やっちまって、1週間飯抜きの上クローディアにボッコボコにされて馬車から叩き出されたっていうからな(※作者注・4周目クローディア編の話です)」
「参ったなー・・・とりあえず、謝ってくらぁ。さっきから腹が鳴りまくってしょうがねぇや」
ホークはまた頭をかきながら部屋を出ていく。ま、あの様子だと多分、3割減が2.5割減になるぐらいがいいトコか。



バーバラ姐さんがまた気まぐれを起こしたのか、ふらっと俺たちのところから出て行ってから随分たつ。
姐さんがいなくなってからというもの、エルマンはどこかの街へ行くたびに姐さんを探していた。真っ先にパブへ飛び込んで店内を見回しては、ため息をついて肩を落とし、すごすごと馬車に戻ってくる──そんな毎日が続いていた。
先の見えない姐さん探しをきっぱり諦めたのは──あの、アサシンギルドの事件があってからだ。
ダウドを・・・よりにもよってダウドを、手にかけてから。



あの事件の直後。
ダウドの埋葬にあたって・・・・・・エルマンは色々手続きをやってくれた。宿屋への説明も、どうやったのか知らないが口八丁手八丁で何とかしてくれた。
あいつがいなきゃ、ダウドはろくな埋葬もされず、うち捨てられてどっかで朽ち果てるだけだっただろう。
エルマンは一言も、金のことは俺に言わなかった。そのかわり、俺たちの食事がしばらく貧相になったが。
一度だけ、この件に関してエルマンに聞いてみたことがある。すると
「こーいう時にまで金をケチるのは、人としてどうかと思うんですよ。正直、色々やりくりは厳しくなりますがね」
なんて、ヤツにしてはかなり殊勝な台詞が返ってきた。
そしてこれ以降、もうエルマンは姐さんを追うのをやめた。ずっとエルマンと一緒についてきていたナタリーも、もう姐さんのことは言わなくなった。


そんな時に起こったのが──この、オッサンフライバイ事件だ。オッサン空気嫁つーかなんつーか。
ミリアムは「隣にこーんないい女がいるのにあーんなペンギンに誘惑されるなんて、海賊さんもヤキが回ったわね」などと散々ホークをバカにするわ、ダークはダークで「お前も、覚えてないのか・・・?」なんて言い出すわ。
ついさっき、冒頭でやっと真相を知ったホークはエルマンに謝ったものの、やっぱり1週間の夕飯減量は変わらず。
それどころか、カルシウム不足でちょっとばかりキレてしまったオッサン、あろうことかエルマンに「オメーもたまに魅了されてこっちにパンチ繰り出してきたりするじゃねーか、あのヘナチョコパンチをよー!」などと言い放ってしまい、夕飯3割減が4割減になってしまった。フライバイ(しかもフランシスカ)とパンチじゃ全然被害が違うだろうがオッサン・・・
「くっそ、あの糸目小僧・・・こちとら海賊だぞ・・・」明らかに口で競り負けたと思われるオッサン、俺の目の前でふてくされてゴロンと横になる。
「その小僧に財布と食糧管理の権限ぎっちり握られてる「元」海賊が今のアンタなんだよカッパさん。この馬車にいる限り諦めろよ」
「てめーは悔しくねぇのか、元盗賊として!」
「何を悔しがれって? あいつの料理は意外に旨いし、何だかんだでこの馬車は居心地いいしなー。それと、俺は「元」じゃねぇ今も立派なシティシーフだ!」
「胸張って大声で言うことじゃねぇだろうが!」「アンタがそれ言うかオッサン!!」
考えてみりゃ確かに情けねぇが。たかが会計係に生命線を握られている元海賊・盗賊・自称魔法少女・元アサシン(多分)・・・何ちゅうパーティだよオイ。
その後にまた、指と腹を鳴らしながら未練たらしくホークがエルマンとこに行った、のだが。
何やらデカイ破砕音がしたから慌てて見に行ったら、頭に巨大なタンコブ作って見事に伸びているオッサンと、ろばの骨を構えて肩で息をしつつ怒りに燃えるエルマンと、その背後にくっついて醒めた目で事態を眺めるナタリーの姿があった。
「貴方ねぇ、飯が出せないなら酒出せって、そりゃないですよ。酒瓶で殴られなかっただけマシと思ってくださいよ!」
「馬車にお酒置いてなくてよかったね、エルマン。お酒高いもんねー」
俺の後ろで、ミリアムが頭を抱えていた。「ダメ男の典型ばっか・・・こんなパーティで、ホントに大丈夫なの・・・?」おいダメ男って俺もか。


そんなこんながあって、パーティの雰囲気が険悪なんだか陰鬱なんだか、はたまたお気楽なんだかノーテンキなんだかよく分からなくなってしまった。
そういう時に飛び込んできたのが──ジュエルビースト復活の噂。
話自体は、アサシンギルドをぶっ壊しに行った時にミニオンの野郎から聞いていた。ギルドを裏で操っていたのはサルーインの手下のあいつらで、それが失敗したからジュエルビーストを復活させると。
その復活場所がフロンティアだという話だった。
俺の旅は、多分アサシンギルドを潰しただけじゃ終わらない。ダウドのためにも、ファラや仲間のためにも、ジュエルビースト、そしてサルーインをぶっ飛ばさないとな。
最初にフラーマだったかニーサだったかジェフなんとかだったかに、貴方にはサルーインを倒す使命がとか言われた時は、正直ワケが分からなかったが──こういうことなんだろう。


というつもりで、準備をしてきたのだが。
前段階の柱戦は、バッチリ火の鳥と聖杯を用意していたおかげで、思ったほど苦労もなく終わった。その後の石化獣戦も、前周の教訓を生かしミリアムの合成火の鳥発動を最優先に行動したら一気に倒せた。
柱戦がこんな風に案外簡単に終わったものだから、御本尊も多分あまり苦労しないだろうと──俺たちには油断があったかも知れない。


基本的にはやっぱりこのサイトの攻略どおり。
俺とダークとエルマンがオーバードライブ(略してOD)して斧で攻撃、ミリアムは聖杯役でシムラクラム(略して雪だるま)。そして重装兵たるホークが壁役になるわけだが──
唯一にして最大の誤算。それは、ジュエルビースト(略してジュエビ)封印可能期間ギリギリな段階になっても、エルマンとミリアムのBPがそれぞれOD、雪だるまに達していないことだった。
戦闘が終わるたび、エルマンは何度も何度も俺たちに謝りまくり、ミリアムも超不機嫌になっていく。騎士団領でコンスタンツを救出したその夜、エルマンは涙にくれた。ろば骨でホークをぶん殴った時の威勢はどこへやらだ。
「スミマセン、スミマセン・・・やっぱり私、こういうことには向いてないんですよぉ」
「んなこと言うなよ、ゴマ道場もといゴールドマイン襲撃解決がまだだろ? なぁ、ホーク」
「だがよぉ、ゴールドマイン解決しちまったらもうジュエビは動きだしちまうかも知れんぞ?」
前の周で大丈夫だったんだから、多分今度も大丈夫よ! 全キャラ中唯一の魔法少女の名にかけて、何とかして雪だるまを覚えてみせるわ!! あの鼻からヒゲの変態大臣なんかに負けてたまるもんですか!!」拳から炎を出しかけながら言うな。
「前の周・・・思い出せん・・・」
ダークが思い出せなくて当たり前、お前前周いなかったし。ミリアムもホークもいなかったが。


そして何のかんので結局、鉱山襲撃事件を解決した。
結果、めでたくミリアムが、雪だるま発動可能なBPに成長した。が・・・
エルマンのBPが、一向に上がる気配がない。
「スミマセン、スミマセン・・・」鉱山襲撃を解決した夜、またもやエルマンは酒と涙に溺れた。既に空の酒瓶が何本も目の前に転がっている。糸目から流れる涙が洪水状態だ。
「ウエストエンドのパブ見ても思ったけどよー、お前結構ザルじゃね?」
「いい加減にしなよ、せっかくあたしがやっと雪だるま覚えたってのに。あれだけお酒は高いっていつも言ってるくせに」
「いいんです、もう前周みたいにお金に困ることは当分ありませんから・・・フランシスカもリヴァイヴァも揃えましたし、もういいでしょ・・・ヒック、グスグス」
「やめてよー、お金がどうでも良くなるエルマンなんてエルマンじゃないよー」
「スミマセンナタリー、貴方までこんな夜まで付き合わせてしまいまして・・・そりゃ姐さんも見捨てるわけですよね、こんな役立たずの会計・・・グス、ううう・・・いっそお金でBPが買えれば・・・ヒック」
「えーい鬱陶しい! お前がOD出来ないだけでジュエビが倒せなくなるわけでもないだろうが!!」
あまりに泣き言を言いまくるエルマンに、遂にホークが切れた。「こうなったら俺が、エルマンの代わりにODを覚える! 俺のODとミリアムの雪だるまがあれば万全だろ、どうだ!!」
確かにホークのBPは何とかODが可能なくらいには伸びている。「確かにアリだな! エルマン、お前は城塞騎士レベル5になってんだから、OD出来なくてもガンガン俺たちを守ってくれりゃ大丈夫だ!」
「そうそう、それにあたしの雪だるまは無敵なんだからね! トマエ火山で斧技覚えてくれば、ジュエビなんか楽勝よ♪」
俺とミリアムの声で、エルマンはようやく顔を上げた。「皆さん・・・ありがとうございます、でも・・・」
「でも、何だよ?」
「ホークよ。お前はタイムディシーバーを覚えているのか?」
それまでずっと黙っていたダークが、突然冷静な一言を俺たちに投げかける。
「たいむでぃ・・・何だ、そりゃあ?」
「アンタそれすら知らないでODやるとか言ってたの? ホントにもう・・・」
「ODに必要な3術合成術のベース術だ。追加の術はロッククラッシュでもアースハンドでもいいが、タイムディシーバーだけは必須となる」
「だ、ダークさんの言う通りです。そしてタイムディシーバーを覚えられる場所は、今のところ・・・メルビルのウコム神殿だけです」
「何だ、簡単じゃねぇか。メルビルに行って覚えてくりゃいいだけの話だろ」
うん、確かにそうだ。そうなんだが・・・・・・



俺の、ものすごく悪い予感は当たった。
メルビルには、既に例の、陽気で勇ましい、「俺たちゃ海賊♪ 俺たちゃ海賊♪♪」の歌声がこだまし・・・・・・つまり現在、絶賛海賊襲撃中。
「ブッチャーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
ホークの怒りの絶叫が、虚しく空に響きわたった。歌声と共に。



「なぁ。何で南エスタミルの神殿にはタイムディシーバーが売ってねぇんだ、同じウコム神殿だろ? 水の神を祭る神殿だろうが」
「スミマセン、スミマセン・・・私がもう少し早めに、タイムディシーバーを人数分揃えられるように計算しておけば・・・」
呑んだくれが二人に増えた。
ダークが冷静に突っ込む。「ホーク、ウコムは水の神ではなく海の神だ。恐らく水と風、双方の術系統を持つためにメルビルは水、南エスタミルは風というように役割が分かれているのだろう」
「何で役割分担なんかするんだ! だったら二か所とも両方の術売れって話だろうが!!」
「だから多分そこはゲームバランスの問題・・・じゃなくて、河津の罠・・・でもなくて、うん、襲撃が済んだらエロール神殿が機能しなくなって巨人の里以外で光術買えなくなる初代SFC版よりかはマシじゃね?」
「ちっとも理由になってないでしょジャミル・・・」
「ケッ。どっちもパッとしない街にあるだけのこたぁあるぜ」
オッサン、それ俺にケンカ売ってる?・・・って言うべきなのか、地元民として。気持ちは分かるけどなー。


ともかく、今の俺たちに残された選択肢は3つ。
@ メルビル襲撃を解決し、ホークにタイムディシーバーを覚えさせる
A どっかで少しずつ雑魚を倒していき、エルマンのBPが増えるのを待つ
B このままの状態で決死の突撃

「Aなんて面倒なことやってられないわ! しもべ狩りみたいなことはもうやりたくない!」
「それに、雑魚ばっか倒していてもそうそう簡単にステータスは上がらないぜ。ヘタに当たりまくった結果、ジュエビが手遅れになるかも知れないしな」
「だからといって、@は危険すぎるぞジャミル・・・ブッチャーの手下どもの素早さは尋常じゃねぇし、当たりまくったらそれだけでヤバイ。それに、宮殿に入り込んだモンスターだってどんな数になってるか」
「では今の状態で何とかするより他ないか。幸い、シムラクラムは術者本人のみならず仲間にもかけられる。ミリアムとエルマンの二人が雪だるま化すれば、或いはということもあるかも知れん」
そんなダークの作戦を元に──俺たちは、ジュエビの元に向かった。



結果は、見事な連戦全敗。
ミリアムがせっかくトマエ火山に出向いてフライバイとかかと切りを覚え、フランシスカも装備して、エルマンも雪だるまにして、その上で自分も雪だるまに変身して挑んだものの、何も状況は変わらず。
勿論、前周でやったリヴァイヴァ&ダメージ量計算作戦も実行している。それでも、何も変わらなかった。



「選択肢はもう一つあります。私を外していただければ・・・」
何度目かの挑戦で惨敗した後、ウエストエンドで呑んだくれながらエルマンが言った。
「何言ってんだ。お前外してどーすんだよ」
「私はナタリーと一緒に、姐さんを探しに行きますので」
俺は思わずテーブルを叩いていた。「そーじゃなくて、ジュエビをどうすんだって話だろ!」
「グレイさんかクローディアさんなら、少なくとも今の私よりは良いかと・・・」
「イヤよ。ただでさえ男臭いパーティなのに、その上湿っぽくなっちゃうなんて」ミリアムが即座に拒否った。グレイを気に入ってるとかいう話は嘘だったのか、それともツンデレって奴か?
「それに、現実的ではないな」ダークはあくまで冷静だ。「これから新たなメンバーを入れたとして、そいつにタイムディシーバーを覚えさせなければいけない。そうしたらどちらにせよ、同じことだ」
「じゃ、諦めるか?」突然のホークの一言に、エルマンの肩がびくりと震えた。
「俺ぁ別に構わんぜ。そもそもウエストエンドなんて山の奥地、海賊にゃ無縁の土地だ。肩入れする必要もないしな」
「ちょっとホーク、何言ってんの!」
「俺はレイディラックを復活出来ればそれでいい。そもそもブッチャーは俺の宿敵だ、こんなトコでクダ巻いてるより、ヤツと早く一戦交えたくてたまらねぇんだよこっちは。ずっと機会を窺ってたら、向こうから出てきやがった。こんなチャンスは二度とねぇしな」
俺の中で何かが爆発しそうになる。ちょっと待てホーク・・・それは、それだけは!
そんな俺の胸中を見透かしたか、ホークはさらに言う。「ジャミル、お前さんも気をつけな。復讐ばっかに囚われて元凶を追いまくってると、いつか身を滅ぼすことになるぜ」
「何言ってんだ・・・アンタがやろうとしてるのも復讐じゃねぇのかよ!?」
「俺のは決闘だ。俺はヤツさえぶっ潰せればそれでいい、だがお前さんは違うだろ? ダウドを殺した元凶を全て潰さなきゃ気が済まねえはずだ」
「それがどうした。ダウドをあんな目に遭わせた奴は全員ぶっ潰す、それはサルーインでもしもべでも、そいつらが操るジュエビでも同じこった!」
「だからお前は危険だと言ってるんだ。自分の復讐に、他人を巻き込むんじゃねぇ。
やりたい奴だけ巻き込めばいいじゃねぇか、なぁエルマン?」
エルマンは答えない。ただ、とうに空になったカップを睨みつけて震えているだけだ。もっとも、睨んでんのか瞑想してんのか寝てんのか、この糸目じゃよく分からんが。
「あたしはイヤよ、今ここでやめるなんて冗談じゃない。だいたい、ジュエビを放置していたらウエストエンドだけじゃなく、エスタミルだってヤバイじゃない」
「俺は・・・ジャミルを追っていけば記憶が戻る気がする、だからここにいる」
ミリアムとダークの言葉を受けながら、ホークはまたエルマンを見る。「・・・だとよ。
どうする、お前は?」
途端にエルマンは立ち上がり、外へ飛び出していく。「ちょっとばかし、頭冷やしてきますっ!」
そうか──ホークがこんなことを言い出したのは、別に抜けたいとか俺を怒らせたいとかじゃなく。


馬車のすぐ外に置いてある大樽の上に、エルマンは腰かけていた。
奴の身長の1.5倍はあるその大樽はエルマンがよく好んで使う場所で、馬車内での唯一の、奴のプライベート空間と言える。あまりに不機嫌になった時とかはよくその中へ引きこもってしまうんだが──今はちゃんと樽の上に腰かけて、短い両脚を所在なさげにぶらぶら揺らしていた。
一人やってきたものの、俺は何と話しかけたものやら分からない。「なぁ。ホントに嫌だったら、ホントに外れたっていいんだぜ。ジュエビは俺らが必ず何とかするし、最悪動き出したって、ウエストエンド手前で止めりゃ・・・」
「スミマセン。私、忘れてましたよ。ホークさんに言われるまで」
「へ?」
「単純な話でした。私しゃ、ここが好きなだけなんです」エルマンの顔は、さっきよりは少し晴れ晴れとしている。
「姐さんはよく世界中を回りたいって言ってましたし実際そうしてきましたけど、ここほど商売上、色々新規開拓できそうなところはないんですよ。人はいますが物は不足しまくり、商売するにゃうってつけじゃありませんか!」
森の上に浮かぶ月を眺めながら、エルマンは言う。
こういう時のお約束としては、この森や山や空や自然や、果ては人間が好きだからとか言い出すもんだが──ま、こいつがそんな答えを口にするはずもなく。
「だからなんです。ジャミル兄さんのお手伝いをするというのも勿論ありますが、やっぱり最大の理由はそれですかねぇ・・・兄さんに巻き込まれたとか、そういう理由ではないですよ。ホークさんがさっき「やりたい奴だけ巻き込めば」って言ってましたけど、その「やりたい奴」だったんです私。
なのに私はさっき、外れようとしてしまった。つまり、別にその気もない方々を巻き込もうとしたわけで・・・もっとも、グレイさんやクローディアさんなら協力してくださるような気もしますがね」
「参るよなぁ。あのホークに教えられるとは」
「全くですねぇ。私もヤキが回りましたか」
どうやら少しだけ、エルマンは元通りになりつつあるみたいだ。
俺はほっとして──ちょっとした懸念事項に触れてみる。
「他にもあるんじゃね? 理由は・・・」
「姐さんのことですか? 
兄さんが考えてるようなことは、多分、ないです」
・・・こいつ、こっちが何も言わないうちから何言ってやがる。「おいどういう意味だよ、俺が考えてることって」
「で・・・ですからその、姐さんの帰る場所を守る為に私がジュエビと戦ってる、ってなお涙頂戴な話です。
私しゃそんな殊勝な人間じゃないですし、姐さんもそんなこたぁ望んでませんし。
もっとも、ジュエビのお腹から宝石でも出てくりゃ、そいつを姐さんにプレゼントするのもいいかなとは思ってますが」
「いや・・・俺はそんなこと考えてもいなかったが?」
「へ? え? え? そうなんですかい?」
「なんかお前、さっきよりえらく頬が赤くなっていつも以上に早口になってるけど、大丈夫かよ?」
エルマンは慌てて樽の上で両腕を振り回す。つついてみると結構面白いもんだ。「ち、ち、違いますからね! 私は皆さんが思うほど、姐さん命な人間じゃないですよ! あれだけ探しても出て来てくれない人なんか、戻ってきたってもう知りませんから!
私しゃこう見えても理系人間ですからね。踊り子がいなくなれば、他を探すだけで・・・」
「そっか。じゃ、俺が心配したようなこともなかったわけだ」
「?」
「前に姐さんがちらっと言ってたんだけどさ。
俺とダウド、姐さんとお前の関係って、似てるらしいんだよな。
で──ダウドのことがあってから、お前一言も姐さん姐さん言わなくなっただろ」
そう──これこそが、俺の懸念事項。そしてエルマンは、俺の言葉の先を見事に言い当てる。「もしかして・・・私が兄さんを心配して、兄さん気遣ってそれ言わなくなったとか思ってます?」
「うん。ちょっとだけな」
「もしかして、私のBPが上がらないのはそのせいだとか思ってます?」
「あぁ、少しだけな・・・
ってお前、何ろば骨構えてんだ!!?」
「兄さん、貴方もホークさんと同じ目に遭いたいですか・・・私はそんな、感情に呑まれる人間じゃありませんよ!」
「ふざけんじゃねぇ、さっきまで感情に呑まれまくってたバカが何言ってやがる!」
「私のBPが上がらんのは、単に私が戦闘向きじゃないからです! 姐さんも兄さんも何も関係ありませんっ! 理屈に合わん話をせんで下さい!」
「分かった、分かったからその土竜撃の構えやめろ・・・って、うぎゃあぁー!!?」


やっぱ、面白いからってハチの巣つつき回すのは良くないな。
ろば骨でぶん殴られ、意識が飛びかけながら──バーバラ姐さんが笑いながら言っていた言葉を思い出す。
──あいつってば、おかしいのよ。
人一倍感情に流されやすい癖に、自分は金で動く人間だからって理論武装しちゃってさ。
それを見透かされそうになると、相手が男なら容赦なく手が出るし、女ならあの目ひん剥いて脅かすし。
感情を否定する癖に、結局感情で動いてるんだから意味ないってのにねぇ。


分かってたけどな。
ダウドだって、弱気を前面に出すことにおいては超強気なとこがあったし。
本当は俺とタメ張るぐらい強い奴なのに、弱気を押し出すことで自分を守っていた部分があった。
それを考えると──やっぱり、エルマンの本音は・・・
いや、もういい。これ以上殴られるのはゴメンだ。


そして翌朝。俺たちの方針は決まった。
まず、メルビルを海賊どもの手から取り戻す。それも、可能な限り最短コースでだ。
「全員ぶっ潰してやりたいところだが、こうなったら仕方がねぇ。損害は最小限に、だ。野郎ども、いくぜ!!」
「野郎どもって・・・あたしも?」
そんなホークのかけ声とミリアムの突っ込みと共に、俺たちはメルビルに突入。
まずは港。突入の瞬間から一直線にこっちに向かってくる海賊どもを、瞬時のステルス忍び足で回避しつつブッチャーのもとへ急ぎ──
「ブッチャーこの野郎!! てめぇのせいで俺がODできないじゃねぇか!!」
「知らねぇなァ! 人のせいにすんじゃねぇ、ただテメーがうっかり者なだけじゃねぇか!!」
「ブッチャーーーーーーーーーーーー!!!」
そしてホークと俺たちの怒りのフライバイが降りそそぎ、まずはブッチャー撃沈。
「全く手間かけさせやがる。次!」
決闘に勝利した余韻がほぼないまま、ホークはすぐに下水道へ向かう。次はエロール神殿に出た魔物どもだ。
「・・・って、ここは無視してもいいんじゃない?」
「いや、出来るだけボス格は倒しておいたほうがいい。少しでもステータスアップ狙いだ」
並みいる下水道の雑魚どもを蹴散らし・・・はせず、ステ忍で見事回避しながら俺たちはまっすぐ神殿へ。そして裏切り者の神官どもを撃破。
「全く、どうして海賊襲撃とモンスター襲撃が同時なんだっつーの。どっちかが示し合わせたって伏線もなかっただろうが!」
「SFC版だと確か別々なんでしたっけ。どっちにしろメルビルも災難ですが、こっちもいらん苦労をさせられますねぇ」
そして神殿が終わったら今度は宮殿に潜入・・・「ねぇ、あの宝箱どうする?」
「完全無視しちまってもいいが・・・ってジャミルちょっと待て!!」
「オッサン、もうゲットしちまったぜ♪ こっちはアンティークダガーに鬼眼刀、バトルスタッフだ!」「それにフランシスカですか・・・せっかく買い揃えていたのに、ここで手に入るとは。しかもさっきのブッチャー戦で既に1本手に入れてますし、またお金が無駄になりましたねぇ」「1Fにはレイピアもあったぞ。残りは俺の勘では管槍だが、今のパーティの状態から考えると必要なさそうだな」
「お前ら・・・あれだけ寄り道はするなと俺が!!」
「しーっ! 声が大きいよ見つかっちゃう! とにかく上へ急ご!!」


そして見事、雑魚とのエンカウントゼロで皇帝の部屋にたどり着いた俺たちはそのままの勢いで、空からやってきた大空飛竜を撃破。暴風やらグライダースパイクやらでボロボロになりまくったが。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・やっと、何とかかんとかなりましたね・・・て、あれ?」
全てが終わった直後、皇帝の目の前で尻もちをついていたエルマンはふと自分の手のひらを見て、何かに気づく。
「ちょっと待ってくださいよ・・・もしかしたら、これは!?」


そして分かったこと。
エルマンのBPが、ようやくほんの少し上がっていた。
「そうね、確かに上がってる。上がってるけど・・・でも・・・」
「今のお前の水術レベルでは、OD可能なまでには至っていない。ジュエルを大量消費してお前の術の力を限界まで引き出せば、とりあえず可能にはなるがな」
ミリアムが顔を曇らせ、ダークが現実を突きつける中、ホークはあくまでお気楽だった。「なーに、こうして俺がめでたくOD出来るようになったんだ。エルマンに無理させずとも、俺とジャミルとダークの3人がOD出来りゃ文句ねぇだろう!」
確かに、前と比べりゃ状況は格段にこちらに有利になった。ホークがOD可能になるだけでもありがたい。だが──多分、ジュエビはそうそう甘いもんじゃない。
「いや、やりましょう」一にも二にもなく、エルマンは言った。「3人でやるのが楽なら、4人でやればもっと楽になるはずです。それにジュエビ戦の後を考えても、私もOD出来たほうが絶対にオトクですよ」
そんなわけで結局──OD使いを4人にして、俺たちは出発した。フロンティアへ。



ジュエビ戦の後・・・か。
多分俺には、相当キツイ戦いが待っている。冥府にまで行っちまうかも知れない。行っちまうどころか、事と次第によっちゃ死の神だってやっちまうかも知れない。
──エルマンは、どうするつもりなんだ? やっぱり、ついてくるつもりなのか?



ジュエビが果たしてまだ眠っているかどうか、それが最後の懸念事項だったが──
まず、恐る恐るエルマンが洞窟の最深部を覗いてみる。
「い・・・いた。やったー、いらっしゃいましたよ〜!!」
・・・すげー嬉しそうに飛び跳ねてるが、サルーイン(素)よりやたら強い裏ボス様の御前だぞコラ。
というわけで──前周にならい、ウェポンブレスとアーマーブレスをかけつつかかと切りでダメージを蓄積し、エルマンが算盤でダメージ計算を行う。だいだい7〜8000ぐらい行ったところでエルマンとミリアムとダークでリヴァイヴァをかけ、終わったらミリアムが1度聖杯を使い雪だるまになる。ちょうどこのあたりでジュエビが覚醒した。よし、計算通りだ。前周は失敗しまくったからな。
覚醒してからは──もう、とにかく全力で突撃するしかない。
雪だるまになったミリアムがまず先手を取って聖杯を使い、他の4人全員でODの体勢に入る。俺とダークが何とかジュエビより先にODして思いっきりフライバイかかと切り連携を食らわしたが──やっぱり、いくら雪だるまでもジュエビに先手を取られることはある。
そしてジュエビの暴れ方、これがハンパじゃねぇ。
ウインドカッターは竜巻になってるわ、ヘルファイアはレーザー砲だわ、ウォーターガンは鯨だわ、おまけに叩き潰すわのしかかるわ術法効かねーわステ下げも大して効かねーわで、(いつものことだが)ほとほと参る。
本格的に覚醒して外に出たら最後、この上にジュエルブラスターとかいうコロニーレーザーまで発射してくるってんだから、絶対にここで止めておけっつーのもよく分かる。
それにしても──クソ、これじゃリヴァイヴァもアーマーブレスも気休め程度にしかならないじゃねぇか。ホークがODしてフランシスカをぶち食らわすも、やっぱりジュエビは止まらない。雪だるまの聖杯もあとどれだけ持つか。しかし──そんな時。
遂に、やっと、エルマンがODに成功した。とはいえ俺たちと同じく、斧のフライバイ+かかと切りで連携しただけだが──それでも、かなりのダメージには違いねぇ!
「イヤー、見ていただけましたか私のOD! 姐さんの踊りにゃほど遠いですが、これなら私も前座の曲芸師として金が取れま・・・」
「バ、バカ! 前見ろ前!!」
喜びのあまりか一瞬油断したエルマンの前に、ウインドカッター・・・という名の巨大竜巻が迫っていた。「・・・・・・え?」
計算、間違いましたか。そんないつもの台詞をほざく余裕すらなく。
エルマンの身体はなす術なく竜巻に弾き飛ばされ、木の葉の如く宙を舞い天井に叩き付けられ、落下した。続いてそこに降りそそぐロッククラッシュ・・・という名の巨大岩石の雨。あまりの土煙に、エルマンがどうなったのかすら俺たちには分からなくなる──辛うじてはっきりしているのは、もはやエルマンは戦線復帰不能ということだった。
この光景に──遂にホークが切れた。「てめぇ・・・ぶちのめす!!」
だが、切れたところで状況は変わらない。
ダークが叩き潰され、俺もヘルファイアの餌食となり、雪だるまも遂に溶けてミリアムに戻ってしまった。「や、やだ! どうしよう、もう後がないよ! てかあんた達、いつの間にリヴァイヴァ解けてんのよ!?」
・・・この状況じゃ、何十回解けてもおかしくねぇだろ。そう突っ込む力すら、俺にはもうない。
「大丈夫だ、この程度でオタオタするな! 聖杯は元に戻ってるはずだ、遠慮なく使え!」
ホークはそれだけ叫ぶとODの体勢に入る。──まだ残っていたのか、ODするだけの力があのオッサンに!
「こいつをもう一発喰らいてぇのか! 沈め化物!!」
この間エルマンをぶっ飛ばしちまったフライバイが、今、ジュエビに連携して炸裂する。
そして──遂にジュエビは弾け飛んだ。



黒コゲになった俺とぺしゃんこになったダークをミリアムに治療させつつ、ホークは一目散にエルマンの埋まっている土砂の山へ向かった。猛然と掘削機の如く土を跳ね飛ばしまくること数十秒、何とかホークはエルマンを掘り出して土砂から引きずり出した。
「ね、ねぇ大丈夫!? まさか・・・死んでない、よね?」
涙目のミリアムなんて初めて見る。「窒息しかけただけだ、心音はある。こいつの生命力は折り紙つきだからな。回復だ、ミリアム!」
ホークに励まされ、ミリアムがムーンライトヒールをかける──だが、まだエルマンは目を覚まさない。
「糸目ってのは不便だな、これじゃ寝てるのか起きてるのか死んでんのかも分かりゃしねぇ」ホークが何度かエルマンの頬を張ってみるが、それでも起きない。かすかに顔色は戻ってきているように見えるが──
「呼吸が戻らないね・・・」
「こうなったら・・・最後の手段しかねぇか」
「最後の手段って・・・まさか・・・」
「人工呼吸か」こういう時に直球なダークはありがたいんだかどうなんだか。その場の全員が硬直する。
「や、やめろよな! こんな時に、見てる方のLPとBPとHPが全部半減するようなことやるんじゃねぇぞオッサン!」
「こういう局面でやめろはねぇだろうが! ・・・とはいえ正直、やる方はステータスまで半減するがな。仕方ねぇ・・・ミリアム・・・」
「あ、あたしに振る!? い、命がかかってるならしょうがないから、やれって言うならやるけど・・・やってる間に開眼でもされたらその場で火の鳥撃っちゃう自信あるわよ!」
「誰がお前がやれって言った! 大至急ナタリー呼んでこいと言ったんだ!!」
「あ、そ、そいう意味? なんだ」
「そんな時間はない、俺がやろう。何をためらっているのか分からん、どけ」
「だ、ダーク!? ちょちょちょちょっと待てってオイ!」俺は慌ててダークを止める。ダークにんなことされたら、見ている俺らのLPとBPとHPとステータスが全部半減どころか1になっちまう。「消去法ってことで、俺しかいないわけだな。しょうがねぇや」
「消去法? 何のことだかわけがわからないが」
分からなくて結構。俺はダークとホークを押しのけると、エルマンの身体に馬乗りになる。畜生、出っ歯がまぶしすぎるぜ。エルマンの、あるかないかも分からん小さな鼻を力まかせにつまむと、俺は大きく息を吸い込む──
違うぞファラ、こりゃあくまで人工呼吸だ、人助けだ、糸目でも出っ歯でも銭ゲバでも大事な仲間なんだ、何泣いてんだ俺・・・
「・・・ねえ、さ・・・」
──え。
「・・・姐さん。
・・・一人に、せんで下さいよ・・・」
そんなかすかな呟きと共に、糸目の端から大粒の涙がひとつ、こぼれた。
──俺も含めて、全員がしんと黙ってしまった。
起きてんじゃねーかとぶっ叩く気にもなれず、俺はそのままエルマンの上で腕組みしてしまう。
──やっぱり、それがお前の本音か。そりゃそうだよな。
ホークが笑った。「何か知らねぇが、大丈夫そうだな」
姐さん姐さん言い始めた数秒後にはエルマンは軽く咳き込み、やっと目を覚ます。
「あ、あれ? 兄さん・・・あの、なんで私の上に・・・
ていうかどうしましたっ、ジュエビは!?」
「安心しろ、もうやっつけたぜ。お前が気絶してる間にな」
「最後はホークがシメたんだよ、そりゃもうカッコ良かったんだから! さっすが元海賊、貫録だよねぇ!!」
ミリアムと俺がコトの一部始終をエルマンに説明する。・・・勿論、人工呼吸のくだりは除いてだが。
「そうですか・・・結局私、役立たずでしたねぇ」
「んなこたねぇさ。やっぱりお前の言うとおり4人OD体制にして良かったんだよ、俺らのうち誰が欠けても、奴は倒せなかった。ジュエビ退治はホント、地獄だぜ」
ホークは言いながら、懐からジュエルリングを取り出してエルマンに放った。「しかもこんな得物しかないときたもんだ。こいつはお前に預けとくぜ、バーバラに会ったら渡すといい」
「え・・・ちょ、ホークさん!」慌ててリングをキャッチするエルマンだが、すぐに突き返す。「ダメです、今回のMVPはホークさんですよ! こりゃホークさんがお持ちになるべきです、私は別に」
「そうかい? 俺だって別に要らんぜ指輪なんぞ。それよりも・・・
夕飯、今後1週間は俺の分を2倍にしてくれよ。何たって俺ぁジュエビ退治の殊勲賞!だからな」
「に、2倍!? ダッダメです、絶対にダメです私ら破産しちまいます!
ま・・・いいトコ2.2割増、ってとこですかね」
「な、何だその中途半端な数字は!?」「計算して出したギリギリの数字ですよ。1週間ホークさんの夕飯を増やすとして許容可能な限界の」
「いいじゃない、エルマンが食事増やしてくれるなんて滅多にないってナタリーが言ってたよ。それだけでも感謝しなきゃ!」
「そーだな、今日から1週間はウエストエンドで祝勝会と行くぞ!」「じゃあ、ナタリーに準備してもらわなきゃね! 先行ってるよ!」
威勢よくホークは洞窟を出ていき、ミリアムも後を追う。ダークも何も言わないまま出て行き──後には俺とエルマンが残された。
「全く、1週間祝勝会なんてお金どこにあるんですかね・・・1日騒いだらとっととまた運命石探しに・・・イテテ」「おい、大丈夫かよ?」
どうやら右足の骨折が完全には治ってなかったらしい。ま、あのジュエビの攻撃喰らった時点で身体中の骨が粉砕されてたんだろうから、ここまで治りゃ御の字だ。俺はエルマンに肩を貸す。
「スミマセンねぇ、えへへ」
「何照れてんだ、気持ち悪い」
「気持ち悪いって・・・兄さんそりゃヒドイですよぉ〜!」
「とにかく、元気になって良かったよ。みんなのステータスが減らずにすんだしな」
「? 何の話ですかい」
「いや、こっちの話」真相を話そうものなら、多分ダーク以外の全員が姐さん直伝ブラッドスパルタンを喰らうハメになる。ダークには後で口止めしとかなきゃな。
俺は黙って──しばらく抜け道を歩き続けた。そしてふと思い出す。
「なぁ。お前、どうすんだ?」
「どうするって・・・これからのことですか?」
「ジュエビは倒したし、フロンティアを守るっていうお前の目的は達成されたわけだ。
だったらもう、お前が俺についてくる必要もないだろ」
「・・・・・・」エルマンはしばらく考え込む。
「俺は・・・運命石を集めて、サルーインもミニオンの野郎も、全部ぶち殺す。
邪魔をする奴は四天王だろうが竜だろうが容赦しねぇ。何だったら冥府だって喜んで行ってやる。もう俺は何も怖かねぇ、サルーインのお仲間だっつーなら死の神だろうが闇の女王だろうがぶっ潰してやるさ」
「つまり、自分は危険だから今の内に離れておけと、そういうことですかい」
「お前って意外と察しが良くて助かるぜ」
「だったらなおさら、離れるわけにはまいりませんねぇ。そんな言葉を聞いてしまったからには」
「同情なら御免こうむるぜ。甘っちょろい情なんかで乗り切れるような道中じゃ・・・」
「アホなこと言わんでくださいよ」エルマンはいきなり、ずいと糸目と出っ歯を俺の顔に近づける。「私が兄さんについてきてるのは、そんな理由じゃございません」
「な、何だよ。じゃあ何だってんだよ」
「これまでの馬車代です」
「・・・・・・。」
うん。何となく予想はしていたオチだった。
エルマンの、呪いにも似た囁きが俺の耳元で流れる。「それだけじゃありません。食事代、掃除洗濯含めた宿泊費、光熱費、傷薬代、交際費に修繕費にサービス料・・・」
「ちょっと待てぇ! 傷薬まではともかく最後の3つは何だぁ!?」
「交際費は早い話が酒代です! あんたら今までどんだけ飲んだと思ってんですか!! あと修繕費は、兄さんがたがパブや馬車で散々飲んで暴れた時の壁やテーブルや窓代や幌代ですね・・・全く」
「てめぇもザルほど飲んで暴れてただろうが!」
「飲んだのは認めますが、私が暴れたのはあくまでアンタらを止める為ですよ! 私のろば骨がなけりゃ、兄さんがたお店いくつぶっ潰したか!」
見境つかなくなるほど酔っぱらった後、決まってホークと俺が頭にタンコブ作って馬車で伸びてたのはそのせいか。「分かったよ・・・しかしこの、サービス料とかいう得体の知れない勘定は何だよ!?」
「慰謝料みたいなもんですね。私が戦闘嫌だ嫌だ言ってるのにどんだけアンタら引っ張りまわして、術法と交渉だけならまだしも城塞騎士だの両手大剣だの体術だの、果ては早く三龍旋と羅刹掌とVインパクトとヴァンダライズ閃け言われてトマエ火山で破砕流にぶっ飛ばされまくって・・・しかも兄さんお宝狙いで下手に魔物の巣窟に首突っ込むもんだから逃げる為に私のLP削りまくって・・・私の精神的苦痛を考えたことがありますかアンタら!」
「分かった、分かったから耳元で怒鳴るな! でもよ、そーいうのって今までの報酬とかお宝でどうにかなってたんじゃ・・・」
「ほぼ全て装備と術法に消えてますよ」「馬鹿いえ、俺らそれなりに稼いだじゃねーか!」
エルマンはおもむろに胸元から帳簿を取り出し、俺の眼前に突きつける。つーか常備してんのかそれ。「これが、今までの兄さんの借金ですよ」
「・・・・・・てめぇ、実は会計向いてねぇんじゃねぇか? 何だよこのドえらい金額は、絶対桁間違ってんだろ!?」
「ちなみに、利息は含めて計算しておりますのでご安心を。今のところはこれだけですよ、今のところはね」
何をどう計算したんだか知らないが、金銀パールリング50セットでも返せない額になってやがる。この妖怪糸目小僧が・・・
「だからこそ、私は兄さんに死なれちゃ困るんです。どんだけ嫌がろうともお供させていただきますよ、でなきゃ金の回収が出来んじゃないですか」言いたいだけ言い放つと、エルマンはぷいと横を向く。
思い出すのはやっぱり、姐さんの言葉。
──人一倍感情に流されやすい癖に、自分は金で動く人間だからって理論武装しちゃってさ。
ジュエビ戦直前は外れるとか言い出した癖に、今になって借金の話を持ち出すとは。それこそ理に叶ってない話だろうが──エルマンの頬が若干赤くなってるのは気のせいか。
「分かったよ。そーいうことにしといてやるよ」
「そーいうことに・・・? 意味が分かりませんが」
「ただし、俺ぁ泥棒だ。借金なんて踏み倒すためにあるもんだって、泥棒の間じゃ常識だぜ」
「そんな常識知りませんね。お金は借りたら返すもの、サービスを受けたら対価を支払うもの、物を壊したら修理するか修理代を支払うもの。これ世界の常識、世の理です。
それを破るのは許しませんよ、兄さん。どこまで逃げても追っていきますからね!」
「おーおー、じゃあ好きにしろよ。トロいお前が俺についてこれるとも思えんがなー」
俺がそう言うと、エルマンの顔がやたらに晴れやかになる。
こうしてみると、糸目の癖にやたらと表情豊かな糸目だ。ちょっとばかり長くつきあってると、その形だけで喜怒哀楽がすぐ分かる。多分、姐さんもそうだったんだろう。「へへへ・・・これからも、よろしくお願いします!」
──なんか、久々にすげー笑顔を見た気がする。こいつがこんな笑顔になったのは、バーバラ姐さんがいた時以来だろうか。
それを見て、俺は思わず言ってしまった。「やっぱりお前、健気だよな」
「は?」
「健気だし、優しいよな」
「ににに兄さん・・・今の私の話のどこをどう聞いたらそんな結論になるんですかい!? ひょっとして、ジュエビのヘルファイアで頭が・・・」
やべぇ、ハチの巣つついてみたい衝動がまた。「何気ない気遣いもできる。ナタリーが惚れるわけだ」
案の定──エルマンはタコみたいに真っ赤になった。つか、帽子の先っぽまで真っ赤になってるのはどういうわけだ。
「兄さん・・・私の言葉が理解できんようならその耳、かみ砕きますよ?!」
「そ、そりゃやめろマジで! お前な、戦闘苦手って言ってる割に暴力に頼るのやめろってんだよ」
「私しゃ不合理が嫌いなだけです! バカなことばっかり言ってないで、早く帰りましょ!」



洞窟の先で、ホークとミリアムが手を振っている。
今は良くても、この先俺は何をするか分からない。エルマンの言う、世界の理に反することでもやるつもりだ。
サルーインを倒す為なら。ダウドの仇を取る為なら。例え、一人になっても。
エルマンの本音がおぼろげに見えてしまった今、いつかコイツと本気でやりあうこともあるかも知れない。あるいはオッサンやミリアムやダークとも。
だけど──それまでは、一緒にいてやってもいいか。
修羅の道を進む割には、どうにもこうにもお気楽すぎるパーティには違いないが。



 

 

 


アイシャ編ジュエビ備忘と違い、相当量妄想入ったSSになってしまいました・・・
一応実際のプレイを元に書いてはいますが。やっぱジャミル相手だと妄想が捗る捗る。
馬車は勿論実プレイでは使ってません(使えないし) バーバラ姐さんが使っていたのをそのままジャミル達が借りているという妄想設定です。
また、ジュエビは一度洞窟内で戦って負けると、ゲームオーバーにはなりませんがその後洞窟から出て行ってしまうようです。上記SSでは何度も負けて帰ってきたように書いてますが実プレイでは勿論、負けるたんびにクイックセーブからやり直しです。え、作中のジュエビの攻撃パターンはあれで正しかったかどうか?あんな凄まじい連続攻撃覚えてるわけないじゃないですか(;_;)
そしてエルマンの性格は・・・ねつ造30%、想像70%です(ナタリーは完全にねつ造100%にせざるを得ない)
お金お金とよく言うけども、決してお金だけのキャラじゃないことはアルマニ小説とかピンチ時の台詞からも明らかだし、ホントはジャミルやバーバラ姐さんや周りが心配で心配でたまらないんだけど、でも照れ隠しについお金がお金がとか言ってしまう・・・情に流されがちな自分を自覚していて、だからこそ損か得かで物事を割り切ることに執心するんだけど、でもやっぱり情に流されてしまう。そんなキャラだったら可愛いなぁー、とか妄想しつつ書きまくってしまった。
(つか、そういうキャラじゃなかったら絶対サル戦にまでついていかないと思う。そして城塞騎士であれだけディフレクトもしてくれないはず。全てを金で割り切るストイックなエルマンってのもそれはそれで萌えますが)
・・・ただ、やたらろば骨振り回す暴力ツンデレキャラになっちゃったのは完全に私のねつ造。そしてパーティの家事雑事全部取り仕切ってるってのも勿論ねつ造。つかあのメンツだと家事雑事全般やれそうなのがエルマンしかいない。ゲラハがいればまた別だったと思うが。
ちなみにろば骨は今回、古城前に手に入れました。しかも2本も(ただしジュエビ戦の前に入手してたかどうかは忘れた。バルハルマラソン中だったかも知れない) 最終的には古城の分合わせて3本に・・・(^^;) だけど結局最後までエルマンはグランドスラム覚えてくれず。ホークとダークはシェラハ戦前に閃いたのになぁ。


そして実は未だに「一人にせんで下さいよ〜」の台詞を聞いたことがない。だから上記SSでの該当台詞は完全に想像です。
次周バーバラ編(ジュエビリベンジ予定)では絶対に聞こうと思うのだけど、一度はエルマン外さないと聞けないからツライとこだなぁ・・・

 

back