平和そのものとなった・・・はずの、ウエストエンドの夜。
宿屋では、ひと騒動が持ち上がっていた。
「・・・じゃあ、ずっとこの樽に引きこもったまんまなのか? エルマンの奴」
ジャミルは、部屋の隅に置かれた樽を見つめながらため息をついた。
ジュエルビーストをやっつけて、意気揚々とウエストエンドに戻ってくるはずが──グレイのとんでもない発言を聞いて、あろうことかエルマンはその場から逃げだしてしまった。仕方なくジャミルたちは宿屋に戻ってきたわけだが、ほどなく彼は見つかった。
──ジャミルたちの身長の倍ほどもある巨大な商売用の樽の中に閉じこもっているところをダークがその嗅覚で勘づいた、という形ではあるが。
「すごいねぇ、エルマン。どうやってこの樽に入ったの?」
「アイシャ、そこ感心するとこじゃねぇだろ・・・」
「しょうがないねぇ、いつもの癖なんだよ」一行の後から入ってきたバーバラが、呆れたように樽を眺める。「よっぽど腹に据えかねることがあると、決まってここに引きこもる。あいつって体重軽いから、こんな所簡単に潜りこめちゃうんだよ。
で──グレイ。何言ったんだい、あいつに?」
パーティの一員が脱走の上引きこもり。この事態にも全く動じていないグレイに、バーバラは多少皮肉もこめて聞いてみた。だがグレイの答えは、淡々と事実を述べるのみ。「簡単だ。真サルーインを倒す、そう言っただけだ」
「真サルーイン? そりゃまた大きく出たもんだねぇ」
「知ってるのか? バーバラ」意外な反応に、ジャミルは首を傾げた。
「前の周で、ちょっとね♪ あの時はパーティがおカタイ奴ばっかりだったから結局やめたんだけどね、捧げた石は9つだけで」
「9つぅ!?」ジャミルとアイシャが同時に声を上げる。だがバーバラは何でもないことのように話し始めた。「ホント大変だったのよー、あの時は。エルマンは今までの苦労がとか散々喚くし、ハゲさんもパトリックも私を斬りかねない勢いで反対するし、ゲラハはホークやシルバーに謝りまくりだったしねぇ」
「いや、聞きたいのはそこじゃなくてだな・・・」「どど、どうやってそんなの倒したの?」
「姐さんっ! 前周の話は読者さんの混乱の元だからやめてくださいって言ってるでしょ!」樽の中からエルマンの文句が響いたが、バーバラは聞いちゃいない。「サルーインの術の中で最も恐ろしいのは、気絶した相手を操るアニメート。アレはムーンストーンがあれば完全に無効にできるから、ムーンストーンだけは手放さずにいたんだよ。
それでも強かったねー、サルーインは。ゴッドハンドや心の闇の連発はもうどうしたらいいのやら、って感じだったよ。
ましてや、10個のデスティニィストーン全部を捧げたサルーインと戦うなんて。そりゃエルマンが引きこもっても仕方ないねぇ」 「そそ、そうですよね姐さん! 姐さんからももっと言ってくださいよ!」いきなり樽の上からぴょこんと頭だけ出してエルマンが叫ぶ。一同が一斉にそちらを睨むと、すぐに彼は頭と帽子を引っ込めてしまった。
グレイは全くいつもの調子を崩さない。「だが──ガ○ダムなら、出来るはずだ。真サルーインを倒すことが。
その為には、ヴィクトリー。お前の力が必要だ」
「ですからヴィクトリーは止めてくださいって何度言やいいんですかいっ! 今度ヴィクトリーって言ったらもう返事しませんよ!」樽からエルマンの半泣きの怒鳴り声が聞こえた。
見かねたバーバラが尋ねる。「グレイ。どうしてもエルマンじゃなきゃ、駄目なの? 他には誰かいないのかい、強そうな奴は・・・」
「真サルーイン攻略作戦の要となるのは奴だ。
俺が見つけたガ○ダムの中では、適任者は奴しかいない。その為に奴を育ててきた」
「ねぇ、私たちが頑張るんじゃ駄目なの?」「そうだよ、エルマンがどうしても嫌なら俺たちが・・・」アイシャとジャミルが続けざまに聞いてみたが、グレイは頑として動かなかった。「個人の頑張りでどうにかなる問題ではない。それに、お前たちには別の役割がある」
「グレイ。すると、俺にも・・・?」
ずっと黙っていたダークが口を開いた。そしてグレイは答える。「・・・・・・・・・・・・勿論、お前にも役にたってもらう」
「? 今の不自然な間は、何だ?」
「とにかく、明日には出発するぞ。次はゴールドマインでしばらく鉱石を掘る」
それを聞いて、ジャミルとアイシャとバーバラはふと顔を見合わせる。エルマンの引きこもった樽を眺め──そして彼らはわざと樽の中にも聞こえるよう、一斉にはしゃぎだした。
「お、ゴールドマインやっと行くのか!? あそこ純金ががっぽり取れるからな〜」
「そうだよね、散々放置されてて鉱夫さんたちも可哀想だし!」
「ねぇグレイ、引きこもっちゃったどっかの情けない会計係なんか放っておいて、アタシを金塊アサリに連れてってくれないかい? さっさと行かないと、また鉱夫が押し寄せてきて金が掘れなくなっちゃうよ」
「純金以外にも、結構金になる鉱石が掘れるかもしれないぜ!」「でもジャミル、私たち鉱石の知識なんてあったっけ?」「少しは知識のありそうな奴がついてきてくれねぇんだから仕方ないよなー! そのかわり、頂いたお宝は俺たちで山分けにすりゃいいさ。引きこもりのどっかの会計係にはビタ一文やらねぇからな!」
ひとしきりはしゃいでみせた後、3人はじっと樽を見る。しかし樽は動かず──かわりに皮肉めいた言葉が返ってきた。「あのねぇ皆さん・・・あんまり私を馬鹿にせんで下さいよ。
儲け話さえすればホイホイ釣れる人間だとでも思ってましたか?」
「うん、思ってた・・・って、ング」突っ込みかけたジャミルの口を、バーバラが塞いだ。「やっぱり駄目か。こりゃ、相当重症だねぇ・・・」
と、その時部屋の扉が開き、ナタリーが冷水の入った大きな桶を両手に抱えて飛び込んできた。「ほらほら、みんなどいて〜! エルマンを引っ張り出すから!」
ナタリーはこんなのは日常茶飯事とばかりに桶を抱えたまま、器用に素早く樽の出っ張りを利用して樽によじ登り、情け容赦なく桶の中身をぶちまけた。
瞬間、ウエストエンドの町中に響きかねないほどの絶叫が轟く。「ぎ、ギヤアアアアアアアあああああ! つつ冷たい冷たい、ちょっと何ですかこいつら、たたたた助けてくださいぃいいい!」
樽がぐらぐら大きく揺れ出したかと思うと、一息に横倒しになった。中に入った水ごとエルマンをぶちまけて。
慌ててよけた一同のど真ん中に投げ出されたのは、哀れにもびしょ濡れになった会計係と──数匹のカエル。小さなカエルたちは帽子がよほど珍しいのか、楽しそうにエルマンの頭のあたりを跳ね回っている。
エルマンは半泣き・・・ではなくほぼ本気で泣きながら、帽子にまとわりつくカエルどもを払い落とす。そして両腕を振り回して怒鳴り散らすが。「ナタリー!! こんなイタズラ二度とやめてくださいって、あれほど言ったじゃないですか!!」
「こうでもしなきゃ、エルマン出てきてくれないじゃないの! こんなところに籠られたら、私たちだって興行出来ないでしょ!!」
「そ、それはそうですが! しししししかもご丁寧に、あのジュエビそっくりなオレンジ色のカエルばっかり・・・! うわあぁ服の中までちっこいの入って、ぎゃあああ!!!」
ジタバタ情けなく暴れるエルマンを見ながら、さすがにジャミルはため息を禁じ得ない。「はぁ・・・何でこんなのを、ジュエビ戦はともかく真サル戦まで要にしなきゃなんねーんだよ」
「そ、そうですよね兄さん! 私にゃ無理ッス、無理無理ですぅ!」思い切り馬鹿にされているのも気づかないのか構わないのか、エルマンは必死にジャミルの脚にすがる。「だぁあ離れろバカ、俺にまでカエルがくっつく!!」
「この状況から救っていただけるのなら、私しゃ純金だろうがダイアモンドだろうが兄さんに差し上げますよ! 兄さんからも言ってください、あのガ○ダム馬鹿の方に」「俺が言ってグレイが聞くわけねぇだろ! それからお前な、関係ねぇけど俺のこと兄さんって呼ぶのいい加減やめろって!! 下手したらお前の方が年上じゃねぇか!!」「ご恩がある方なら私にとっちゃ誰もが兄さんです! 何度も私を助けていただいたじゃないですか、あの回復量が微妙な癒しの水で」「てめぇいつも一言多いんだよ! またカエルぶちまけられてぇか!?」
「やれやれ、もう・・・」バーバラがほとほと呆れたように眉間を指で揉んだ。そんなバーバラに、グレイがふと声をかける。
「マリア・ピァ・アーモニア。後で話がある」
「マリア・・・何だって?」
「ウッソとシャクティを連れて、パブの裏に来い」それだけ言うと、グレイはとっとと部屋を出て行った。バーバラはワケが分からず、エルマンを見た。「・・・何のこと?」
「私とナタリーのことらしいですよ。全くもう・・・」
「マリア。お前にサルーインを倒した記憶があるのは、何故だと思う」
「だからさ、私はバーバラ。ちゃんとした名前で呼んでおくれよ」
まだ駄々をこねるエルマンをナタリーと一緒に無理矢理パブの裏に連れてきたバーバラは、唐突すぎるグレイの一言に面食らった。グレイは刀を鍛えながら、構わずバーバラたちに話し続ける。満天の星空は光輝き、この街に流れる川を照らし出す。
「サルーインを倒した記憶だけではない。エルマンも言っていた、自分は何度もジュエルビーストを倒した経験があると」
「ですからそれは、筆者がもうかれこれ一年近くもしつこくこのゲーム続けてるから・・・って、ンググ」エルマンの投げやりな呟きを、ナタリーが後ろから押さえた。「それに、何度もサルーインは色々な人が倒してる、はずだよね」
「なのに何故、今またサルーインが復活している? サルーインだけじゃない、ジュエルビーストも、他の様々な事件も同じように発生している。
何故俺たちは、何度も同じことを繰り返している?」
「ですからこれ、そういうゲー・・・ウグググ!!」エルマンはナタリーにさらに口を押さえつけられる。
「つまりグレイあんたは、私たちがある時点から、サルーインを倒すまでの時間を繰り返していると言いたいわけ?」
「俺の場合で言えば、俺がこの刀を手に入れてから。お前たちの場合で言えば、詩人からアメジストを渡されてからだ。
他にもさまざまなケースがあるが、確実に言えることはただ一つ。
今のままでサルーインを倒しても、また俺たちは同じ時間を繰り返すだけだ。サルーインが消滅した先の未来へ、生き延びることは出来ない」
「そ、そんな! じゃあ、またウエストエンドがジュエルビーストに襲われるの!?」
悲鳴に近いナタリーの言葉にも、グレイは淡々と刀を見ながら答える。「その通りだ。イスマスも、騎士団領も、メルビルも、エスタミルも、同じ事件が何度でも起こる。
だから俺は考えた。この状況で、未来へ生き延びるにはどうするか──俺の答えは二つある。
その答えの一つが、真サルーインを倒すことだ」
「それ・・・確証はあるんですかい?」非常に疑わしげに糸目を半分ほど開き、エルマンがじろりとグレイを見上げる。だがグレイは正直だった。「ない」
「ないって・・・そんな戯言に、私ら今まで付き合わされて? 馬鹿にするのもいい加減に・・・ングウウ!!」
「エルマン、ちょっと黙って。
グレイさん、もしかしてもう一つの答えって・・・ガ○ダム?」
「そうだ」グレイは刀を置き、じっと川の流れる先を見つめた。夜の闇の向こうには何も見えないが、その先にはどこまでも海が広がっているはずだ。彼らの未来のように──
「例え俺の答えが誤っていようと──ガ○ダムには力がある。未来を切り開く力が。どんな状況下でも生き延びる力が」
「冗談じゃないですって!」押さえつけてくるナタリーの手を強引に押しのけると、エルマンは立ち上がった。「私にゃ無理です! だからグレイさん、後生ですから他の方にお願いしてくださいよぉ! ニーサ神だって仰ってたじゃないですか、出来なければ他の方を探せって!!」
その場から走って逃げようとするエルマンの背中に、グレイが珍しく声を上げて呼びかける。「お前にしか出来ない。これはお前でなければ出来ないことだ、エルマン」
「理由を教えてくださいよ」エルマンは振り向きもしない。「但し、ガ○ダムだからって理由は聞き飽きましたからね! 今まで城塞騎士としてジュエルつぎこんできたのが勿体ないからってのもナシですよ!」
「どちらでもない。そもそもお前には今後、城塞騎士を任せるつもりはない。他に適任がいる」
「じゃあ、どうして!」
その問いに全くためらうことなく、グレイは即答する。「お前には最終的に、オーヴァドライブを使用してもらう。
ただし、ただのオーヴァドライブではない。ウコムの鉾を使用してのオーヴァドライブだ」
アイシャを連れて、木陰から密かにその会話を聞いていたジャミルは、思わず息を飲んだ。「嘘だろ・・・ウコムの鉾を使ってのオーヴァドライブだって!?」
「ジャミル、どういうこと? 私よく分からないけど・・・ウコムの鉾でオーヴァドライブしたらどうなるの?」
「1回につき、LPが3消費される・・・普通なら3回で瀕死だ!」
「えぇ!? グレイってば、どうしてそんなことエルマンに・・・」
「確かにあいつのLPなら5回ぐらいは可能だが・・・危険すぎるだろ! エルマンの奴、完全に石化してるぞ」
「理由ならある」そんな彼らの背後から、不意に声がかかった。「槍の速度効果だ」
「ってダーク、いたのかよ!」「うわぁ超ビックリした、その顔でこんな暗いトコで背後取らないでよぉ!」
ダークは全く気にせず話を続けた。「ムーンストーンがない状態でサルーインのアニメートに対抗するには、奴より早く動いて倒れた仲間を回復させる必要がある。だが通常の回復術を使ったのでは、サルーインの速さには追いつけない。しかし中衛で槍を使用すれば、通常よりも素早く動ける・・・だからこそのウコムの鉾だ。回復だけではない、この速度効果を利用してオーヴァドライブを行なえば、様々な危機的状況に対応が可能だ。
最強のサルーインから先手を取る為には最上の策と言える」
「ダーク、お前・・・実は記憶取り戻してんじゃね?」
「・・・そういうことですか。
旅商をやらせていただいていたのは・・・ゴールドマインで私らの修行をするためでもあったんですね。あすこは事件解決すれば大金を得られますが、解決前なら修行場としても使えますから。だからジュエビ討伐までは、ちまちま魔物との商売で当面の資金をためさせていたと。
オーヴァドライブで回復役だけでなく、攻撃役にもなるため・・・ぬか喜びしていた私がアホでしたね」
「その通り。むしろお前は攻撃重視だ、今のお前はPT中最大の火力を誇る。
その為にお前にはこれから、最強の一人連携技を習得してもらう。例えばヴァンダライズとアッパースマッシュを組み合わせた5連携、変幻自在と電光石火、刀では月影の太刀5連発、それから体術・・・」
怒りで震えが止まらないエルマンに、グレイは冷酷に現実を突きつける──
「冗談もいい加減にしてくださいよっ!
私じゃなくとも、他に出来る方がいらっしゃるでしょうが! ハゲさんとか」
「奴は駄目だ。最終試練と古城出現後、あいつからはアイスソードを拝借して冥府に行く予定だ」
「アンタホント、身も蓋もないわね・・・お願いだからナタリーに意味を教えないでね」
「じ、じゃあクロ・・・」エルマンがその名を出しかかった瞬間、グレイはいつになく凄まじい目つきで彼を睨む。「貴様は彼女にその役を押しつけるというのか? ガ○ダムでもない、その上帝国の皇女である彼女に」
「い、いえめっそうもございません! ございませんが・・・
私だって無理ですよ!!」
「グレイ、私からもお願い」見かねたバーバラがグレイとエルマンの間に割って入った。「エルマンにこれ以上の無茶はさせられないわ。私たち一座の会計係なのよ、これでも」
「いつもうるさいけど、いなくなったら寂しいもんね、バーバラ」ナタリーも加勢する──が。
グレイはしばしの沈黙の後、ゆっくり口を開いた。「俺の記憶では──
サルーインと戦う直前、ミニオンどもと会ったような気がする。その時奴らは言っていた。
ニューロードから発生したモンスターの大軍にエスタミルを襲わせていると。それがどういう意味か、分かるか」
「それって・・・」「まさか!」「え、どういうこと?」
「奴らの話では、既に北エスタミルの直前にまでモンスターは押し寄せ、クジャラートと騎士団の力を合わせても抑えきれない数だったようだ」
意味を理解したエルマンの顔色が、今度こそ蒼白になる。「ウエストエンドも、もしかしてタルミッタも・・・」
「エルマン、あんた親御さんタルミッタの近くじゃなかった?」
「そんな、ひどいよ! ジュエルビーストを倒しても、結局ウエストエンドは駄目になっちゃうってこと?
しかもタルミッタまで・・・」
ナタリーは思わずエルマンを見る。エルマンがウエストエンドを第二の故郷のように思っていることを、彼女もバーバラもよく知っていた。今のグレイの話が本当だとすれば、エルマンは本来の故郷も、自らが決めた第二の故郷も蹂躙されることになる。
「加えて、今までの周ではずっとそうなってたってことなのかねぇ・・・」
「真サルーインを倒せば──その惨事を防げるかも知れない。防げなくとも、被害は最小限ですむかも知れん」
バーバラとナタリーはじっとエルマンの背中を見つめるしかない。「決めるのはバーバラたちじゃない。お前だ、エルマン。
お前がガ○ダムなら──」
「だから聞き飽きましたって言ってるでしょ! それで・・・・・・
いくらですか」
じっと耳を澄まさなければ聞こえないほどの震え声で、エルマンは言った。思わぬ一言を。
バーバラもナタリーも信じられないといった顔つきで状況を見守る。「エルマン、その言葉が出たってことは・・・」「や、やる気になったの?!」
「そんなこたぁ言ってませんよ! いくら出していただけるかと聞いているんです」
エルマンは腹をくくったとでも言いたげに、両手を腰に当ててグレイに向き直る。但しその額からは冷や汗が滝の如く流れているが。
「いくらでもいい。お前の希望するだけの報酬は約束する」
「んな大雑把な・・・そーいう約束ほど、信用ならんもんはないんですよ。具体的に明示していただきましょうか。
とりあえず、私の要求額はと・・・そうですね。
閃いた上級技一つにつき技術料がこのぐらいで、交渉の手間賃がこの程度・・・道中の食事代、宿代、それから一座の興行もこの間からストップしていますからその休業補償も・・・」エルマンは手早く胸元からメモを取り出し何やら書きつけ始める・・・
「随分時間かかってんなぁ。一体いくらボったくるつもりだ? あの野郎」
「あ、今グレイに渡したよ・・・うわ、グレイが一歩引いた!」
「マジか!?」相変わらず木陰からやりとりを見守るジャミルとアイシャ。「マジだ・・・あのグレイが動揺してやがるぜ、ヘヘ」 「で、で、でもちゃんと首を縦に振ってる。交渉成立みたいだよ」
ジャミルとアイシャは顔を見合わせ、悪戯っぽく笑いあう。ただしその顔はすぐに曇ってしまったが。
「・・・今グレイが言ってたこと、ホントなのかな?」
「サルーインを倒しても、時間が戻っちまうってヤツか?」
二人とも黙りこくる。ジャミルにもアイシャにも確かに、サルーインを倒した記憶はある──思い当たる節は確実にあるのだ。
そんな二人に、ダークはあくまで冷徹だった。「その時間の牢獄を抜け出す鍵が、真サルーインにあるというなら──進むしかあるまい。
どうせ今までと同じことを繰り返していても意味がないというならば、違う道に賭けてみるのもありだろう」
「エルマンもそう考えたから、交渉に乗ったってことか・・・」
「あれ、ちょっと待って。バーバラがエルマンをぶん殴ってるよ」
「いい加減にしなさいエルマン! 一体何なのこの金額は、私たちはボッタクリ一座じゃないんだよ!」
「いきなり何するんすか姐さん! 姐さんやグレイさんこそお金を甘く見すぎですよ!」
「いや、いい」グレイがいきり立つバーバラを制する。「俺は構わない。これだけの額が必要になるとは考えていた。
だが参考までに、この金額の根拠を教えてもらえるか」
バーバラに殴られた頭をさすりながら、エルマンは胡坐をかいて説明を始めた。「真サルーイン戦までに必要になる経費、今まで必要になった経費のうち未返済の分、そこにつく利子──
それから、全てが終わった後の分です。これが一番デカいですね」
「生き延びた後、ということか」
「あのねぇグレイさん。貴方結構簡単に生き延びる生き延びると仰いますけど、生き延びるのって普通に難しいんですよ・・・・・・平和になったとしても。
例えば、一人が平均寿命まで生きるために必要な最低金額は、私の場合だとこんな感じです」
エルマンは手早く算盤も使い、計算結果をさらさらとメモ書きしてみせる。「いいですか? 年齢や性別により誤差はありますが、これを、ざっと8人分請求させていただいてます」
「8人?」
「私と姐さんとナタリー、それからグレイさんとジャミル兄さんとアイシャさん、ダークさん。あと、誰だか知りませんがガ○ダムとやらをもう一人入れるんでしょ? その8人が、今後寿命をまっとうするまで生活していけるだけのお金です。
ちなみに、ご家庭を持たれた場合のことは考慮していません。ずっと独身だった場合です。早い話が・・・キッツイ労働や命がけのモンスター退治をしなくてもそこそこ人間的な生活ができるだけの、必要最低金額ですよ。
真の力に覚醒した邪神を命がけで倒せというなら・・・それぐらいの報酬をいただいても、バチは当たらんのじゃないですかね?」
エルマンは両腕を組み、片目だけ開いてじっと上目使いにグレイを見る。そんな彼に、グレイは間髪入れず頷いた。「勿論だ、約束しよう。
ただし──生き延びられたら、の話だ」
「いいんですかい? 約束守ってくださらなきゃ私しゃいつまででも追いかけますよ。言っときますが、時間がたてばたつほど利子も増えますからね!」
「グレイ大丈夫かい? エルマンはお金のことに関しちゃ一歩も引かないよ、撤回するなら今だよ」
「そうだよ、お金が絡んだらエルマンは多分真サルーインなんかより怖いよ?」
バーバラにナタリーが口々にグレイに警告する──が。
「大丈夫だ」グレイも決して引いたりはしなかった。「それでこそガ○ダムに相応しい。お前の生命力・・・単に数値だけのものではなかったのだな」
「お、おい・・・アイシャ、今の見たか?」
「うん。グレイ、確かに笑ったね!」
ジャミルとアイシャは木陰でくすくす笑いあう。「決まりだな。エルマンの奴、ホント現金なもんだぜ・・・」
「ピースサインまでしてるね。良かった、すっかり元気になったんだ」
場がまたまたエンディングでも迎えたかのように和んだ。しかし現実には彼らには、ジュエルビーストより高い壁が待っている──それでもジャミルは威勢よく声を上げ、ダークの肩を叩いた。「そーいうことで、これからは打倒!真サルーインだ!
頑張ろうぜ! な、ダーク」
しかしダークは否定で答える。言葉を濁しながら。「いや・・・恐らく、間もなく・・・」
「ダークさんを外すゥ!?」
バーバラたちと別れ、グレイ一行が再びウエストエンドを出発してから10日後。
騎士団領にてテオドール乱心事件を解決し、バイゼルハイムを取り戻してめでたくフラーマの信頼とルビーを獲得した直後──
グレイはダークに驚きの宣言をした。「お前にはこれから記憶を取り戻してもらう。魔術士ではなくアサシンの記憶をだ」
「魔術士? アサシン? わけが分からんが・・・
お前と離れることで、俺の記憶は戻るのか・・・・・・?」
「最初に言ったはずだ。ガ○ダムに否定されたガ○ダムは最後までは連れていけないと」
あまりの展開とあまりに噛みあわない会話に、すかさずエルマンが突っ込んだ。「いやもう目的丸わかりですけどね、さすがに身も蓋もなさすぎでしょグレイさん!」
「目的? 何のこと?」「・・・アイシャ、お前何も知らない方がいいぜ(多分例の、最強の曲刀だな)
今までダークだけ強化度合いがどうもイマイチだと思っていたが、そーいうことか」
ジャミルがうんうんうなずく横で、エルマンが慌てる。「納得せんで下さいよ兄さん! あ、あ、あのそれで、ダークさんの代わりはいらっしゃるんですかい!?」
「勿論だ。まずはハインリヒに会おう」
「お久しぶりです。コンスタンツの時はお世話に・・・」
「手短に行こう。フリーダム、まずはジャミルからファラを寝とれ」
「・・・・・・はい?」
城主たちの話にいきなりズカズカと割り込んでラファエルに対しワケの分からないことを言い出したグレイに、騎士たちは呆れかえり、グレイ以外の一行は揃って肩を落とした。
「はぁ・・・前から訳分からんお方とは思っていましたが、ここに来て磨きがかかってきましたねぇ」
怒り心頭のジャミルが額に青筋をたててバキボキ指を鳴らす。「グレイどういう意味だてめぇ・・・場合によっちゃサブミッション5連発ぐらいじゃ済まさねぇ」
「ねぇエルマン、寝取りってどういう意味?」「アイシャさん、世の中にはお年頃の娘さんが知っちゃいかん言葉というものがありましてね・・・全くもう」
「何を騒いでいる。フリーダムと言えば寝取り、寝取りと言えばフリーダムだ」
「お前の頭がフリーダム過ぎるだろ!」
一行の会話にほぼついていけないラファエルが、笑みを保ちつつも若干顔を引きつらせる。「あ、あのぅ・・・私には既にコンスタンツが居りますので」
「問題はない、フリーダムもラクスが居ながら友人の婚約者に手を出した。そもそもラクスも元々は友人の婚約者だ」
「おいエルマン、モーグレイ貸せ。今なら俺、ヴァンダライズだろうがアッパースマッシュだろうがVインパクトだろうが閃いてやるぜ」
「兄さん落ち着いてくだせぇ騎士団の盾の御前ですよ! 妙なことしでかしたら依頼受けられなくなっちまいます!」
そんなわけでひと悶着あり・・・
「さすがはフリーダムだ。お前には今後、パーティの城塞騎士として働いてもらう」
竜の谷の試練を見事クリアした後、グレイはラファエルに言ってのけた。
「サルーインを倒す為であれば、それは当然のこと。喜んでやらせていただきます」
めでたく?城塞騎士役を解任となったエルマンは意気揚々だ。「さすがは本職の騎士様ですねぇ〜! 聖騎士の盾もディフェンダーもよくお似合いで、これこそ本来の城塞騎士のあるべき姿でしょう!」
「お前、ナタリーが泣くぞ・・・お前がそんなんでもあいつはお前の城塞騎士っぷりにだな・・・ンググ」
「ジャミル、女の子の秘密喋っちゃダメ」アイシャが背後からジャミルの口をふさぐ。
「ですが・・・」ラファエルは申し訳なさげにグレイを見上げた。「フリーダムとは、一体何のことです?」
「友人から婚約者を寝取り続編の主役から主役を奪い取るガ○ダムだが、ガ○ダムはガ○ダムだ」
「・・・・・・???」
「とりあえず、ファラを寝取った後ジャミルの腕を捩じりあげてこの台詞を言ってみろ。
『やめてよね、本気を出したらジャミルがボ』グボフアッ!!?」
その瞬間、ジャミルの稲妻キックとエルマンの閃光魔術が連携して稲妻魔術となってグレイを叩きのめした。
「いや〜この方時々おかしなことを言うものでして、私らも苦労してるんですよ! すみませんねぇ〜」
「そうそう! ガ○ダム云々は気にしなくていいからな、正直俺らも全然分からねぇんだから!!」
気絶したグレイの上に馬乗りになりながら、ジャミルとエルマンは取り繕った笑みを浮かべる。アイシャが慌ててフォローした。
「で、でも大丈夫だよラファエル。グレイって時々ヘンなこと言うけど、何だかんだで何度もグレイに助けられてここまでやってきたんだから、私たち。グレイの言うことって意外と間違いはないし」
「するとやはり、彼の指示には従った方が良いと? では、まさかその・・・やはりその、あの、ファラという女性の方を・・・その・・・」
真っ赤になるラファエルに、慌ててジャミルは両腕をバタバタ振り回す。「違う違う違う、それだけは間違ってるから!! それだけは!!」
「しかし、ハインリヒ様はこう仰られました。郷に入らば郷に従えと・・・」
「てめぇまさか、あわよくばとか思っちゃいねぇだろうな? 郷に従ったら俺は裏人格発動して鬼の如く暴れまくらなきゃいけねぇらしいんだが・・・(パキポキ)」
「私なんか暴れまくった挙句に姐さんを撃たなきゃならなくなるみたいですよ。正確には既に撃たれた姐さんを・・・ですが。
発狂した姐さんに『甘いよねぇ、坊や』とか言われて刺されるハメにならなかったのは不幸中の幸いですかねぇ」エルマンはモーグレイの刃に付着した獣の血を拭い取りつつ、糸目をほんの少し見開き横目でラファエルを睨んだ。
「・・・・・・・・・。
分かりました、もうこのことに関しては私は何も申し上げません。皆さん、凄絶な経験がおありなんですね」
「ううん、違うからね? ちょっと待って、ジャミルもエルマンもなんか顔コワイよ?」
「公式認定イケメンリア充目の前にすりゃそうもなるだろ。なぁ、エルマン」
「そうですよね、私なんか顔がコレですから女性にはとんと縁がなくて羨ましいやら憎たらしいやらで。その点前周は気楽でしたよね」
(ジャミルにはファラがいるし、エルマンなんかバーバラとナタリー二人もいるじゃん・・・
私なんか、ホントに誰もいないんだよ? 殿下にはアルのお姉さんいるし。アルにはシフいるし。
その上、戦闘中倒れた時のボイス設定知ってる? 私が戦闘中に倒れても、誰も私の名前呼んでくれないみたいなんだよ? 没設定だけど。
私は一生懸命みんなの名前呼んでるのに、誰も私を呼んでくれないの・・・・・・私こそ真の非リア充なのに、なによ二人とも・・・)
「・・・・・・何やらどす黒い心の声が聴こえてきた気がするが? ア、アイシャ?」
「(ヒソヒソ)兄さん、いい加減にしましょ! でないと連射5連発やらグランドスラムやらが飛んできますよ!」
そして数日後。
「ラファエルさんを外してダークさんを入れ直すゥ!?」
雪原での修行(通称バルハルマラソン)がようやく終わった後、グレイはまたまた驚きの宣言をした。「全ては計算通りだ、問題はない」
「その通りですよ、ラファエルさんは全く問題なく城塞騎士を務めていらっしゃるじゃないスか! 何で今頃ラファエルさん外すんです、やっぱり・・・」
「やっぱり、あの曲刀目的かよ。んなことしなくてもグレイ、あんたがいつも後生大事に持ってるその刀を使えばいいじゃねぇか。
確かそれって、最強に出来るんだろ?」
「この刀はこれ以上は鍛えない。この刀には妙な呪いがかかっているらしく、極限まで鍛えると俺が皆に指示を出せなくなる。
そのかわりに、あの男の持つ武器が必要だ」
「素直にバグだって言いましょうよ・・・ラファエルさん、大丈夫ですかい?」
「私なら問題ありません。皆さんをお待ちします」
さらに数日後。
アサシンギルドの首領として蘇ったダークを前に、エルマンは両手を揉みしだきつつ精一杯の笑顔を作ってみせる。
「ですからあのぅ、私どもも是非アサシンギルド復活のお手伝いをさせていただきたいんですよ」
「だからこの剣をよこせというのか!? ギルド頭領の証たるこの曲刀を・・・!!」両目をカッと見開いてエルマンを睨むダーク。その凄味に、エルマンは思わず飛び上がらんばかりに怯えてしまう。「いいいいいえめっそうもない!」
懸命に両手を振って否定しながら、エルマンは後方に控える3人に涙目で救いを求めた。だがグレイは動こうとしない──見かねたジャミルが口を出した。
「大丈夫かよ、エルマンに任せっきりで」
「俺たちがやっても無駄な戦闘になるだけだ。万一危なくなったら助けに入る」
「そうだね、ダークとケンカはしたくないし。・・・・・・ていうか、こういうことだったんだねダークを入れてたのって。大人って・・・・・・」
全く手助けする気配のない3人を今度は横目で睨みつけながら、エルマンはダークの説得を繰り返す。「この剣は強化に強化を重ねれば、いずれサダル・メリクなる宝剣になります。星の名を持つこの剣は、かのバファル帝国皇室伝来のエスパーダ・ロペラをも凌ぐ力を持つ魔剣と言われています」
「何? この剣が、それほどの力を?」
「ただし、そこまで鍛えるには非常に時間もお金もかかってしまいますし、一刻も早くアサシンギルド復活を急がれるダークさんには難しいですよね。そこでどうでしょう、私どもに鍛冶を任せていただけませんか!?」
「確かに、今後俺はギルド復活の為に粉骨砕身せねばならぬ──お前たちのように、サルーインと戦う余裕はない・・・南エスタミルを留守にするわけにはいかん」
今だとばかりにエルマンは畳みかける。「そうでしょうとも! この剣はサルーインを倒す為に必要ですし、平和になった暁には必ず剣はダークさんにお返ししますよ。強化の手間賃程度は頂きますが」
「むぅ・・・」
「それに、あの邪神サルーインを倒した剣ともなればこの剣にはさらなる希少価値がつきますよ! ギルドに人々を集める役にも立つでしょう」
「・・・・・・分かった」暫くの逡巡の後ついにダークは頷き、エルマンに剣を手渡した。「ただし条件がある。
必ず生きて帰れ。最悪お前たちが帰らなくとも、この剣だけは我が手元に戻るようにしておけ」
「縁起でもないこと言わんで下さいよ。必ず、帰ってきますって」
それに答えもせずに背を向けるダーク。気づかれないようにため息をつきながら、エルマンは後ろの3人をじろりと睨みつつ胸元からメモを取り出した。「交渉料加算・・・っと」
そんなこんながあって。
「まさか、かの四天王の中でも最強と謳われるフレイムタイラントまでもを手にかけてしまうとは・・・」
自分たちのしでかしたことに震えあがるラファエルを前に、他の4名は平然としたものだった。
「当然だ。俺たちはガ○ダムだからな!」
「兄さんもかなりグレイさんに毒されてますね。しかしさすがに14周目ともなると裏タイラントも楽勝でしたねぇ」
「もう最終試練はとっくのとうにやっちゃったから、予定だとこの後シェラハさん倒してー、煉獄行ってー、その次デスさん倒すんだったっけ?」
「そう思ってくれて構わん。エルマン、骨のお守りと魔石の仮面の準備はどうだ」
「交渉でバッチリ揃ってますよ・・・正直、冥府も煉獄もシェラハ様もイヤですがね」
エルマンの文句も、グレイは聞いちゃいない。「フリーダム、お前にはデス戦で前衛として要となってもらう。皆を護り、騎士の役目を果たせ。
アークエンジェルを守ったあの時のお前のように」
ラファエルはそんなグレイにくってかかる。「貴方って人は・・・!」
「その台詞はやめろ、お前から主役の座を奪われた元主人公の台詞だろう」
ラファエルは聞いちゃいない。「かつての仲間を殺してアイスソードを奪った上、誇り高き善良な四天王を消し、この上神までも手にかけるとは・・・! 貴方がたはっ!」
「心配するな。ガラハドのことなら冥府で生還させる」
「グレイさんにかかると、あのアイスソードイベントもやたら事務的になりましたよねぇ。『冥府フラグの為だ、とりあえず死んでくれ』って・・・」
「あれだけ筆者が悩んでたのがバカみたいだよな」
「ねぇラファエル、ハゲさんはともかくタイラントさんもタイニィさんもアディリスさんも仕方ないんだよ。皆乗っ取られちゃったんだから・・・」
アイシャが宥めようとするも、ラファエルは聞かない。「しかし四天王に関しては私たちの努力次第で何とかなったのでは!? 種族調整で・・・」
「面倒だ」「面倒すぎるぜ」「めんどくさいよぅ・・・特にスカーブ山が」「うまくいったところで、これというお宝が手に入るわけでもありませんしねぇ。タイラントに至っては冥府への扉塞いでますし」
「ですが・・・っ!!」
「あ、言っとくけどアディリスさんについては一応努力はしてみたんだよ?(「涙を拭いて」聴きたかったし) だけど・・・」
「簡単なようでアディリスの種族調整も意外とムズイよな。ベイル高原から一歩出たらアウトだし」
「虫から逃げ回ってたらいつの間にか町に入っちまってましたしねぇ。仕方ないっすよね」
それでもラファエルは納得いかずに黙り込む。もはやアイシャに至るまで酸いも甘いも噛み分けるようになってしまった4人と、未熟ではあるが正義感に満ち満ちた騎士とでは、価値観に隔たりが出て当たり前だった。
「成る程・・・これもまた、ガ○ダムか」
グレイはふとラファエルを振り返る。「四天王は全て倒すわけではない。水竜だけは種族調整を行なう」
「ほ、ホント?」「マジかよ!?」「な、何か良い得物でもっ!? それとも、あの神殿奥で大金が手に入るんですかい!?」
その台詞に、ラファエルが半分ぶち切れた。「金、金、金・・・! エルマンさん、貴方は騎士として恥ずかしくないのですかっ!! 私が入る前は貴方が皆さんを守ってらっしゃったのでしょう!?」
「私しゃ騎士じゃなくてただの会計係ですよっ! 騎士は騎士様がやっていただければいいんです、私は金にならんことはもう一切御免ですからね。そもそもラファエルさん、金ってのは大事なんですよ。私しゃ砦跡の時から貴方のご意見にゃ正直賛成しかねるところが」
「貴方は・・・貴方だけはっ!」
「ら、ラファエル剣しまえって! エルマンも羅刹掌の構えやめろ! ホントお前ら二人って、何から何まで対照的だよなー」
「話戻そうよー。それでグレイ、どうして水竜だけは種族調整するの?」
「簡単だ。水竜は宝剣を所持している──水竜を召喚出来るとされるその剣は、実は水の術具としても使い道があるそうだ。
種族調整で水竜に認められればその剣が恐らく手に入る。それを使うのはフリーダム、お前だ」
突然の指名に、ラファエルは戸惑う。「わ、私が・・・ですか? 一体何故」
「エルマンにウコムの鉾を使用させるのと理由はほぼ同じ──
お前は最後まで城塞騎士として最前列に立ってもらうからな。物理攻撃が来た時に盾となるのは勿論、小型剣である水竜剣の速度効果を利用して最速で味方の回復を行なう為だ」
「そうですか・・・そういうことでしたら、納得は出来ます」とは言うものの、ラファエルの表情は晴れない。「しかし、三邪神とはいえ、神を相手にするなど・・・」
「ラファエルは慣れてないからねー」
「私も最初にデス様やシェラハ様相手にした時は冗談じゃないと思いましたけどね。慣れちまえばそこそこ気楽なもんです、ジュエビよりはずっと。デス様なんてサルーイン戦前の稽古みたいな感じでお相手していただけましたし」
「そうそう、シェラハに至っては倒されるのを待ってるようなもんだしな」
「とはいえ、正直気は進みませんが。特にデス様相手に盾になるのはもうカンベンなんですがね・・・そこはラファエルさん、お願いしますよ」
「ガ○ダムは神をも超える。だからこそ俺はお前たちを集めた」
そう言われ、改めてラファエルは一同を見回した──灰色の毛玉を筆頭に、妙な耳の形のお調子者の盗賊、銭ゲバな糸目の会計、下手すると半裸と見間違えられかねない恰好の少女。ラファエルら騎士たちが崇め奉るミルザとはほど遠い彼らの姿だったが、ガ○ダムなる彼らの共通点が、果たして真サルーインを倒す力となるものなのか。
ラファエルは静かに、悲壮なる決断をした。自分が彼らの護衛役として選ばれたからには、何かしらの神の意思か、運命かが働いているのだろう──ならば自分は、それに従うまでだ。
例えそれが、どんなにワケの分からない気まぐれを起こす神だったとしても。
真サル決着編〜俺が、俺たちが、ガ○ダムだ!〜へつづく。
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