平和そのものなウエストエンドパブ。
バーバラの踊りがひと段落したところで、いつも通り小金の計算をしていたエルマンの前に、突然一人の男が現れた。
「お前がガ○ダムか」
「はい?」
もさもさと毛玉の如く伸ばしっぱなしの灰色の長い髪がやたらと特徴的なその男は、無造作にエルマンの首根っこを掴む。
「間違いない、ヴィクトリーガ○ダムだな・・・行くぞ」
「は、はぁあああ!? ちょちょちょっと待ってください、いきなり何なんです貴方は、あ、姐さあん!!」
「ガ○ダムは世界を救う存在。だからお前たちにはこれからジュエルビーストは勿論、真サルーインも倒してもらう」
そのままズルズルと男に引きずられていくエルマン。「こ、これって誘拐ッスよね!? ああああ姐さん助けてくださいよぉ〜!!」
白昼堂々、衆人環視下での誘拐。当たり前だが、ギャースカ喚き散らしつつエルマンはバーバラに助けを求める──が。
「なぁるほど、今回はそういう導入で行くワケね。頑張ってね〜エルマン♪ 地図とアメジストはあげるから」
「いやちょっと姐さん物分りよすぎッス!! せめて一緒に・・・」
「駄目だ。彼女はガ○ダムではない」
「い、イヤです勘弁して下さいぃ!! おかしいですよぉ姐さぁん!!」
「その台詞が何よりの証拠だ。行くぞ」
こうしてエルマンは、そのままもさもさの男──グレイにウエストエンドからまんまと拉致られた。悲鳴と共に。
そして1週間後──メルビル。
「エルマン」
「何ですかい。やっとヴィクトリーとかウッソとか呼ばなくなっていただいたのは結構ですけど」
「俺は何故、さっきクローディアに殴られたんだ?」
「当然でしょ・・・
護衛を頼まれて受けておきながら、その直後に『お前はガ○ダムではない。連れてはいけない』ってアナタ、失礼にもホドがありますよ!! 報酬だってジャンさんからたっぷり頂けたかも知れないってのに、これじゃ逆に賠償モンですって! その上『オウルが瀕死になったら伝えろ、迎えにいく』って、アンタねぇ!!」
真っ赤に腫れ上がり岩の如く変形した両頬を押さえもせず、グレイはエルマンの小言を聞いている。「俺はガ○ダムを載せる母艦だ。そうでない者は誰であれ、連れてはいけない」
「だからさぁ、そのガ○ダムってのは何なんだよ」部屋の隅からジャミルが会話に加わってきた。「そこそこ気楽だからいいにしても、今回の俺らってろくな共通項が見当たらねぇんだが」
言いながらジャミルは集まった仲間の顔を見渡す。グレイ、エルマン、ジャミルの他にはタラール族の少女アイシャと、どこからどう見ても怪しさ満点の記憶喪失の男・ダークがいた。
「共通項はガ○ダムだ、アレルヤ。それ以外にはない」
「いや、だから俺ぁジャミル! アレルヤって呼ぶのいい加減やめろって!!」
「電池の方が通りがいいか」
「ワケが分かんねぇし、何故だかすっげぇ嫌な感じがするからやめてくれるか?」
アイシャがベッドで飛び跳ねながら言った。「私はすごく楽しいよ! 今回もみんなで頑張ってジュエルビーストを倒そうね!」
「さすがだな、元気丸。その名に恥じない前向きさだ」
「・・・・・・やっぱりその、元気丸っていうのはやめてくれないかな」
そして、部屋の隅で体育座りをしながらブツブツ呟き続けているダーク。「・・・俺は、ガ○ダム・・・だったのか? サーシェスとは一体・・・」
「グレイさん。後生ですから彼におかしな知識を植えつけるのだけは止めていただけます? 本気にしかねませんって」
「事実を本気にして何か支障があるか」
「・・・・・・」
「尤も、奴はガ○ダムに否定されたガ○ダムだから最後まで連れていくわけにはいかない。だがジュエルビースト封印までは役に立ってもらう」
「・・・もう、何がなんだか、ワケが・・・」
糸目から滂沱の涙が止まらないエルマンの肩を、ジャミルが元気よく叩いた。「まーそれはそれとして、俺らってこのメモカじゃ結構知らない仲じゃねぇんだし、今回も頑張ろーぜエルマン! また城塞騎士頼むな!!」
「私も頑張るからエルマン、今回も羅刹掌と無音殺とヴァンダライズとVインパクトとアッパースマッシュと三龍旋と変幻自在とシャインインパクト見せてね!! それから今回こそ乱れ雪月花も!! あ、万物一空と乱れ突きはいいや」
「・・・姐さん。私の周りにはどうしてこうも、鬼ばかりが集まるんでしょう( TдT)」
そして、何だかんだとあってジュエルビースト御柱戦にたどり着いた一行だが。
「・・・電池」
「だから電池はやめろっつってんだろグレイ! 何だよ?」
「そう言いたくもなる。何故、貴様の大地の剣経由クラックはこうまで効かない?」
10戦ほど戦ってみて全戦ズタボロに敗北し、ウエストエンドに逃げ帰ってきたグレイたちは、未成年のアイシャを除いて飲んだくれていた。
「運だよ、運! ラミアも腐竜も一向にデレないんだから仕方ねぇだろ!」頭に血が昇ったジャミルがグレイに悪態をつく。
「そもそも何故貴様は奴らより早く動けない? クラスも海賊、位置も前列、翼のお守りもラバーソウルも装備しているはずだ」
ボロボロになった帽子を縫いながらエルマンが口を挟んだ。「ジャミル兄さんはクラック、アイシャさんは聖杯、他は合成火の鳥・・・これでうまくいくはずなんですが。単純にステータスがまだ低いってことなんですかねぇ? 周回重ねて奴らのHPも増してますし、最初に封印した時とは明らかに違ってますよ」
「それもそうだし、アイシャが腐食ガス一発で昇天しちまうのも痛いよなー。しもべ狩り失敗したか? BPさえあればokだと思ってたが、その分他のステータスが犠牲になっちまったか」
そのアイシャは、宿の隅っこで疲れ切って眠っている。「・・・うう、ショックウェイブもうヤダよぅ( T-T) あああまたあの虹色のボールが、ボールがぁ( ToT)」
「大分うなされてるな・・・」
「私ももう、かちあげあげとかいう連携喰らって空中で2回も3回もぶっ飛ばされるのは嫌ですよ。
服の修繕だってタダじゃありませんし、いい加減クラック決めてください電池さん」
エルマンは片方だけ目を剥いてジャミルを睨みつける。白目の面積がやたら広い中での豆粒状の黒い瞳はどういうわけかやたらと凄味があり、ジャミルは一瞬面食らった。「・・・てめぇまでその言い草かよ!」
「いや、電池の方がまだマシかも知れませんね。兄さんのクラックが効かなかったのって今周だけじゃないですし、いつかの周だってスウィング覚えるのにどんだけ時間かかったかそして効かなかったか!!」
「あん時の俺とは違うだろうが!」「言いたくなる気持ちもわかって下さいって!」
その時、部屋の扉ごしにひょっこりと幼い少女が顔を突き出した。「いい加減にしてよぉ、エルマンもジャミルも」彼女を見て、エルマンが今度は両目を見開いてしまう。「ナ、ナタリー?! どうしてここに?」
「あれ、バーバラ姐さんについてったんじゃなかったのかよ」
旅芸人一座の一人、歌い手ナタリー。彼女はエルマン拉致事件の後バーバラと行動を共にしていた、はずなのだが。
「バーバラがまたふらっと出かけちゃってね。多分あの詩人さん追いかけてったんじゃないかな・・・
それで私は馬車のお守りをしながら、ここの宿屋でお手伝いをしてるってわけ」
「良かったです。ここから連れ去られてから、姐さんはともかくナタリーのことは心配でしたから」
「それはいいんだけど」ナタリーはふとグレイに視線を移した。エルマンとジャミルの仲裁もせずに、じっと彼らを見定めているグレイに。「グレイさん。今の話だと、貴方がチームリーダーなんでしょ?
なら、喧嘩を止めるぐらいのことはしようよ」
「俺は限度を超える介入はしない。奴らはガ○ダムだからな」
「?」
「ガ○ダムにおいて、仲間同士の諍いは必要不可欠・・・」
「??」
「不和を乗り越え、絆を深め、強敵を突破し、成長する。そのプロセスあってこそのガ○ダムだ」
「???」
「ナタリー、この人まともに相手にしても無駄ですよ。もう夜も遅いですから早く寝ましょう」
エルマンは帽子を被り直しつつ立ち上がり、ナタリーの手を引く。「宿のご主人には、私から頼んでおきますから」
「でも・・・グレイさん。ガ○ダムなら、出来るはずなんだよね? ここを守ることが」
ナタリーはグレイを振り返りながら、懇願にも似た視線を向ける。「エルマンたちがその、ガ○ダムなら・・・」
「当然だ。だから俺はガ○ダムを集めている、母艦の操舵士として」
「はいはい、これ以上の戯言をナタリーに聞かせたら本気で怒りますからね! もう行きますよっ」
エルマンに引っ張られるようにしてナタリーが出て行く様子を、グレイは口元に手を当てつつ暫く眺めていた。
「・・・成る程。彼女は、シャクティか」
「絶対に、イ・ヤ・で・すっっッ!!!」
部屋に戻ってきてグレイ提案の作戦内容を聞いた時──エルマンは顔面蒼白になり、そして次の瞬間には真っ赤になって激昂し始めた。
「嫌です嫌です! 私死んじまいます!!」
「そんな訳がない。お前にはLPが18もある」
グレイの作戦とは、至極単純なもので。
基本的には、聖杯役のアイシャ以外は全員合成火の鳥をぶっ放す。
但しエルマンは城塞騎士として、最前列で皆を守るというものだ。
「先ほどのお前の小言からヒントを得た。ラミアを除いても腐竜4体で、敵の攻撃は4手ある。
だがその攻撃が連携して最前列の一人に集中すれば、4手が3手、うまくすれば2手にもなる。他の4人が生き残る確率は上がる」
「いわゆるオトリ役ってワケだな。ま、頑張れよエルマン♪ 俺を電池より役に立たないとかぬかした罰だ!」
「エルマン、ごめんね。でも、それぐらいしかもう方法ないよね」
「いやそうじゃなくて、兄さんにアイシャさんも止めてくださいよぉ!! アイシャさんが聖杯で、他全員合成火の鳥でいいじゃないですか! そうですよね、ダークさんっ」エルマンは半分泣き叫びながら、一人残ったダークに助けを求めるが。
「・・・運の要素が絡むのは同じだ。それならば城塞騎士レベル4まで成長したお前を最前列にしてディフレクトに期待しない手はないだろう。今の状況では、ジャミルの大地の剣経由クラックよりはお前のディフレクトの方が信頼度は高い」
「ダークも意外と酷ぇなぁ・・・俺が頼りないのは認めるけどさ」
最後の砦が脆くも崩れ、エルマンはがっくり膝をつく。「いい加減にしてくださいよぉ・・・私しゃただの旅商で会計係ですよ? 戦闘苦手なんだって、最初っから言ってるじゃないですか。
なのに今回は城塞騎士に加えて武芸家まで極めさせられて、しまいにはオトリ役だなんて」
言いながら、遂にエルマンは本気で泣き出してしまった。「そりゃ、ジュエルビーストはどうにかしなきゃならんです。早めにやってしまわなきゃウエストエンドが酷いことになるのだって分かってます。だから今までだって何だかんだ言いながらも封印してきたんですよ。
でも・・・もうそろそろ、普通に旅商やらせてくれたっていいじゃないですか。私しゃ商売がしたいんです、騎士様は騎士様に任せておけばいいじゃないですかあああ!!」
この大号泣に、さすがにジャミルとアイシャは良心が咎めるのか顔を見合わせる。「お、落ち着けよエルマン。俺も悪かったよ、俺のクラックが決まりさえすればって、これでも反省してんだから・・・」
「ホントにごめんね、私もすぐに倒れちゃって。エルマンが身体張ってくれたら私今度こそちゃんと聖杯使うから、だから・・・」
そんな3人の間に、不意にずいとグレイが入り込んだ。
「何を勘違いしている? お前には勿論、旅商をやってもらうぞ」
「ほぇ? ホ、ホントですかい?」
「柱戦の後は金が必要だ。その為に、お前のサバイバル能力・交渉能力が必要になる。
親と離れ離れになり、カサレリアの野生児として育ったお前の力がな」
「・・・私、一応親はクジャラートで健在なんですが。んでカサレリアって何スか」
「そのうち分かる時がくる」
グレイはエルマンの前でゆっくり膝をつき、両肩を掴んで顔を上げさせた。「この戦いが終わったら、お前に思う存分に旅商をやってもらう。だからそれまで、皆を護れ」
「お金が必要、ですか・・・」そのキーワードを聞いてしまったからには、もうこの話を承諾せざるを得ないエルマンだった。
「多分、ジュエビ本戦のことですよね。確かにあの準備には大金が必要不可欠ですから。
そういうことでしたら、仕方ありません・・・もう、今回だけですよ! 約束してくださいよ!」エルマンは糸目の周りを真っ赤に腫れ上がらせながらも、袖で涙をぬぐって頷いた。
そんなエルマンを見ながら、グレイは呟く。「俺の言うガ○ダムの意味・・・お前たちにはまだ分からないかも知れん」
「分からないかも知れんっていうか、全く分からんですよ」
「でも、俺たちにゃ分かんねぇってことが分かってたんだなグレイは。意外だぜ」
「これから分かるとも思えないけどなぁ・・・私、頭良くないし」
「いや」グレイは全員を見回して立ち上がる。「これからマルディアスを守っていく過程で、必ず気づくはずだ。お前たちがガ○ダムなら。
そしていずれ、お前たちは皆ガ○ダムになる。俺がガ○ダムにする」
堂々と冷静に宣言するグレイを前に、全員が押し黙ってしまった。グレイは続ける。「彼女は──シャクティは、薄々ながらも気づいているようだったぞ」
「しゃくてぃ? ・・・・・・もしかして、ナタリーのことですか」
グレイの視線から何とかそう推定したエルマンだが、それ以上の意味はまるで分からない。
「何だかさっぱり分からんが、とにかく頑張ろーぜエルマン! 大丈夫だ、骨は拾ってやるから!」
「兄さんこそ今度は頑張ってくださいよ! 知力最強の兄さんの合成火の鳥が鍵なんですからね!!」
そしてジュエルビースト御柱・再戦。
エルマンオトリ大作戦が功を奏したか、それともただの幸運か。とにもかくにも4本中3本の柱粉砕に成功。
いよいよ最後の柱に挑んだガ○ダムPTであった──が。
「どうして……どうして……
私以外、皆さん寝てるんスかぁあああああーーーーーッ!!??」
腐竜4体はどうにか火の鳥連発と聖杯で倒したものの、エルマン以外の4人もぶっ倒れており。
つまり──エルマンとラミア、男と女のタイマン勝負である。
「グググググレイさんおおおお起きてくださいよ、私にゃ無理ですって!! カンベンして下さい〜」
「・・・・・・大丈夫だ、お前にはアメジストとムーンストーンを装備させてある。
ラミアの邪術と魔術なら防げるはずだ」
力尽き倒れ伏しながらもグレイはエルマンに助言した。「ロペラをお前に持たせたのは・・・この時の為だ。
行け──ヴィクトリー」
「いや、ですからヴィクトリーはやめて下さいって! それから何度も言ってますけど、いくら運命石装備してたって恐いものは恐いんですよぉ〜〜!! うわああぁまたペインが、エナジースティールがぁぁああ!!」
泣き言を言いまくるエルマンに、エナジーボルトで丸焼けになったジャミルが突っ込んだ。「てめぇが俺たちをちゃんと守らねぇからこうなったんだろ。オトリ役が何で一人生き残ってんだ、なーにが城塞騎士レベル4だよ・・・ゲフッ」
「いくら城塞騎士でも術法は防げませんよ!! って、うわああぁあまたああ!!」
そう言っている間にも次から次へとラミアのペインにエナジースティールにエナジーボルトが雨あられとエルマン一人に飛んでくる。運命石を装備しているためエルマンの身体は無事だが、精神は崩壊寸前だ。共震剣を連発しながらどうにかラミアに抵抗しているものの、ロペラも最早ボロボロである。
惨殺間近の彼を見ながら、ダークは呟いた。「しかし、グレイ・・・運命石でラミアの魔術と邪術は何とか阻止出来ているが、もし闇術が飛んできたらどうする? ダークライトウェブでも来たら・・・」
「お願いですからダークさん、これ以上恐ろしいこと言わんで下さい! だからどうせならダイヤモンドも下さいって言ったじゃないですかぁ!」
だがそんなエルマンの文句にも、グレイは耳を貸さない。
「──出来るはずだ、ヴィクトリー。お前なら、出来るはずだ!
味方が次々に倒れても、それでもシャクティを救うために戦ったお前なら!」
「・・・もう、突っ込むのも疲れたんでせめて戦闘に集中させてくださいね・・・うわぁあこん畜生!!」
ペインの光の爪から必死で身を護りつつ、エルマンはエスパーダ・ロペラを構える。グレイから無理矢理渡された最強の細剣を。
──この戦いが終わったら、お前に思う存分に旅商をやってもらう。だからそれまで、皆を護れ。
「グレイさん、そのお言葉信じていいんですよね。死亡フラグじゃないですよね。
ホントに、マジで、まっとうに商売させていただけるのでしたら・・・!!」
破砕寸前になったロペラを構え、半泣きになりながらもエルマンは共震剣をラミアに放つ。
「お金を稼げるのでしたら・・・
ロペラがなくなっても、羅刹掌でも三龍旋でも何でも叩き込んでやりますよ!! うぐわあああああああぁ!!!」
ほぼヤケのヤンパチのエルマンの絶叫と共に、ロペラは見事に粉砕され──
ラミアもまた、艶のある吐息を残して消滅した。
所はバルハラント。
「さぁ〜て稼いで稼いで稼ぎまくりますよぉ〜!! とりあえず、そこのお店でソックスを大量購入いたしましょ〜!!」
グレイとの約束通り、晴れて念願の旅商(レベル4)となったエルマンは、身体の倍ほどもある商売道具を背負いながら軽やかにステップを踏みつつ雪原を駆け抜ける。
「ちょ、ちょっと待ってよぉエルマン!」
「あ、そうそうアイシャさんも薬草摘みに戻っていただけるとありがたいですね」
「え、どうして? 私そんなに知識は・・・」
「タラール族の方々の薬草の知識は結構稀有なものなんですよ。まずはこの薬草を見ていただけます?」
言いながらエルマンは強引に、両腕一杯の薬草をアイシャに押しつける。
「うわぁ、もうこんなに沢山薬草を!? ってすごいよエルマン、超貴重な赤と緑の上薬草までこんなに・・・」
「ほらね、上薬草ってすぐに分かるところが素晴らしいんですよ。私ら素人は本を見ながらでないとなかなか分かりませんからね。 薬草の本来の価値が分からんまま薬局に持ってっちまうと、高価な薬を手に入れられるはずがただの傷薬渡されたりもしますから」 「そうなんだ・・・傷薬じゃなくて、もっとよく効く薬を作ってもらえば戦闘も楽になるよね!」
「違います」エルマンは得意げにアイシャの眼前で人差し指を振ってみせる。「上薬草を手に入れて、高価な薬を薬局で作って、そいつをまた売りさばくんですよ。
タダで摘んだ薬草で金を作る、これ商売人の基本です」
戦闘時とはうってかわって水を得た魚の如くのエルマン。呆れたようにジャミルが割って入った。「そりゃ結構だけどさ、何でソックスがそんなに必要なんだ? しかもこんな雪原でさぁ・・・」
「バルハラントはソックスが安いんですよ。そしてソックスはモンスターにはそこそこ人気の商品なんです。
ソックスを売りさばけば、もしかしたらモンスターの持ってる高価な品と交換できるかもしれませんよ〜!」
「そしてそいつをまた売りさばく、ってワケか・・・」
「ってことで皆さん、とりあえずこの匂い袋を装着していただけます? これがないと、モンスターとの交渉なんて出来ませんのでね」
30分後。
背中に山のようなソックスを背負い、アイシャを連れてエルマンは雪原を右へ左へ駆けまわり続けていた。
手頃なモンスターを見つけてはとっつかまえて交渉を始め、ソックスを強引に押しつけてまんまと薬草やら武器やらお宝をいただいていく。
「・・・なぁグレイ。ソックスって本当にモンスターにとって人気商品なのか?」
「そういう話は聞いたことがないが・・・売りさばければそれでいい」
「モンスターの言語がさっぱり分かんねぇから、エルマンがどうやって交渉してるのかも俺にゃ分からんけど・・・気のせいか、魔物どもがすごく困ったような顔してるぜ」
その横で、ダークが何やらブツブツ呪詛の如く呟く。「・・・おばあ様が介護状態で・・・外へ狩りにも行けない・・・それは大変お気の毒に・・・」
「な、何だよダーク!?」
「静かにしろ、今エルマンとモンスターの言葉を調べている。なるほど、しかも母親も自分も冷え症に・・・この雪原では仕方のないことですねぇ・・・」
「お前もあいつらの言葉分かるのか・・・ってかダーク、お前にエルマンの口調真似られると超絶気持ち悪いんだけどな!!」
「ブツブツ・・・そんな時こそこのソックスの出番です・・・冷え症には勿論、雪原での狩りの効率化にもお役にたちますよ・・・おばあ様へのプレゼントにも最適・・・身体を温め、素早さを上げる朱砂の粉が染料になっておりまして・・・いえいえそんなこと仰らずに・・・通常なら上薬草と交換なんですが、今ならそちらの青い薬草と交換ってことで・・・
・・・という具合だ」
「う、うん、そうかい・・・っていうかさ、フローラルマインのどこにソックス履く部位があるんだ?? 花だぞ、花」
「・・・花びらや葉の乾燥対策にも良いですよ・・・だそうだ。今なら3組セットでゴシックアーマーと交換できます・・・お安くなりますよ・・・」
「介護状態の婆さんつきの貧乏親子を無理矢理だまくらかしてソックス押しつけて、貴重な薬草やお宝を巻き上げる・・・か。
あいつ、俺らのこと鬼だ悪魔だとか散々言ってやがるけど、あいつが一番の鬼だろうが! さすがに魔物どもに同情するぜ」
そんな中で、グレイは一人満足そうに頷いていた。「敵とも心を通わせ、真の平和を模索する・・・
それでこそガ○ダムだ」
「いやグレイ、平和どころか火種作ってる気がするんだが? ・・・あ、今度はアシュラヴァインか」
「・・・なるほど、ニート状態を解消すべく親から大金をもらったけどどう使えばいいか分からない・・・そんな時こそこの、やる気の出るソックスいかがです・・・お金はただ持っているだけではいけません! このソックスで自らを変え、そのお金をさらなる大金にしませんか? ・・・このソックスは何とびっくり、アドレナリンの放出を促す白青の粉で染色されておりまして・・・」
「さっき朱砂って言ってなかったか? ってかアイシャ、アレ見てて何か思うところはないのか・・・」
「・・・エルマン、それ本当? 私も欲しい!! ・・・だそうだ」
「見事なサクラと化しやがってorz
今度ゾーンビーターで殴られまくったらお前らのせいだからな!!」
「いや〜薬も鉱石も山ほど、そしてドビーの弓も3本も手に入りましたし、こりゃ大儲けですよぉ」
山のような戦果を誇ってはしゃぐエルマンを前に、グレイは冷静に一つ一つの品を手に取っていた。
「骨のお守りも5つ揃った、魔石の仮面もそこそこある・・・ろばの骨、これは貴重だな」
「グレイさん、骨のお守りはとっととさらなる交渉材料にしちゃいますよ! 魔石の仮面は高く売れますけどね」
「いや、骨のお守りも魔石の仮面もとっておく。今後の戦いで必要になる」
「ジュエルビースト戦で、ですかい?」
「否・・・」グレイはエルマンの顔を見つつ、彼にしては珍しく言葉を濁した。「詳しい話は後だ。
とりあえず今は、ジュエルビースト対策をする。フランシスカにオーヴァドライブ、シムラクラム、リヴァイヴァ、それから武器強化術の準備だ」
「そういえばグレイ」ジャミルがふと疑問を呈した。「別にエルマンに稼がせなくても、ゴールドマインのモンスター襲撃解決すりゃ、簡単に大金手に入っただろ? どうしてそっちを・・・」
「いいってことですよぉ!」エルマンは気にもせず、超絶満足げな笑顔満開だ。「これだけ稼がせていただいたんです、さっさとゴールドマインを解決するよりも私しゃこっちの方が満足ですよ! ジュエビ対策をしても結構お金は余るはずですしね」
「お前、地下にとり残された奴らのこともちょっとは考えてやれよ・・・」
そして部屋の隅では、アイシャがいそいそとソックスに履き替えていた。「・・・おいアイシャ、何してるんだ?」
「え? だってこのソックス、鋼糸で編まれてるから素早さと体力が上がるってエルマンが言ってたし。
ジャミルもこっちのソックスどうだろう? 知力が上がるみたいだよ〜」
「・・・アイシャ、何も聞くな。何も聞かずに素直にロングブーツに履き替えてくれorz」
そして、これまでになく準備万端でジュエルビースト本戦に挑んだ一行。
かかと切りをくらわし、全員にアーマーブレスとウェポンブレスとリヴァイヴァをかけ・・・そして・・・
「ねぇグレイ。一つ聞いていい?」
「何だ」
「聖杯って、私が持っててもいいんだっけ?」
「・・・・・・!!!」
全員の顔が蒼白になった。
作戦は、だいたい前回までと同じ。ダークがシムラクラムで雪だるまとなって聖杯を使い、他4人がオーヴァドライブでジュエビを攻撃する予定だった。
が──今、何故か聖杯はダークではなくアイシャの手にある。そして最悪なことに、既にダークは雪だるまと化していた。
素早さを含めた全ステータスが飛躍的に上がる雪だるま。ジュエビより確実に早く動けて聖杯を使えるのは彼だけである──それが出来ないということになると、作戦そのものが瓦解しかねない。
「お、終わりですうぅ! こんな大ミス、前周のADHD姐さんの時にすらなかったですよぉ!!」
真っ先に喚きだしたのは勿論エルマンだったが、ジャミルもアイシャも心境はほぼ同じだった。
「だ、ダーク! も一度シムラクラムをアイシャにかけ直せ!」
「無理です、雪だるまになっちまったらシムラクラムは使えませんよ!」
「ど、どうしよう・・・私がもうちょっと早くに気づいてれば良かった!」
「グレイさんっ・・・逃げましょ! 逃げるしかありませんよっ、ここは!!」
全員の視線がグレイに集中する。だが、彼の判断は冷静だった。
「撤退はしない。多少作戦が狂うぐらいは想定範囲内だ、これでこそガ○ダムに与えられたミッションに相応しい」
「多少どころの問題じゃないですよ! 私は何周もジュエビ討伐に付き合わされてるから分かります、もうこの時点で詰みです、投了ッス!!」
それでもグレイは動かない。エルマンの必死の叫びも、今回は通じない。「達成不可能なミッションをクリアしてこそのガ○ダムだ。信じろ──今までの自分を」
「精神論でどうにかなる問題じゃないんですって! だから今回は──」
「出来るはずだ。お前たちがガ○ダムなら、出来るはずだ。
とりあえず、俺の言う通りに動いてみろ」
確固たる信念で微動だにしないグレイ。その動じなさっぷりに、エルマンも二の句がつげない。
それを見てほぼヤケクソながらも、ジャミルが乗った。「へ、俺もちょうどシムラクラムは邪道だと思ってたとこだぜ。雪だるまなしで倒せるかどうか、試してみよーじゃねぇか!」
「し、仕方ないよね・・・駄目でもともとっ!」
さらにアイシャも乗ってきたところで、グレイは古刀を構えたまま指示をだし始める。「基本は同じだ。ジャミル、エルマン、アイシャ、俺の4人でオーヴァドライブを使う。
但し出来る限り一人連携を出せるようにしろ。連携できる技がなければ考えうる限りの最強技を叩き込め。それからアイシャ!」
「はい!」「もし壊滅状態になったら、お前は聖杯経由でオーヴァドライブを使え」
「えぇ!? そんなことしたら、聖杯壊れちゃうよ?」
「全滅するよりはいい。最初に癒しの水で全員を回復してから奇蹟の水だ」
「わ、分かった!」
エルマンももう諦めたのか、オタオタするのをやめた。「ええいっ、こうなったらもう仕方ありませんっ! 仕方ありませんけど・・・ダークさんは、一体どうするんで?」
「雪だるまは壁役だ。ジャックハマーでもやっていてもらう」
「4人パーティで雪だるまなしでジュエビ倒せってのと一緒じゃないですかorz こんなの縛りプレイ同然ですよ!!」
「こんなものは縛りのうちにも入らん。俺はオーヴァドライブなしでも行けると考えているくらいだ・・・とにかく動け!」
「・・・うう・・・せ、せめて骨はどうか姐さんとナタリーのところに送ってくださいねorz」
そして、グレイたちのほぼヤケのヤンパチ攻撃が開始された。
グレイが3段階まで強化させた古刀で逆風の太刀を5連続で炸裂させれば、ジャミルがフランシスカでのフライバイかかと切りの5連携を見事に命中させる。エルマンもロペラの共震剣と小転を組み合わせた5連続攻撃を決めた。
だがジュエビも止まっているわけがなく──押しつぶしに叩き付けの上に凄惨なる術法攻撃が、いつもよりスキの多いパーティを直撃する。あっという間にリヴァイヴァも解除され、パーティが壊滅状態になったまさにその時。
「今だ、行け! 元気丸!」
グレイの声と共に、アイシャがボロボロになりつつも聖杯をかかげる。グレイの指示通り、発動するオーヴァドライブ。
一瞬の間に全員が全快し──奇蹟の水の効果でBPまでが回復した。代償に、聖杯が使い物にならなくなったが。
「もしかしたら・・・コレ、行けるかも知れませんっ!」エルマンが再びロペラを構え、共震剣5連発を叩き込む。
だがその瞬間ロペラはまたまた粉みじんに砕け──同時にジュエルビーストの張り手が、思い切りエルマンを直撃した。
悲鳴すら上げることなく、エルマンの身体は壁に叩きつけられる。そして慌てて回復に向かったアイシャにも、無情な叩きつけ攻撃が炸裂。さらに雪だるまにも竜巻やら鯨やらが襲いかかり、見事に雪だるまは溶けてしまった。
「ち、畜生! やっぱり駄目なのか、小手先の作戦変更ぐらいじゃ・・・」
「いや、まだだ」この状況下でも、グレイは全く動じていなかった。「雪だるまが壁になった。あの術法攻撃が俺たちに来なかったのは幸いだ──行くぞ!」
古刀を手に、グレイはオーヴァドライブを詠唱しつつ飛ぶ。「ガ○ダムを守る母艦として──貴様を、斬る!!」
5連続の逆風の太刀はやがて猛吹雪となり、無数の巨大な刃と化してジュエルビーストに襲いかかる。
そして遂に──その刃は、狂獣の分厚い装甲を内部から破砕した。
「いやーもう、どうなるかと思いましたよぉ! まさか雪だるまが機能しない中でジュエビを倒すなんて、こんなの初めてですよ!」
戦い終わって回復したエルマンは、信じられない現象にはしゃぎまくっていた。尤も、はしゃいでいたのは他の皆も同じだったが。 「俺もビックリだぜ・・・あんな大ミスがあったのに切り抜けちまうなんて、さすがグレイだ!」
「聖杯でオーヴァドライブなんて、普通しないよ! やっぱりグレイは面白いなぁ」
その中でただ一人、グレイだけはいつも通りだった。「違う。お前たちがガ○ダムだからだ」
「うーん、やっぱりワケが分からないけど、今回ばかりは信じないわけにいかないかな? 私たちがガ○ダムで、ガ○ダムは強いから、今回も何とか出来たってこと?」
「・・・そういうことにしておくか」
そしてひと通りはしゃぎ終わった後、ジャミルがふと尋ねる。「ってことでとりあえず、ジュエビは倒しちまったし・・・
みんな、これからどうする? 俺ぁ面白そうだからグレイについてくけど」
「私もグレイとジャミルについてくよ、面白かったし! エルマンはどうするの?」
「いや〜、さすがに私はこれ以上はお付き合いできませんよ。ウエストエンドも平和になったことですし、姐さんとナタリーのところへ戻ってまた、ちまちま芸人商売でもします」
エンディングでも迎えたかの如く和やかに笑顔で話すエルマンだったが──突然、グレイが遮った。
「それは出来ない」
「・・・はぃ?」
「ジュエルビーストなぞ前哨戦にすぎん。お前たちガ○ダムにはこれからさらなるミッションをこなしてもらう。
従ってヴィクトリー、お前を外すことは出来ない」
エルマンの糸目が、笑顔の形のまま凍りつく。「・・・あの、もしかしてまたまたデス様やシェラハ様と戦うとか言いませんよね?
もう裏四天王もイヤですよ。最終試練も出来ればカンベンしてください」
「そんなものは全くもって前座にすぎない。
俺たちの最終目標は──サルーインだ」
堂々と宣言してみせるグレイに、ジャミルは頭をかく。「いや、そりゃそうなんだけどさ・・・
サルーインってこれまでも何度かやり合ったけど、正直デスとかシェラハとかジュエビの方が全然強いっていうか」
「そうじゃない。一番最初にヴィクトリーにも言ったはずだ。
俺が目指すもの、それは完璧なサルーイン・・・
つまり、デスティニーストーン10個を全て捧げ、最強を誇る真・サルーインだ」
全員が水をうったようにしんとなり、グレイの話に耳を傾ける。やがてジャミルが口を開いた。
「そ、その真サルーインってのは、どれくらい強いんだ? 今までの周回で俺たちが戦ったヤツとは・・・」
「比較にもならん。簡単に言うとHPは通常の3倍、能力値も通常の3倍、攻撃回数も通常の3倍だ」
「そんなのに勝てるの? 私たち。しかもせっかく集めたデスティニーストーンも全部捧げるって・・・
さすがに、おじいちゃん達に申し訳ないよぉ」
「勝てるのか、じゃない。勝つんだ。そうしなければ、俺たちの戦いは終わらない。
ミルザの時何故サルーインが完全に封じられず、今復活したと思う? 当時はデスティニーストーンを使って倒したからだ。
石を全て捧げ、最強となったサルーインを叩き潰せば、今度こそヤツは復活不能になる」
「・・・グレイ。もっともらしく言ってるが、あまり妙な設定でっち上げると読者さんが本気にしかねないからやめてくれないか?
つーか、エルマンどこ行った?」
ジャミルがきょろきょろと辺りを見回したが、そこにいたはずの黄色い帽子の糸目の姿は既にどこにもない。そしてジュエビ開戦以降ほぼ喋っていなかったダークが、初めて口を開いた。「・・・逃げたぞ。さっきお前が『通常の3倍』を連発したあたりで」
「逃げたぁ!?」ジャミルとアイシャが同時に叫んだが、グレイは相変わらずだった。
「なるほど、脱走か。戦いを嫌悪し仲間と諍い脱走事件を起こす、これもまたガ○ダムだ」
「んなこと言ってる場合か! とりあえずウエストエンドに戻ろうぜ、多分エルマンも戻ってるはずだ!」
──エルマンがパーティメンバーから外れた。
真サル激闘編〜やめてよね本気を出したらサルーインが僕に(以下略)〜へ つづく。
|