ジュエルビースト御柱戦inクジャ男子3人旅編

 

ほぼ実話プレイ日記SS風第8弾。
初の人数制限。ジャミル・ダウド・エルマンのクジャラート男子3人組がジュエビに挑む!!
毎度のことで申し訳ありませんが、くれぐれもジュエビ攻略の参考にはなさらぬようご注意願いますorz

 

 

「で? その後はどうしたんだよ」
平和そのもののウエストエンドパブ、その隅っこで。
バーバラに連れられて南エスタミルからはるばるニューロードを遡ってきたジャミルは、テーブルに突っ伏したまま滝のような涙を流し続けるエルマンを前に、呆れ果てるしかなかった。
「うぅうぅう・・・・・・いくらクイックタイムを使って楽をしたとはいえ、もう真サルの顔拝むのはこりごりですよぉ」
「だから、愚痴ってばっかじゃ分かんねーだろ!? おめーのウコムの鉾で、シフは満足したのかしないのか!?」
「・・・・・・兄さんその言い方マジでやめてもらえます? 誤解を招きかねないんで」
黄色い帽子の会計係は面倒そうに頭を上げると、大きくため息をつく。「こうして私らがここに戻ってこられたということは、満足されたんでしょ。クイックタイム祭りで20回ぐらい真邪神様をぶっ潰してやっとですけど!!」
「おーおー、お前も強くなったもんだねぇ」
「でも、時間もまた巻き戻ってしまった。この場所にね」ジャミルとエルマンの会話に、踊りを終えて汗を拭きつつバーバラが割り込んだ。その胸元には例の宝石──アメジストが輝いている。「真サルーインを倒すのにかかった時間はだいぶ短縮されたはずなんだけど、それでも駄目だったってことは・・・・・・」
「もっと短縮しろとか言わんで下さいよ姐さん? あれ以上は無理無理ですってぇ」一番最初に詩人からアメジストをもらった時は、戸惑うバーバラを尻目に小躍りして喜んでいたはずのエルマン。その彼が、今やもう呪いの魔石でもあるかのようにアメジストを睨みつけている。
さらにそこへ、歌い手の少女ナタリーもやってきた。「この前バーバラも言ってたけど、結末にまだ満足していない人がいるとかじゃないかな? みんなが納得しない限り、世界は元に戻っちゃうんでしょ?」
「そのみんなって、抽象的すぎてどこからどこまでを指すのか今の状況じゃサッパリなんですが。世界中の人間、とかだったら絶望的なんですけど」
「さすがにそれはないと思うな」バーバラがふと微笑んだ。「あくまであたしの勘だけど、エロールはそこまで極悪な神じゃないよ。というか、世界中の人間が満足したかどうかなんて判断出来るような力はないと思う」
「だとしたら・・・・・・」ジャミルは腕組みしつつ考える。「エロールに選ばれた人間のうち誰かが、まだ満足してないって考えるのが自然だな」
「そいつも一体、どこからどこまでを指してるんすかねぇ」エルマンはまだぼろぼろと糸目から涙をこぼしつつ愚痴る。「私と一緒に旅をされた方は、全員納得されて結末を迎えたと思ってるんすけど」
「でなきゃ、そもそもここに戻ってこられないもんな。
だとしたらまず俺、バーバラ、シフ、ホーク、グレイ、アイシャ、クローディアは候補から外れる」
「何スかその選定基準」
「エロールに「君がここまで来ると信じていたよ」とか何とか言われたヤツのうち、ジュエビを封印してなおかつサルーインを倒した奴だよ。あとはそのお仲間もだな」
「じゃあ私は真っ先に候補から外れますね。あとはジャンさん・ディアナさん・ファラさん・ゲラハさん・ラファエルさん・ハゲさん・財務大臣・ミリアムさん・親分さんも・・・・・・」
今までの仲間を指折り数えていたエルマンだったが、ふとその指が止まる。
「どうした?」「いえ・・・・・・あの、ダークさんはどうですかね?」
「確か一度、アルドラに戻したことがあったよな? その時アルドラはちゃんとサルーイン戦までついてきて、成仏したはずだ。お前も見たろ?」
「そうですけど、アルドラさんじゃないダークさんの方は? 彼はまだサルーイン戦には・・・・・・」
「うーん、そこまで考えてたらやっぱりキリがないぜ」ジャミルは天井を見上げながら呟く。「誰かが満ち足りたら誰かが満たされなくなる、そんな状況なんかいくらでもありうるしな。お前自分でいつか言ってただろうが。
それに今上げた以外に誰か、まだ見ぬお仲間がいる可能性だって十分ある」
「それにエルマン。今までの仲間が全員『真』サルーインを倒したわけじゃないだろう? 現にあたしはまだ、真の邪神様から白星を頂戴してないわよ」
「うぅうぅうそれはその可能性だけは姐さんやめて下さいぃ、それこそキリがなくなっちまいますよぉ!! 私しゃあと何度、腐竜に吹っ飛ばされてジュエビに叩き潰されて真・邪神様に握手されなきゃならんのですか!!」
エルマンはまたもやテーブルに突っ伏して泣き出してしまった。「そもそも何で毎回毎回私ばかりがこんな目に!? 皆さん何で当たり前のように私をこっから拉致したが最後いいように使いたい放題、もうカンベンしてください!!」
「しょーがねぇだろ、でなきゃお前このパブごとジュエビにぶっ潰されちまうだろうーが!」
「そいつはジュエビ封印までの話でしょー!? 真サルまで引っ張りまわすのホントやめて下さいよ!!」
「ジュエビ封印したところで、サルーインが復活する段階になったらここだってまたモンスター湧き上がっちまうの分かってるだろ!! ミニオンどもの話を聞く限り、エスタミルを襲うのはどう考えたってニューロードからのモンスターどもなんだよ! そうなったらお前・・・・・・」
「ジャミル! やめなってば」思わずテーブルをぶん殴るジャミルを、バーバラが抑えた。マスターを含めたパブの人間たちの眼が何事かとばかりにじっとこちらに向いている。そんな彼らに向かって、バーバラは笑顔を作って見せた。「あらあらもう嫌ねぇ、ウチの男どもってば酔うとろくでもない冗談ばっかり。気にしないでね♪」
緊迫した空気が少しばかり緩んだのを確認し、バーバラはエルマンとジャミルをとりなす。「全くもう。エルマンもいい加減愚痴はやめなさいよ」
「・・・・・・」エルマンはとうに空になったグラスを無意味に撫でまわしながら、ふとバーバラとジャミルの二人を見上げた。「あの、姐さん兄さん。ひょっとして・・・・・・」
「何だよ?」「あ、いえ! 何でもないす。言うだけ野暮ですよねぇ、ヘヘ」
「?」バーバラは少しだけエルマンの様子が気になったものの、とりあえず話を先に進めた。「ジャミル。あんた、何か作戦があるって言ってたろ? さっさと話してみたらどうだい」
「そーだな」ジャミルは改めて腕と足を組み直しふんぞりかえると、得意げに鼻を鳴らす。「まだ結末に納得してない仲間の存在、確かにそれもあるかもしれねぇ。ただ、可能性は高いとはいえそいつもあくまで仮説にすぎない。俺の考えはまた別だ」
「兄さんの考え?」
「俺たちは今まで、常に5人で行動していた。まー10人20人連れていけりゃ超絶楽だったんだが、ジュエビやサルーインのところに潜入するにゃ5人が限度だったからな。だけどさ、ジュエビやサルーインは1人だろ?」
「ジャミル、ちょっと待って。あんたまさか・・・・・・」
「そのまさかだ。神様相手とはいえ、さすがに5対1は卑怯だったんじゃねぇかってな。
だから今回はちょっとばかし人数を減らす──3人だ。俺と、エルマンと、あと一人」
「ジャミル・・・・・・!」「悪ぃがバーバラ、あんたは連れていかねぇぜ。
今回は俺のターンだ。俺がエスタミルから出て動く以上、絶対に外せない奴がいてな──今回はそいつとエルマンと俺でいく。
どうだ、エルマン?」
ジャミルはとうに覚悟していた。エルマンからの猛抗議を。
天地を揺るがすほどの泣き喚きが来るか、それとも法外な額の請求が来るか──バーバラも同じことを考えていたようで、慌ててエルマンを見る。
だが意外にも彼はじっと座ったまま、静かにジャミルの話を聞いていた。そして糸目を少しだけ開いて呟く。「奇遇ですねぇ。
ちょうど私も少し前、似たようなことを考えてましたよ」
思わぬエルマンの一言に、バーバラとナタリーはふと思い出す。「エルマン、もしかして・・・・・・あの時」「みんなが操られた時のこと?」
ジャミルだけはぽかんとしてエルマンを眺めていた。「何だよ、それ?」「あー、兄さんにはまだちゃんとお話してませんでしたっけね。詳しくは前々回参照スよ。
真サルと戦った時・・・・・・私以外の全員がアニメートされちまったんです」
「そいつァまた、絶望的すぎる状況だな」
「その時私は考えました。私一人の力だけで、どこまでやれるか。
ループ脱出の条件がもし、仲間の人数を減らすことだった場合──どこまで邪神様に抗えるかをね」
「なるほど」バーバラは納得したように頷く。「あの時あそこまで粘ったのは、そういう意味もあったんだね」
「人数制限の可能性が恐ろしくて、今までは口に出すことさえ憚られたんすけどね。兄さんが先に言ってくれたんで、腹くくりましたよ」
「で・・・・・・どうだったんだ? その結果は」
「勿論、惨敗ですヨ」エルマンは帽子の後ろで腕を組みながらカラカラ笑い飛ばした。「でもまぁ、どの程度行けるかぐらいは分かりました。3人いれば、どうにか行けそうな気がしてます。1対5にされるよか、よっぽどマシですヨ。あとこれ」
エルマンは懐から、帳簿とは別の手帳を取り出して見せた。そこにはジャミルにもバーバラにもナタリーにも謎な計算式やら数字やらがびっしりと書き込まれている。「これだけ何回も邪神様相手にしてりゃ、ある程度あちらの行動の法則は見えてきちまうモンです。例えば、絶対にゴッドハンドを使ってこない瞬間とか、確実に剣の雨が来るタイミングとかは分かってきています。そこをうまくつけば、3人でもおそらくどうにかなります。よっぽど頭を使わんと無理ですが」
「エルマン・・・・・・お前、強くなったなぁ!!」ジャミルは感極まって、エルマンの両手を握りしめる。目まで潤ませるジャミルに、思わずエルマンは呟いた。「うわ、何スかこの人。気持ち悪」「聞こえるよ、エルマン」
ナタリーの突っ込みを聞き流しつつ、エルマンは静かに尋ねる。「ただ──兄さん。確認してもいいスか」
「何だよ?」「3人旅というのは、最初から最後までですよね。真サル戦だけ3人、ってこっちゃないスよね」
「当たり前だろ」「そして今回も勿論、ジュエルビーストは封印するんですよね?」その手と声が少しずつ震えだす。
「当然だろ。3人だけでジュエビ討伐、やってやろーぜ!!」
テーブルの上に片足を乗っけてガッツポーズを取ってみせるジャミルに、思い切りエルマンは突っ込んだ。「無理ですぅっ!!!
絶対に無理無理ですっ、3人だけでどーやって柱や御本尊と戦おうってんですかあぁあああああっ!!!!」
ジュエビの話題を持ち出した途端、エルマンの堂々たる自信たっぷりの態度は一瞬で崩壊した。「3人目がよっぽど強い人でない限り無理っすよ、どーすんスか、今からパイレーツコースト行って親分でもゲットしてくるんスか!?」
「言ったろ、もう3人目は決めてるしここにも連れてきてる。そしてそいつは親分じゃねぇ。
大丈夫さ、真サル相手にそこまで戦えたお前ならジュエビだって楽勝だって」
もはやエルマンは恥も外聞もなく両腕を振り回して抗議しまくりだ。「あのねぇ兄さん! 真サルと違ってジュエビは時間的余裕が全然ないのご存知でしょ!? ゴールドマインで延々修行ってワケにゃいかんのですよ!!」
「あーもうエルマン落ち着いてよー、グラス引っくり返ってるよー」
「はぁ・・・・・・ちょっとはカッコいいトコ見せるようになったと思ったらこれだからねぇ」
わたわた騒ぎまくるエルマン相手に、ジャミルは余裕を崩さない。「大丈夫さ、そろそろ来るころじゃねぇかな?」
ジャミルがそう言いつつパブの入り口に視線をやった瞬間──そのドアが、突然開いた。泣き声と共に。
「うわぁあああジャミル〜〜!! こんなトコでおいらを置いてかないでくれよぉお、おいらとは絶対離れないって約束だったじゃないかぁあ〜!! って、うわああぁっ」
ぽかんとする一同の前に駆け込み、挙句にすっ転ぶ一人の少年。ジャミルは悠々と彼のもとへ歩みよると、その腕を掴んで立たせた。
「紹介するぜ。俺のダチで今回の3人目、ダウドだ」



「ねぇジャミル」
「何だよ、ダウド」
「エルマンがさ、全然口をきいてくれないんだけど・・・・・・おいら、何かしたかな」
ヤシ村へ向かう馬車の中。ダウドとジャミルは荷台で寝そべりながらゴトゴト揺られていた。ジャミルはそれには直接答えず、馬を御しているエルマンの背中に声をかける。「おーい、エルマン。いい加減機嫌直せよ、俺だって馬鹿じゃねぇ。ちゃんと作戦ぐらい考えてるんだから」
「・・・・・・」
「ダウドのことだって、知らない仲でもねぇだろ? だいぶ前の周回で、一緒にジュエビ退治したじゃねぇか」
「あの、ジャミル。ちょっと気になってたんだけど」そこでダウドはおずおずと割り込んだ。「その話って、一体何のこと?
おいら、ジュエルビーストなんて見た覚えもないし、そもそもエスタミルから出た覚えもないんだよね」
「・・・・・・やっぱりか」ジャミルはしばらくダウドの顔をじっと見ていたが、やがて一つため息をつく。「エルマンに会った覚えは?」
「よく分からないけど、多分初対面なんじゃないかな・・・・・・だってあの顔、一度見たら忘れるはずないよね」
「誰が不細工の糸目出っ歯小男ですかい!?」ダウドの呟きにエルマンは背中だけで応えた。馬に思い切り鞭を入れながら。「一言多いのは相変わらずですねぇ、ダウドさん」
「そそ、そんなこと一言も言ってないよぉ!? ってか、エルマンおいらのこと知ってるの?」
「知ってるも何も・・・・・・ったく」



ヤシの洞窟前。
ダウドを一旦馬車で待たせておき、エルマンはジャミルを詰問していた。「どういうことなんです? ダウドさん、確かに以前一緒にジュエルビースト退治したはずっすよね? なのに」
「また推測になるが」ジャミルは考え込みながらぽつりぽつりと話す。「覚えてるだろ。
あの後の周回で、あいつは一度死んでる。俺が殺してな」
「あ・・・・・・」唇を噛むジャミルの横顔を見ながら、エルマンは黙る。ジャミルの痛恨の記憶──
最高の親友であったはずのダウドがアサシンギルドによって洗脳され、やむなく手をかけるに至ったあの時の記憶。思い出したくもない事件だった──ジャミルは勿論、エルマンにとっても。
あの後ジャミルは最強の武器を入手するために殺人事件まで引き起こし、冥府にまで行って死の神デスまでもを倒してしまった。それだけでなく、闇の女王シェラハや四天王までも次々に叩き潰していった──
世界を救う為でも何でもない。逆に、ダウドを奪った世界を破壊せんとするかのように。
「覚えてるか。デスをぶっ殺す直前に、俺がダウドを蘇らせろって頼んだこと」
「・・・・・・はい」
「確かにあいつは蘇った。蘇ったけどさ」
エルマンは覚えている。あの時の一部始終を全て。
ダウドは確かに生き返ったのだが──「俺のこと、完全に忘れてやがった。いや、忘れるだけならまだマシだ。
俺のことをジャミルだって認識出来なくなってた。そうだったな」
「・・・・・・」エルマンは小さく頷く。その結果ジャミルは荒れ狂い、死神を叩き殺してしまったのだ。
「あの時はマジで頭がおかしくなるかと思ったぜ。ジャミルがいなくなって寂しいとか、あいつ俺の顔見ながら言うんだもんなー」
ジャミルはわざと声を上げつつ笑ってみせたが、エルマンはつられなかった。「じゃあ、その時の影響でダウドさん、それまでの周回の記憶も吹っ飛んでる可能性が?」
「かもな。現にお前はちゃんと、ジュエルビーストに殺された時の記憶はあるんだろ?」
「えぇ、まぁ・・・・・・こんだけ周回重ねてると正直記憶薄れかけとりますが、全くなくなるなんてこたぁないスよ」
「だろ? 多分だが、デスによって蘇生させられた時は、それまでの記憶が飛んじまうんじゃないかって俺は思ってる。でなきゃお前、あのハゲのおっさんに出会った瞬間殺されちまうぞ」
「ハゲ? あぁ、ガラハゲさんのことっすか。
・・・・・・そ、そういやそうですねぇ!! 私、兄さんがハゲさんをぶっ殺した現場にしっかり立ち会ってましたし!
いつだったかバーバラ姐さんと一緒にハゲさんをお仲間にしたことがありましたが、もし覚えられてたら私叩き殺されてたはずっすね。つか、その後の周回でも確かグレイさんがハゲさんをぶっ殺してその後デス様に蘇生してもらってたんですが、あの後ハゲさんとお会いしても特に何も言われなかったのは──そういうことなんすかね」
「多分な。そういうわけだからさ──ダウドのこと、怒らないでやってくれよ」
「いや、別に私しゃ怒ってたわけじゃ。またダウドさん連れてきてしかも3人旅とか、兄さんが一体何考えてるのか分からなかっただけっす。ダウドさんて、私以上にヘタレな方ですからねぇ」
「お前何気に酷いこと言うよな・・・・・・確かにそうだけどさ。
でも、考えてみろ。
サルーインを倒した記憶ごとリセットされてるってことはだ、あいつも『まだ結末に納得してない』仲間ってことになるかも知れないぞ。つーことは、あいつを連れてサルーインを倒せば!」
エルマンはうーんと腕組みして考え込む。「確かに信憑性は高いすが・・・・・・それ、個人的にゃ少々御免こうむりたい仮説ですねぇ」
「何でだよ」「だってですよ? ダウドさんがそうだとすれば、ハゲさんだって同じってことになるでしょ」
「あっ」「あ、じゃないですよ! 今回は3人旅だからハゲさん入れられませんし、そうなったら今回サルーインを倒せても、ハゲさん仲間にしてもう一度同じこと繰り返さにゃならんでしょ」
「そっかぁー・・・・・・」自分のうっかりに気づき、ジャミルは思わず頭をかく。「ダウドが最後のカギなんじゃねぇかと俺は思ってたんだがなぁ。読み違えたか」
「あ、あの兄さんそんなに落ち込むこたないすからね? 人数制限についても試す価値はあると思ってますし、ダウドさんについても同じっす。まだ数多く残っているパズルのピース、その一つである可能性は高いと思いますヨ」
慌てて自分を励ましてくるエルマンの糸目を見ながら、ジャミルの表情も何故か緩んでいた。「何だかんだでお前、やっぱ強いよなぁ」
「は?」
「これでも俺、お前にゃ感謝してんだぜ。
ダウドがあんなことになってあんだけ荒れてた俺に、ずっとついてきてくれたもんな」
「いや、ですからそれは・・・・・・」ジャミルの言葉に、エルマンの頬が少しだけ赤くなる。
「金の為、か?」
「そそ、そうっすよ! 馬車代食費光熱費宿代その他もろもろ、結局最後まで返していただけてなかったですしねぇ!
しょーがないから私もデス様やらシェラハ様やらとまでお手合わせするハメになって!」
「それでも俺はすげぇと思ってんだぜ? お前のこと。
金の為だか愛の為だか知らんが、あのクッソ弱かったお前がここまで何度もジュエビやら真サルやらと渡り合えるようになったそのド根性、尊敬に値すると俺は思うね」
「兄さん・・・・・・
んな調子のいいこと言って馬車代ちょろまかそうったって、そうはいきませんからね?」
紅くなった顔を隠すようにエルマンはぷいとそっぽを向き、腰に手を当ててふんぞりかえる。「それから! 
今までの周回の兄さんの借金、チャラになったわけじゃありませんからね。忘れんで下さいよ!」
「へっ!?」思わぬエルマンの一言に、ジャミルは目を剥いてしまう。「ちょ、冗談じゃねーぞこの銭ゲバ野郎!! 時間が戻っても借金がチャラにならねぇってどーいう理屈だコラ!!」
「まー、単なる傷薬代とか形あるものに対する借金はチャラにして差し上げます。
ただ残念ながら、料理洗濯掃除などのサービスとか、LPを散々いいように使われた精神的苦痛の類への対価っつーのは時間が戻ったところで消えるモンじゃありませんからねぇ〜フヘヘヘヘ」
顔面いっぱいに不気味な笑みを浮かべつつ、エルマンはジャミルににじり寄る。ジャミルはその黒い笑いに圧倒されかけつつも必死で抗弁した。「けっ、馬鹿野郎。
借用証書も契約書も領収証も、金の貸し借りに関する証明が全部0に戻って消えちまうってのに、どーやって借金を証明するっていうんだよ? てめーの帳簿でだけ計算したなんて言ったところで何の意味もねぇぞ」
「んなこたぁ先刻承知っすよ。私を誰だと思ってるんですかい?
ちゃぁんと他に、きっちり合法的に兄さんの借金を証明していただける方がいらっしゃいますんでねぇ」
「はぁ!? ・・・・・・ふふん、さてはエロールにでも頼んだってか? 言っちゃなんだが、大してアテにゃならんと思うぜ」
「ハハハ、まっさかぁ。あんな煙巻き神様にこんな重要なことをお願いするわきゃないじゃないっすか、私が言ったのは──」
そんな会話を突然中断するが如く、馬車の方向から金切声が轟いた。「ぎ、ギャアアアアアア!!!! たたたたたたた助けてジャミルうぅううう、ごごごごごごゴブリンが、ゴブリンがゴブリンの大群があああああ!!!!」
「だ、ダウド!? 畜生、ちょっと目を離したスキに!」
脱兎の如く駆け出すジャミルに、大きくため息をつき仕方なくそれを追うエルマン。「あ〜あもう、前も確か最初こんな感じでしたねぇダウドさん・・・・・・どうなることやら」



そして色々あって数日後。
「ギャアアアア!! く、来るな来るな来るなぁあああああ、おいらは狙わないでーーー!!!」
カクラム砂漠奥の廃墟にて、バガーとの戦闘中に必死でダウドは弓を振り回していた──その結果。
「兄さん・・・・・・あの人今、号泣しながら弓滅多打ちしてクイックチェッカー閃きましたぜ」
呆然とするエルマンの背後で、ジャミルはフフンと鼻を鳴らす。「恐怖心・・・・・・それがダウドの最大の武器だ。
恐怖とは即ち、全力で自らを護ろうとする意思の裏返し。ヤツの真価はそいつが発揮された時で」
「あぁ、そういやそうでしたね。いつだったかの周でイカと出くわした時、真っ先にザップショット閃いてましたっけあの人」
「だろ? 俺がダウドに拘るのは決してお情けなんかじゃねぇ。ちゃあんとあいつの強さも計算済みなんだよ」
ダウドのクイックチェッカーで見事に動きを止められたバガーは、エルマンのろばの骨を喰らって粉砕される。力尽きて沈黙していくバガーを前に、ダウドは腰を抜かして泣き出してしまった。
「うわぁあああジャミルぅ、おいらもうこんなのヤダよ〜! ディステニィストーンが欲しいなら一人で行ってくれよぉ、何でおいらまで巻き込むんだよぉ〜!!」
「何だかんだで生き残ったんだから、いいじゃねぇか。タイラント道場が楽しみだぜ、なぁエルマン」
「いや兄さん、私ダウドさんの気持ち滅茶苦茶分かりますけどねぇ。全くもう・・・・・・」ぶつくさ言いながらもエルマンはダウドの元へ走っていく。その背中を見ながら、ジャミルはバーバラの言葉を思い出していた。
──そういえば、あの二人って・・・・・・あたし達がどこかで選択を間違えていたら、二人ともいなくなってたのねぇ。
──いや、実際に二人ともいなくなっちまった時ってのもあったはずだぜバーバラ。それが何の因果か、こうして二人とも無事でいる。
──それだけは、神様に感謝しないといけないかもね。今の状況はともかくとして。
泣きじゃくるダウドに対して、見るからに面倒そうながらもいつもの大仰な身振り手振りでエルマンは何とかダウドを励まそうとしていた。そんな二人を見ながら、ジャミルは笑う。「何だかんだで、いいコンビになれそうじゃねぇかお前ら」



「で? どうするんです?」
「どうするって?」
「とぼけんで下さいっ、柱戦のことですよ!!」
さらに数日が経過したのち、タルミッタの宿屋でエルマンはジャミルを責めたてていた。「いつもとは状況が全然違います、5人でやってもギリギリな柱戦が今回は3人て・・・・・・
もぉ、考えただけで気が滅入っちまいますよぉ」
両手で頭を抱えながら騒ぎ立てるエルマンに対して、ジャミルは冷静だった。ベッドに寝そべりながら呑気に脚を組み替える。「んなこたぁ百も承知だ。その為にお前は今回、ねんがんの重装兵にしてやってさらに装備も揃えてやったんだからな! どーだ、この高待遇」
「私のオトリ役前提で話進めるのはやめていただけます!? それに、装備を揃えられたのは私が雪原でせっせと稼ぎまくったおかげでしょ!!」
「オトリ役って、言葉が悪いぜエルマン。今のお前ほど最前線に相応しいヤツはいないじゃねぇか、アーマーブレスに錬気が入った重装兵があれだけ強いとはなー。タイラントの破砕流を5発も耐えたし、タイニィフェザーの攻撃一切受け付けなくなっちまったのは驚いたぜ。おかげでこっちは泣く泣くリセット・・・・・・」
「に・い・さ・ん? 私しゃ真面目に話しているんですが?」暗黒のオーラを身体中から発しながらろば骨を構えるエルマン。そんな彼を前に、ジャミルは慌ててぴょんと飛び退いた。「おいおい怒るなよ! 大丈夫だって、俺だって作戦ぐらいちゃあんと考えてるんだから」
言いながら彼は鼻を鳴らしつつ説明を始める。「いいか、今回の柱戦は簡単だ。俺がオーヴァドライヴして火の鳥を撃ちまくるだけだ」
「えぇ? 兄さん、もうオーヴァドライヴ使えるんですかい!?」
「当たり前よぅ。その為に俺は密かに知力もBPも伸ばしてきたんだぜ、しもべ狩りで散々リセットして・・・・・・って、ゴホン」
「そ、そいつは素晴らしいっすが・・・・・・
オーヴァドライヴ後の火の鳥は炎のロッドで何とかなるとして、問題は兄さんのBPが貯まるまでっすね。流石の兄さんでも、最初からオーヴァドライヴして火の鳥5連発は無理でしょ?」
「そこは聖杯か、もしくは作っておいた妙薬で補充するしかねぇだろうな。つまりそれまで、俺は耐えないといけねぇ。
その為にエルマン、お前にゃ頑張ってもらうぜ! 重装兵レベルファイブ様よぉ」
「はぁ。やっぱりまた私、オトリ役っすか・・・・・・」大きく肩を落としつつエルマンは部屋の隅にその糸目を向ける。ベッドの陰に隠れるようにしながら、ダウドが膝をかかえて震えていた。「ねぇジャミル、おいらもうヤダよぉ・・・・・・柱戦って何だよ、もう」
「ほらダウド、しっかりしろ」ジャミルがいつものことと言いたげにダウドの腕を引っ張り立たせようとする。「お前の必殺クイックチェッカーが今回の鍵だ、お前がどれだけ腐竜どもの動きを止められるかにかかってんだからな!」
「だから何だよ腐竜って!? おいらこのタルミッタまで出てくるのも初めて同然なのに、なんでフロンティアみたいな地の果てまで行って化物退治なんかしなきゃいけないんだよぉお!!??」
「何度も話しただろ、ジュエルビーストとその柱を倒さないと、フロンティアどころかエスタミルだって危ねぇんだ!」
「だったらおいらじゃなくて、他の強い奴に頼めばいいだろぉ!? おいらをエスタミルに帰してくれよ!!」
「駄目だ」ダウドを見おろしていたジャミルの表情から、不意に笑みが消える。「それだけは、絶対に駄目だ」
「何で!」涙を隠しもせずに訴えるダウドを、ジャミルは突き放す。「今お前だけがエスタミルに戻れば、お前は死んじまう」
「だから、何でだよ! わけが分からないよ!!」
「ちょ、ちょっとちょっと兄さん!」一触即発の大喧嘩寸前の二人の間に、エルマンが割り込んだ。慌ててジャミルをダウドから引き離したエルマンは、小声で尋ねる。「カンベンしてくださいよ兄さん。もしかしてダウドさんには、詳しいこと何も話してないんですかい? この無限ループのことも」
ジャミルはエルマンを見もせずに黙ってうなずく。呆れかえったようにエルマンは大きくため息をついた。「そんなんじゃダウドさん、納得するわきゃーないでしょ!! 理由もなくジュエビ退治しろって言われてハイって言う人がいますか!!」
「理由を話したところで、ダウドが信じるわけねぇだろ。記憶もねぇのに」
「決めつけるのはどうかと思いますぜ」
「エルマン。お前がこれまで何だかんだでジュエビ退治に付き合ってきたのは──お前に記憶があるからなんじゃねぇのか」
「・・・・・・!」いきなりのジャミルの言葉に、思うところがあったのかエルマンは一瞬口ごもってしまう。「いや、私は別にその、前にも申し上げたとおりですね、あくまで、良い商売の地を護る為で」
「確かにそれもあるかも知れねぇ。だけど俺の目をなめてもらっちゃ困るぜ、お前がここまでジュエビ退治やら真サルーイン打倒やらに付き合ってるのは、何といっても記憶があるからだ。
やらなければどうなるか、事実を身体で覚えているからだ。だから俺たちの話も納得できる。そうだろ?」
エルマンはそれには直接答えず、俯いてしまった。握りしめた両の拳がわずかに震えている。
──やっぱり、色々覚えてはいるんだな。滅茶苦茶になったウエストエンドやら、それに・・・・・・
「ダウドさんには記憶がないから、私らの話は信用していただけないと?」ジャミルの思惑をブチ切るように、視線を逸らしたままエルマンは呟いた。「そいつぁ、兄さんの考えすぎじゃないかと思いますがね」
「俺には分かるんだよ、何年あいつと付き合ってると思って」「しかしですねぇ兄さん、そばに居すぎるからこそ見えないことも・・・・・・」
だがそんな二人の間に、不意にダウドの言葉が飛んできた。「二人とも、勝手に話進めるのやめてくれよ」
見ると彼はもう座り込んではおらず、立ち上がってきちんとジャミルを見据えている。「悪かったよ、ジャミル。おいらはバカだけど、ジャミルの言うことが信じられないほどじゃない。
全然ワケが分からないのは確かだけど、でも、やらないと大変なことになるんだろ? 二人の様子見てれば分かるよ」
「ダウド・・・・・・お前、やっとやる気になったか!」
ダウドは仕方なさげに小さくこくりと頷いた。「ただ、約束してほしいんだ。
ジュエルビーストってのを倒したら、その、二人が隠してること、全部話して。
どんなことだって、おいらはジャミルの話なら信じるから」
「ダウド・・・・・・分かったよ」弟分の思わぬ言葉に、ジャミルは首を縦に振らざるを得なかった。ふと横を見ると、糸目の会計係がニヤニヤ笑いながら指で丸を作っている。『ね?』とでも言いたげに。
妙にムカついたジャミルは思わずその頭をぶん殴ってしまい──結果、ジャミルの借金は慰謝料がさらに上乗せされることになった。



そして何だかんだがあり、遂に3人はジュエルビースト御柱へ到着した。
まず1戦目──結論から言えば、ジャミルの作戦は大当たりだった。作戦だけは。
ダウドがクイックチェッカーを決めて腐竜の動きを封じ、エルマンが残りの腐竜の猛攻を受けながらも必死で盾になる。その間にジャミルは妙薬を飲み干し、見事にオーヴァドライヴ後の火の鳥5連発を決めてみせた。その結果、恐るべき力を誇る腐竜は4匹とも炎の中へ消滅した──が。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・へへ、ここまで簡単に腐竜を倒せるとはな・・・・・・ぐふっ!?」
直後にジャミルは息を切らし、倒れかけてしまう。その口からは大量の血が流れていた。
「ジャ、ジャミル!?」「兄さん!?」慌ててジャミルに駆け寄るダウドとエルマン。ジャミルの手にした炎のロッドを見たエルマンは、思わずその糸目を見開いてしまった。「ににに兄さんってば! 炎のロッド強化してなかったんですかい!?」
「な、何のことだよエルマン? 炎のロッド強化してないとどうなるの?!」
ジャミルの血を吸い込みに吸い込んだロッドは、3人の目の前で轟々と燃え盛っている。その若い命を思う存分吸い取ったとでも言いたげに。
それを見て軽く舌打ちしつつ、エルマンは説明した。「炎のロッドは持ち主の血を吸い取って初めてその力を発揮する、いわゆる術具です。だけどこいつは強化しておかないと血をそれだけ多く吸われてしまう、つまり兄さんは失血死寸前っつーことです!」
「えぇえぇえ!!!???」
激しく動揺するダウドを後目に、ジャミルはまだ笑っていた。その顔は目の下が真っ黒なクマで覆われ、明らかに死相が現れていたが。「へへへ、悪ぃな二人とも。俺としたことが、ヘタうっちまった・・・・・・こんだけ繰り返してるってのに、情けねェぜ。
だがまだ油断すんじゃねぇ、ラミアが残ってる!」
その言葉に、慌ててエルマンとダウドは振り返る。今まさにラミアの魔術が、3人に向かって放たれる寸前だった。
「ま、まずいよぉお! ジャミルが!」「大丈夫だ、俺ならダイアモンドとアメジストとムーンストーンがあるからラミアの攻撃なら耐えられる! 行け!!」
それを聞いたエルマンはエスパーダ・ロペラを構え、ジャミルとダウドの前に立ちはだかる。「ダウドさん、私にアーマーブレスを! 早く!」
「わ、分かった!」言われるままにダウドは術の詠唱に入ったが、悲しいかなラミアの方が遥かに速く──エルマンは魔のかぎ爪・ペインにまともに身体を裂かれることになった。「ぐぁ・・・・・・!」
既に腐竜のかちあげを3度喰らってふらふらになっていたエルマンの身体は、呆気なく倒れてしまう。ダウドの悲鳴。「う、うわあああぁあああ、もう駄目だ、こんなのもう駄目だぁああああ!!」
だが──その瞬間、癒しの水がエルマンに降りそそぐ。死にかけのジャミルが放った決死の水術だった。「まだだ、まだ諦めるのは早いぜ! さっさと立てよエルマン!」
起死回生のジャミルの術で、どうにかエルマンは再び起き上がる。「よっこらせっと・・・・・・ホント、人使いが荒いですよねぇ全く。しかも相変わらず愛のない癒しの水で」
「文句言うんじゃねぇ、この状況でまともにラミアにダメージを与えられるのはお前のロペラだけだ。ダウドも癒しの水、余裕が出来たらアーマーブレスをエルマンに!」
今にも倒れそうになりながら、ジャミルは二人に指示を出す。必死で共震剣をぶっ放すエルマンに、慌てて彼を回復するダウド。その間にも次から次へとエナジースティールにペインにエナジーボルトがダウドとエルマンに飛んできて、その度に彼らは倒れてしまった。それでも構わずジャミルは二人を回復し続ける──例え、自分にペインが飛んでこようとも。
何度目かに立ち上がった時にはもう、流石のエルマンの生命力も半分を切っていた。そこへまたもやラミアのペインが連続で飛んでくる。「ぎゃ!あ、あぁ・・・・・・!」
だが、今度ばかりはエルマンも耐えた。「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・これで、何とかいけますかね!」
両手にロペラを携え残りの力を振り絞り、エルマンは共震剣を繰り出す。凄まじい剣の暴風がラミアを襲い、相手は一瞬だけのけぞった──「ダウド今だ、エルマンを援護!」
「援護って、どどどどうやって!?」「何でもいい、エルマンを潰さないことだけ考えろ!」
ダウドは数瞬だけ迷ったものの、咄嗟に癒しの水の詠唱に入った。だが次の瞬間、ラミアが魔術の発動体勢を取る──
「ま、まずいっす! こりゃ・・・・・・」「まさか、ショックウェイヴか!?」
そのまさかだった。絶叫する間すらも与えられず、強烈な電磁波の嵐がジャミルたち全員を襲う。
生物を内側から破壊しかねないほどの磁力が大気全体を満たすこの究極の魔術は、ジュエルビーストの御柱を破壊しようとした者に対して容赦なく襲いかかるシロモノだった。腐竜の猛攻とこのラミアの魔術の前に、人々はその屍を次々と築き上げていき──それはジャミルたちとて例外ではなく。
気づいた時にはジャミルのすぐ横で、ダウドが黒コゲになって吹っ飛ばされていた。最早彼に抵抗する術はなく、そのまま後方の壁へと叩き付けられていく。アメジストを持っていたおかげでジャミル自身は無事だった──が、その身体は怒りで満たされていく。あまりの理不尽な力に対する怒りで。
何故、どうして、いつまで、俺たちはこんな目に遭い続けなきゃならない? この野郎・・・・・・
「畜生っ!! エルマンは!?」ジャミルは前方にいたはずのエルマンの姿を探したが、魔術の光に遮られて殆ど何も見えない。早く見つけて、すぐに癒しの水をかけなければ──
だが、ジャミルが渾身の力で水術を発動させかけたその時。
「これじゃ、割にあいませんよ! ったく!」魔力の嵐を突き破り、激しく高速振動するロペラの刀身がラミアに襲いかかる。ダウドと同じく、黒コゲになりかかった会計係の雄叫び(という名の愚痴)と共に。
そして、術の直後で無防備になったラミアに共震剣が炸裂し──甘く妖艶な吐息と共に、遂にラミアは昇天した。



「いや〜さっすが愛のある方の癒しの水は違いますねぇ! ショックウェイヴの寸前、ダウドさんが私に癒しの水をかけてくだすったおかげで全快もいいとこ、ショックウェイヴもギリギリ耐えられてマジで助かりましたよ! アレがもし兄さんの癒しの水だったらと思うと、おぉ〜もう恐ろしいですねぇ」
「そ、そう? そこまで褒められるとやっぱり嬉しいよ」
「ケッ。どーせ俺は愛の欠けた男だよ、全く」
1本目の柱を落とした後、ジャミルの回復と炎のロッド強化の為に一旦ウエストエンドへの帰路についた3人。全員ボロボロだったがジャミルの消耗は特に酷く、ダウドに肩を貸してもらわなければ歩けない状態だった。それでも軽口だけは忘れなかったが。
「だが俺の、命がけのオーヴァドライヴと火の鳥で腐竜は一掃出来たんだ、感謝しろよな」
煤だらけの顔もそのままに、エルマンはその大口から思い切り舌を出す。「命がけになったのはご自分のせいでしょうが。大事な大事な炎のロッド強化を忘れるとは、兄さんもバーバラ姐さんに負けず劣らずのうっかりですねぇ」
「全くいつまでもうるせぇ奴だなぁ、プレイヤーがプレイヤーなんだからしょーがねぇだろ!・・・・・・って、ゲフン」
「で、でも凄かったねエルマンの重装兵も。かちあげ3発もそうだし、あのショックウェイヴに耐えられるなんて思わなかったよ。おいらも出来れば重装兵にしてもらってフィールドアーマー欲しいな、なーんて・・・・・・」
決まり悪げにダウドは頭をかく。しかしエルマンは決してその意見を肯定はしなかった。「いずれダウドさんにも兄さんにもフィールドアーマーは装備していただくことになりますんで、その点は心配ないすよ。しかしですねぇ、重装兵もいざなってみると、そうそうラクじゃないんスよねぇ」
「そ、そうなの?」「へぇ、珍しいじゃねぇか。ついこの間までお前、重装兵が羨ましいとか何とか言ってたんじゃないのか」
「そりゃね、他のクラスだと一発でやられちまう攻撃をある程度耐え続けられるってのはありがたいッスよ。
でもそれはあくまで客観的に見た場合の話で・・・・・・実のところ、本来致命傷になりうるような強烈な攻撃を幾度も受け続けにゃならんってのはキツイっす」
「うーん、おいらはずっと羨ましいと思ってたけど、そんなもんなのかぁ」
「私も、他の方が重装兵やってらした時はそりゃあ羨んだもんですよ。だけど、ガラハゲさんやシフさん、ホークさんは実は我慢強いお方だったんだなぁって、自分でやってみて初めて分かりました。服もボロボロになっちまいましたしねぇ、修繕にいくらかかるやら」
笑いながら帽子の後ろで両手を組んで見せるエルマン。そんな彼につられてジャミルも笑う。「お前もやっぱり成長したよなぁ。こんなこと何度も繰り返してりゃ、そりゃあどんなアホだって成長するだろうけどさ」
「え、ちょ、アホってどーいうことッスか兄さん!?」「ま、どんだけ繰り返そうがそのアホ面だけは変わらねぇだろうがなー」「ちょっと兄さん、私の顔は剽軽ではありますがアホ面じゃありませんぜ! 訂正してくださいよぉ」「何がどう違うんだよ、剽軽面とアホ面と! わかんねーよっ」
そんな二人を横目で眺めながら、ダウドはふと呟く。「ねぇジャミル・・・・・・エルマン。
約束だよ。いい加減、話してくれてもいいんじゃないかな」
彼の言葉に、ジャミルもエルマンもふいと笑顔を消した。ダウドはそのまま続ける。「何回か聞いたけど、何度もこういうことを繰り返してるって、どういうこと?
ジャミルもエルマンも、ずっとこんなことを繰り返してるの? おいらの知らない間に・・・・・・どうして?」
それを聞いたエルマンは思わず不安げにジャミルを見上げる。どうしようか迷っている様子だったが、それでもジャミルは首を縦には振らなかった。「駄目だ。まだ駄目だぜ、ダウド」
「えぇえ!? 約束じゃないか、ジャミル!」
「お前、何か勘違いしてねぇか?
ひょっとして、今俺らが倒したのがジュエルビーストだとか思ってんじゃねぇだろうな」
「え? 違うの?」
「え、えええええ!!??」思わずエルマンは飛び上がってしまう。「違いますってダウドさん、散々説明したでしょーが!
私らが今倒したのはあくまで、ジュエルビーストを護る柱! 4柱あるうちの一つにすぎないんですって!」
「へ!?」ダウドはびっくり仰天してジャミルとエルマンを交互にきょろきょろ眺めるしかない。「あ、あれだけ苦戦したのに・・・・・・あんなのが、あと3つもあるってこと!?」
「正確には、ジュエルビースト御本尊にたどり着くまではまだ1つ別の、石獣軍団っていう難関がある。そいつらを倒して初めて、俺らはジュエルビーストのご尊顔を拝めるってわけだ」
「お、おいら・・・・・・そんなに大変なことだなんて、ちっとも考えてなかった」
あまりの事実に、ダウドは一気にしょげかえる。ジャミルに肩を貸していなければそのまま地面にへたり込んでいただろう。
「ていうか、あのーダウドさん、私ら戦闘中にも何度も何度も腐竜とかラミアとか言ってましたよね? 何でアレがジュエルビーストだと思い込んだんです?」
「腐竜の別名か、あいつらのグループ名がジュエルビーストなんだと思ってたんだよぅ。ごめん、おいらバカだから・・・・・・でも、そんなにたくさん強敵がいるなんて。
そうなったら、ジュエルビーストってのはどんだけ強いんだよ? あいつらより、ずっと強いのかよ? そんなの・・・・・・」
「大丈夫だってダウド」ぶるぶる震えだしたダウドをジャミルはいつもの調子で励ます。「心配するこたぁないぜ。エルマンはこれでもジュエビ退治のプロだ、俺とこいつに任せておけば、絶対に大丈夫だからな!」
「ハァ!? にに兄さん、勝手にそーいうこと言わんで下さいよ! ダウドさんもいなきゃー絶対に無理っすからね!」
エルマンの文句を聞き流しつつも、ジャミルはダウドの眼を真っ直ぐ見据える。そこには一点の曇りもおふざけもありはしなかった。
「そういうわけだから。お前にはまだ、全てを話すわけにゃいかない」
「ジャミル・・・・・・どうして?」
「ジュエルビーストを倒すこの旅で、お前は必ず見るはずだ。俺とエルマンがどう戦うかを。そして、どう戦ってきたかを。
そいつを見届けることが出来て初めて、お前は真実を受け入れられる──俺はそう思ってる」
そんなジャミルに、ダウドは一言も言葉を返すことが出来なかった。



クジャ男子3人ブラ珍マルディアス旅〜ジュエビ決着編〜へ つづく。


 


 

 

 

やっぱり長くなりました。ねんがんの、クジャ男子3人旅SSでございます・・・・・・
もっと軽い話にしようと思ってたら色々と最初からシリアス気味になってしまった。ダウドのあの話が入るとどうしてもそうなるかなorz
そしていよいよオリジナル設定が暴走気味に。またまた余計な設定(デス様に蘇生させられたら記憶が云々)がついてしまったけど大丈夫か私。


3人旅での柱戦ですが、とにかくBP最強のジャミル(ロザ術LV5)にオーヴァドライヴ→火の鳥5連発が出来るよう、しもべ狩りetcetcで色々調整しました。ダウド(海賊。LVは3か4だった)はひたすらドビーの弓でクイックチェッカー、エルマン(ロザ重LV5)はひたすらDモードで全員を護る。これで4本ともうまくいき、勢いで最後の石獣も何とかなりました(何気に次回のネタバレイクナイ)
上記SSではかなり苦戦したように書きましたが、4本やって苦戦した部分を抽出してちゃちゃっとアレンジした結果ですw 炎のロッド強化し忘れは勿論私のうっかりです。LP2まで減らしちゃってゴメンジャミル。
2本目以降はちゃんとガーラル強化後に挑んで特に難儀したところもなく。エルマンがラミアの術を受けまくってかなり可哀想なことになってたぐらいでしょうか・・・・・・城塞騎士もカッコイイですが苦難を耐え忍び続けるロザ重もいいな(鬼か)


あと、最後のダウド君のような勘違い・・・・・・リアルでも自分はよくやりますorz 専門用語の意味とかろくに聞かずに自分は分かってると思いこんでコトを進めてしまうような事態。仕事だとマジ致命的なので皆さんも気を付けましょうorzorz
武器強化とか、TモードとDモードの使い分けとかも、ミンサガにおいてすらいまだによく理解出来てない部分多いからなぁ。最速オーヴァドライヴ!なんつっていつも終盤じゃエルマン(中列)にウコムの鉾経由ODさせちゃってるけど果たして効率的な運用なのかどうか。


3人旅で一番の難所かと思われた柱戦は意外にあっさり終わりましたが、当然、問題は次のジュエビご本尊でございました・・・・・・次もえらいボリュームになりそうですorz

 

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