熱闘!!真サルーインinクジャ男子3人旅編
〜神様なんか信じない〜

 

ほぼ実話プレイ日記SS風第8弾続き続きの続き。ジャミル・ダウド・エルマンのクジャラート男子3人組は果たして真サルに勝利することが出来るか。
毎度のことで申し訳ありませんが、くれぐれも真サル攻略の参考にはなさらぬようご注意願いますorz

 

 

サルーインの居城、その最深部直前にて。
「よし……二人とも、今度こそ準備はいいな!!」
炎のロッドを手にしたジャミルは、意気揚々と拳を突き上げる。勿論、いつも通りボロクズ同然になったミニオンは放置されたまんまだ。だがダウドもエルマンも、最早ゲンナリという表情を隠せなかった。
「ねぇジャミル、いくら生き返れるって分かっててもやっぱりあのゴッドハンドはもうヤダよぉ〜」
「ですよねぇダウドさん、私だってもうアニメート喰らうのイヤですよ。リヴァイヴァ管理や与ダメ計算だって結構頭使うんですし、戦いながらだと面倒でねぇ」
「全くお前らは毎度毎度ブツクサブツクサ、今度こそ大丈夫だって言ってるだろうが」ジャミルはそんな二人の小言も、慣れきったとばかりに胸を張った。
「その為に俺は!
炎のロッドの強度を最高まで上げてきたんだからなぁ!」
「それ結構基本的な対策らしいっすけどねぇ。しかも姐さんの受け売り、それを堂々と威張られましても。
その上前回からここに至るまで、私ら何戦したと思ってるんですかい? なのに対策がそれだけって」
「うるせぇぞエルマン! ちゃーんと作戦も変えてきただろうが」
ジャミルは二人を見回しつつ、改めて腰に手を当ててふんぞり返る。「前回までは俺とエルマンがオーヴァドライヴ役だった、しかもエルマンはウコムの鉾経由でだ。
だが、最前列でのグランドスラム役はオーヴァドライヴ以上のダメージソースになる。柱も壊せるしな。で、俺たちのうちで一番グランドスラムを打ち慣れてるのはエルマンだけだ。
だから今回は俺とダウドがオーヴァドライヴ、エルマンはロザ重で柱をぶっ壊しつつ俺らを護る!!
……って、何度も説明しただろうが」
「分かってる、けどさ……」ダウドはこわごわと、まだ持ち慣れていないウコムの鉾に目をやった。「おいら、この鉾でオーヴァドライヴしなきゃならないんだよね……」
前回まではほぼエルマンの担当だった、術具経由でのオーヴァドライヴ。だが今回は敢えてダウドにその役を任せ、エルマンは護衛と柱壊しの役──そこに勝利の鍵があると、ジャミルは言い切ったのだ。
「そうだぜ、ダウド。
お前のLPはエルマンよりちょっとだけ低い程度だし、何回か術具でオーヴァドライヴしたところでどうってこたぁねぇよ」
横暴とも取れる口ぶりで、敢えてジャミルは言い放つ。「前回までから考えると、正直ダウド、お前護衛役には向いてねぇし。だったらずっと俺らを護ってたエルマンにろば骨でグランドスラム撃たせた方が効率的だ」
「そ、そりゃそうだろうけど〜!!」
「あっさり納得せんでくださいダウドさん、貴方バカにされてますぜ」
「でもおいらが護衛役なんて合わないのはホントでしょ!?」
「私だって護衛役なんて合わんですよ、そもそも私戦闘にゃ役に立たんって毎回あれだけ言ってるのにこのザマァでございますよ!!」
「おいらだって役に立たないって何度もジャミルに言ったよぉおおお!!」
「あーもー二人とも、この期に及んで役立たず争いしてんじゃねぇ!!」
ぐだぐだ言い続ける二人を、ジャミルは怒鳴り散らす。神との戦いの直前にする会話ではない。
「お前ら、ちったぁ自信持てよ。
あれから結構修行もしたし、だいぶ耐久力もついてきたと思うぜ? もはや、エロールなんぞに頼る必要はねぇ! 今の俺らの力だけで、真サルーインをぶっ倒すんだ!!
人間様の生命力、クズ神どもに見せつけてやろうぜ!!」
「はあ〜ぁ、三人中一番生命力低い御方が何やら言ってますぜ、ダウドさん。前回あんな酷いLP切れ起こしといて、全くしょーがねーですねぇ」
「う、うん……」
ジャミルの威勢をエルマンは鼻で笑ってみせたが、どうもダウドは浮かぬ顔だ。鉾を握りしめる両手はぶるぶる震えだしている。「ね、ねぇエルマン。やっぱり、ミイラの薬は持ってかないの?」
震えながらおずおずと尋ねるダウドに、きっぱりとエルマンは言った。「無理っす。皆さん手持ちの武器だけでいっぱいいっぱい。あの悪魔な攻撃をを出来るだけ凌げる装備もその中に何とか詰め込んでるのに、これ以上何かを持つなんてこたぁ出来ませんよ。
仕方ありませんが、LP回復に関しちゃやっぱり……」
「エロールに期待するしかないってことぉ!?」
最早泣き出す寸前のダウド。無理もない、とエルマンは同情を禁じ得ない。
中列からのウコムの鉾によるオーヴァドライヴが、真サルーイン戦で先手を取る上でかなり効果的であることはエルマンもとっくに分かっている。だが、彼自身は何度かそれをやって(やらされて)いい加減慣れているものの、他人に任せたことはあまりない。
数値上は、エルマンの生命力つまりLPは18。対してダウドのそれは17。たった1の差とはいえ、ほんの少しの差が真サルーイン戦では非常に重くのしかかってくることを、エルマンはよく知っていた。
それに加えて、エロールの働きぶりはあのていたらくである。
そのことはジャミルも分かっているはずだが──
「あの、兄さん……やっぱりダウドさんには!」
思わずエルマンはこの、妙に自信たっぷりの都会の盗賊を見上げてしまう。その不安げな糸目に気づいたのか、ジャミルはその笑みを消した。
「エルマン、念のため聞くぞ。
前の作戦──つまり、ダウドが城塞騎士でお前がオーヴァドライヴ役だった時の真サルへの与ダメージはいくらだ? 最大で」
「……53000も行ってなかったかと」
「だろ? んで、真サルーインのHPは90000超。
つまり、あの作戦のままじゃ俺たちは勝てないってことだ。柱を壊せる奴がいなきゃ、いくらオーヴァドライヴ役が頑張っても限界がある」
それを言われてしまうと、エルマンも何も返せない。
「……分かってくれ。
俺だって、一刻も早くこんなふざけたループ、終わらせてぇんだよ」



そして、もう何度目かになるやら知れない真・サルーインとの戦いが始まった。
オーヴァドライヴ役その1たるジャミルは、強度を上げた炎のロッドを駆使してひたすらリヴァイヴァと生命の炎を味方にかける。
オーヴァドライヴ役その2たるダウド。彼は前述のとおり中列に立ち、ウコムの鉾を経由してオーヴァドライヴを発動させ、最大まで強化したモーグレイとダークの剣で可能な限りの攻撃を行なう。
三人目──最前列に立つエルマンは、後の二人を護りつつろばの骨によるグランドスラムを放って神の柱を壊しまくる。
この作戦は中盤まで非常にうまく運び、心配されていたダウドも何とかウコムの鉾とモーグレイを操っていた。
そうしているうち、遂には──
「お、おぉおおおおおおおお!!? み、見ました兄さん!? ダウドさん今、モーグレイの一人連携完成させましたですよ!!」
「へへ、お前なんか前回それで天輪陣まで出してたろうが!」
ジャミルは突っ込みつつも嬉しさを隠せない。かつてジャミルの眼前で非業の死を遂げた弟分は今、最強の両手大剣でヴァンダライズとアッパースマッシュの5連携を放ち邪神と互角に渡り合っている。
そう、ダウドの力は本人が思っているよりずっと強い。LPだって俺よりかなりあるし、その気になりさえすればそこらの兵士なんぞより全然能力は上なんだ。本人の自信のなさがその力を隠してしまっていたし、別の時間軸ではその力が利用され、最悪の結末を招いた。
モーグレイで邪神の頭上を飛翔するダウドを見ながら、ジャミルは再びオーヴァドライヴの体勢に入る。今度こそ、今度こそダウドも、エルマンも、この地獄のループから助けてみせる。放置しておけば二人とも死んでしまう世界なんて、二度とごめんだ!
だが──邪神に大ダメージを与えつつ舞い降りてきたダウドは、がくりと膝をついてしまった。
「ど、どうしましたダウドさん!? まさか……」慌ててエルマンが駆け寄ったが、ダウドの顔面は既に蒼白だった。彼の血を吸い切ったウコムの鉾の切っ先は、その生命の代わりとばかりにギラギラ青く輝いている。
「だ、駄目だ……おいら、もう……」
「え、何でだよ!? お前まだ3回しかオーヴァドライブしてないだろ?」
「兄さん、ダウドさんの言う通りです。もう彼はオーヴァドライヴ不能です」
「だからどうして!?」
思わず声を荒げるジャミルを、エルマンは押しとどめた。「確かに机上の計算では、ダウドさんなら術具経由のオーヴァドライヴという無茶も5回は可能……
ですが、こりゃ真サルーイン戦です。しかもこちらは3人。突っ立っているだけでもLPが削れていく戦いなんです!!」
そう言われて、ジャミルは初めて気づいた。
真サルーインの術はそこらのモンスターの術とは全く違い、ダメージをそこそこ抑えることが出来ても生命力自体を削ぎ落していくことがある。第一形態でのオブシダンソードによる物理攻撃にしても同様──
邪剣と神の術の嵐を浴びせられまくった結果、俺たちの、ダウドのLPは一体どれだけ削られただろう。それを殆ど考慮に入れず、単純にダウドなら5回オーヴァドライヴ可能だと思い込んでいた。
どうする。どうする──このままじゃ、いつかのアサシンギルドの悪夢のように……


──いやだよ、死にたくないよ……ごめんよ、ジャミル……


「兄さん! しっかりしてください!!
まだダウドさんは生きてますってぇ!!」
エルマンに両腕を掴まれ激しく揺さぶられ、ジャミルは我に返る。眼前には、大ダメージから少しずつ復活を遂げようと邪気を噴出させるサルーインの姿があった。
「ダウドさんのLPは残り3を切っていますが、サルーインの残り体力も恐らく半分を切っているはずです。ダウドさんが護りに徹すれば、もたせられんことはないはず!!」
ここぞとばかりにエルマンは飛び上がり、ろばの骨を邪神の床に叩きつけた。グランドスラムと呼ばれるその衝撃波は邪神の足元に黒い亀裂を生み出し、起き上がろうとするサルーインをさらに二度、三度と貫き、さらに神を護る柱までもを破壊していく。
そんな強烈な技を放ち続けるエルマンの背中も、少しずつ息切れが激しくなっている。やがて邪神の掌から魔と炎と竜巻が一体化した術が膨大なエネルギー弾となって形成され、一気にエルマンに向けて炸裂した。
「うぁ、ぎゃああぁあああああぁ!! あ、あぁ……」
「え、エルマン!!」
真なる邪神お得意とも言える術法連携。それをまともに浴びたエルマンは激しい電撃の渦の中で絶叫する──ダウドの悲鳴。
もう、何度となく見てきた光景。
ダウドのLPだけじゃない。エルマンも恐らくあれでLPを減らしてしまう。俺たちの生命力は、凄まじい勢いで削られていっている──だったら!!
ジャミルはためらうことなく、オーヴァドライヴを発動させた。
まずは癒しの水で全員を回復。ここまではいつも通り──だが。
「もう一度だ! ここからの俺は、一味違うぜ!!」
オーヴァドライヴ中に再度オーヴァドライヴを行なったジャミルは、今度は炎のロッドを手にした。そしてちょうど解けていた自分とエルマンのリヴァイヴァを張り直す。さらに。
「炎のロッドを限界まで強化してたのは……この時の為だぁ!!」
真っ赤に燃えたロッドが唸りを上げ、サルーインを切り刻む。それは、小転とかすみ二段を組み合わせた一人連携だった。サルーインが悲鳴の如き雄叫びを上げるも、間髪入れずジャミルはもう一度オーヴァドライヴの体勢に入る。
「エルマン、攻撃だ! ここで怯んだら終わる、とにかく柱をぶっ壊せ!!」
「だ、ダウドさんはぁっ!?」
何とか回復してきたエルマンが叫ぶ。ジャミルは一瞬だけちらりとダウドを見て──告げた。「攻撃だ。モーグレイはもう使えないだろうから、変幻自在で攻めまくれ」
「だ、だけどそれじゃどうやってダウドさん身を護れば……」
ジャミルのオーヴァドライヴで回復出来たとはいえ、ダウドは最早ウコムの鉾にしがみつきでもしなければ立てない状態だった。ジャミルの言葉通り、モーグレイはボロボロに刃こぼれして使い物にならなくなっている。「し、死にたくない……死にたくないよぉ……」
そう呟きながらも、ダウドは懸命にダークの剣を手に取った。死にたくない──その想いだけが、今の彼を動かしている全てと言えた。
「大丈夫だ、こうなってからのダウドは俺でも勝てねぇからな!!」
ジャミルが朗らかに言ってみせたが、それも既に強がりにしか聞こえない。それでもダウドは気力のみで変幻自在を放ちサルーインを滅茶苦茶に斬りつける。
「エロール様、ミルザ様、アムト様、ニーサ様ぁあああ!! あれだけお布施したんです、どなたでも結構ですから早く、早くダウドさんを!
ダウドさんを救ってくださいましぃいい!!」
「バキャロー、情けねぇことほざいてんじゃねぇエルマン! 俺ぁもう神様なんて信じないって決めたんだよ!!」
殆ど泣き叫びながらグランドスラムを放つエルマンを、ジャミルが怒鳴り散らす。
そんな三人にも容赦なく術法連携の嵐が吹き荒れ、彼らの生命は徐々に削られていく。そして──
エルマンは手元の算盤とメモを確認した。「兄さん──
計算が正しければ、恐らく、もうそろそろ、アレが来ます」
「分かった。アレだな」
「え……アレって、まさか……」
ジャミルはすぐにオーヴァドライヴの詠唱を開始する。「ダウドにだけは攻撃させやしねぇ! これ以上、てめぇの好き勝手にさせ……」
だが、それよりも先に──三人が最も恐れていた事態は発生した。
ダウドの身体がサルーインの巨大な手によって一瞬で掴まれる。素早さはかなり高かったはずのダウドが、いとも簡単に先手を取られて邪神の掌に捕らえられ──
「……え」
ダウドが悲鳴を上げる間もなく、その身体は握りつぶされた。



何度も何度も時間の繰り返しを余儀なくされ、何度も邪神に握りつぶされながらもエルマンが突き止めた事実。
それは、邪神があるパターンを繰り返して行動しているということだった。
そのパターンに基づいてジャミルやダウドもある程度サルーインの行動を予測して動くことが出来たし、これまでになくリヴァイヴァやオーヴァドライヴのタイミングを合わせることも出来た。以前エルマンがやらかした、柱が全て立ってしまった状態でオーヴァドライヴの一人連携を叩き込んでしまうという失敗もあまりなくなってきた。
それでも最も恐れるべきは、一撃で人体など粉々に握りつぶし魂までも破壊しにかかる、神の最終にして最強奥義・ゴッドハンド。
そして、エルマンが読んだ邪神の行動で重要なものの一つが──時の運さえ良ければ、サルーインの体力に余裕がある時なら邪神はほぼゴッドハンドを使用してこなくなるということ。今の戦闘では殆どゴッドハンドが来襲しなかったことから、今回自分たちはその、非常に運が良いパターンを引いたとエルマンは見ていた。
しかし、ゴッドハンドに関してエルマンが読んでしまったパターンがもう一つある。エルマン自身、知りたくはなかったが。
それは──サルーインの体力が残り3割ほどになると、ゴッドハンドを使用してくる確率が跳ね上がるというものだ。エルマンの体感では、こうなった時の邪神の攻撃のうち3割はゴッドハンドになる。例えそれまでどれだけ良いパターンを引いていたとしても。
つまり、それまでほぼ使用してこなかったゴッドハンドが来たということは、邪神も追いつめられている何よりの証なのだが──当然、こちらは数段厳しい状況に追い込まれることとなる。
最終局面に突入したその矢先に──一番守らなければならないダウドが、やられたとは。



「ダウド! ディフレクトしろ、ダウドー!!!!」
声を限りに叫ぶジャミル。だが最早ダウドになす術はなく、その身体は神の眼前で手足を奇妙な方向に折り曲げて倒れるばかり。それを弄ぶかの如く、邪神は双眼を光らせた。その手が再びダウドに伸びる──
畜生! こいつ、俺が、俺たちが奪われたら一番痛いものを知ってやがる!!
人をたかが道具とかほざく癖に、なんでそんなに人の心を知ってやがるんだ。人の心を知ってる癖に、どうしてそんなことが出来るんだ。神だからってか。
ジャミルもエルマンも全力で大地を蹴り駆けだしたが、それでもなおサルーインの手の方が早く──


一つの悲鳴も絶叫も、呻きすら漏らすことなく、ダウドの身体と生命は今度こそ完全に破壊された。


いくらリヴァイヴァをかけていようが、そんなものは全く無関係だった。
生命力そのものが尽きてしまったら、蘇生魔法そのものが発動しない。当然だ。
つまり、ダウドはこの瞬間──本当に死んでしまった。
破砕され血まみれになり投げ捨てられたその身体は、最早何の声も上げることはない。力を失った目はただ大きく見開かれ、ジャミルたちを見つめている──痛みによるものか、血混じりの涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃだった。
だが勿論、その死を悲しむどころか茫然と立ち尽くす時間さえ、今のジャミルとエルマンには与えられていない。
「に、兄さん! 危ない!!」
怒りや悔しさとかいうものを通り越してほぼ無感情になってしまったジャミルを、まんまと邪神の手が浚う。
──どうして。
俺たちは、負けることなんか慣れてたはずだ。
だいたい、こいつに負けたって、またすぐみんなであの天空の神殿とやらに戻されるだけだ。ダウドだってそうなりゃ戻ってくる。俺たちは大丈夫。負けたって大丈夫なんだ。
──でも、どうして、こんなにも……悲しい?
どうしてダウドも、エルマンも、こんな酷い目に遭い続けなきゃならない?
ジャミルの眼下で、エルマンまでもが神の手に鷲掴みにされていた。彼はどうにかカエルの鳴くような悲鳴を上げるだけの力はあったようだが、ただそれだけで──



そしてジャミルとエルマンの身体は、ほぼ同時に邪神の手により粉砕され、床に投げ出された。



「兄さん。兄さんってば! 起きてくだせぇ!!」
気が付くと、ジャミルの眼前には会計係の糸目が間近に迫っていた。
「あ、あれ、エルマン……もう俺ら、神殿に転送されたのか?」
「寝ぼけんで下さい、まだ戦闘中っす!!」
言われてジャミルは顔を上げる──
19本の天空の柱が見事に全て揃っている。ということは、ゴッドハンドの後にまた剣の雨がきやがったのか。神の柱全てを破壊して上空から思い切り俺たちに降らせ、再び神を護るべく柱を再生させるあの、「剣の雨」が。
そしてジャミルはもう一つ気がついた──粉砕された柱の山となっている邪神の間。その中でエルマンが、ジャミルのみならずダウドまでもをまとめて庇っていることを。
既に生命のない、ダウドの身体を。
「へへ。兄さんがリヴァイヴァかけといてくれたんで、助かりましたぁ。
……もう私、兄さんがたに死なれて取り残されるのは、こりごりっすよ」
柱の破片が幾つも背中に突き刺さっている状態ながら、エルマンは笑う。
あぁ──そうだ。
エルマンが生き残っているのに、俺が倒れたことが今まで何回あった?
エルマンもダウドも最前線で頑張っているのに、その後ろで俺が力尽きちまったことが今までどれだけあった?
サルーインの野郎にとどめを刺せるのは、エルマンでもダウドでもない。俺でなくちゃならないんだ──
それは今までの経験から、何となくジャミルも分かっていた。
自分が、神によって選ばれてしまった人間であることを。邪神が倒れる前に自分が命尽きれば、どれだけ後の二人が耐え抜いたところで何もかも無駄に終わることを。
なのに俺は、あいつらの目の前で何度倒れた? 
「兄さんも、私も、生きてます。まだ、生きてます。だから──
何とか切り抜けて、早く帰りましょ!」
いつもいつもバカにしているはずの会計係の笑顔が、何故か今は自分の唯一の希望となりつつある。それに気づきながら、ジャミルはよろよろと立ち上がった──
その時。



天空から不意に降りそそぐ金色の光。
その場の邪気を全て打ちはらうかの如きその光に、サルーインも明らかに顔をしかめる。
「に、兄さん! これって……」
「まさか……エロール!?」
あれだけ待ち望んだ光神が、ようやく俺たちの力になってくれるのか。
俺たちの生命力を復活させる神の恩寵が、やっと来てくれたのか。



神の姿が舞い降りたのは──既に命の尽きたダウドの真上。
天使の翼にも似た金色の光をダウドの身体に振りまいて、神は──



何も出来ずにそのまま帰っていった。



「い、今……エロールの奴、ナニしたんだ?」
「た、多分……ダウドさんのLPを回復しようとして、でもダウドさんは既に力尽きてるから失敗したんではと……」
「なぁエルマン。俺ももうすぐLP尽きそうなんだけど」
「……知ってます」
「なんで、俺に降りてきてくれなかったの、か、な? あのクズ神野郎は」
「…………知りません。
ってか兄さん、顔が青鬼面ですぜ」
感情が尽き果てたかのように言い放つエルマンを見もせずに、ジャミルは立ち上がった──
「ふっっっっっっざけんなぁああああああああああああぁぁあああああ!!!!!
これ以上人間様馬鹿にすんのもいい加減にしろ、こんのクズ神どもがぁあああああああ!!!!」
炎のロッドを壊れよとばかりに握りしめ、空高く飛び上がるジャミル。一瞬呆然とエロールを眺めるだけだったサルーインも、やっと事態を理解したのかゲラゲラと下卑た高笑いを響かせる。
<ハ、ハ、フハハハハハハ!! エロール、貴様も落ちたものだ!!
ゴミクズの如き人間一人蘇らせることも出来んばかりか、蘇生させる対象すら間違えるとはな!!>
「うるせぇ!! 俺にとっちゃ最早てめぇもエロールも同じゴミクズ神だ!!!
ゴミクズみたいな人間を生んだてめぇらも同じゴミクズってこったよ!!」
叫ぶが早いか、ジャミルは猛然と歯を剥きだしてサルーインに突進する。ロッドの切っ先が縦横無尽に神の身を切り刻むと、ジャミルはすぐさま飛びずさってオーヴァドライヴの詠唱を始めた。
「エルマン! お前もロペラで攻撃だ、グランドスラムはもういい!!」
「え、えぇ!? でも、柱が壊せませんよぉ!!」
「壊せないなんてこたぁねぇ! グランドスラムなら壊れやすくなるってだけの話だろ、ひたすら攻撃していきゃ嫌でもこんな柱崩れる!! それに、俺がオーヴァドライヴやっちまったらどっちみち意味がねぇ!!」
そう言われてエルマンは、瞬時にジャミルの意図を理解した。
通常の攻撃以外に、少し遅れてくる大地の衝撃波により敵に強烈なダメージを与える効果がある奥義・グランドスラム。この衝撃波はサルーイン戦における柱壊しにおいてかなり有効な一打だった──多めに柱を破壊することが出来るから。
だがオーヴァドライヴが直後に発動した場合、その衝撃波も時間停止により打ち消されてしまう。ならばグランドスラムよりも、攻撃力の高いロペラによる変幻自在を叩き込んだ方が断然効率的だ。
逆に言うと、ジャミルはオーヴァドライヴを連発するつもりか。エルマンはごくりと唾を呑みこみ、武器をエスパーダ・ロペラに持ち替える。
先ほどイヤというほど見せつけられたとおり、神などあてにしても無意味だ。
ジャミルのオーヴァドライヴが発動し、彼は当然のように自分とエルマンにリヴァイヴァをかけてさらにロッドでサルーインを切り刻む。炎のロッドだからこそ出来る、オーヴァドライヴ発動中における回復と攻撃の合わせ技だった。
それを横目に、エルマンも細剣最強奥義・変幻自在を放ち神を斬りつけた。「兄さん、気を付けてくださいよ! いくら強度を上げたとはいえ、リヴァイヴァでLPが削れる可能性がゼロになったわけじゃないんす!!」
「分かってらぁ!!」
叫ぶ二人の眼前に、またしても飛んでくるゴッドハンド。再び二人は無抵抗のまま握りつぶされる──
だがジャミルのかけたリヴァイヴァが、またもや二人を蘇生させた。



一人一人は、神々より遥かに力の劣るゴミのような人間たち。
確かにHPを比べれば、ゴミクズと罵られて当たり前の存在だ。人間など、どれほど成長したところでHPで言えば999がやっと。対して真なる邪神のそれは9万を超える。
でも、何度握りつぶしたところで、何度焼き払ったところで、人間は術や技を駆使して何度でも仲間同士で蘇生しあう。例え一人になったとしても、決して諦めず食らいついてくる。
──その姿は邪神様から見たら、一体どれほど気持ち悪い存在だろうね、エルマン?
蘇生された直後にロペラで神を切り裂きながら、会計係は思い出す。踊り子バーバラがある時ふと呟いた言葉を。
──どんなに叩きのめしても起き上がってきて、こっちに結構強烈なダメージ与えてくるんだよ?
こちらの隙を窺って、こちらの先手取って素早く何度もチョコマカ動いてさ、気がついたら死にそうな強烈なダメージが蓄積されてる。
──ハハ、そう考えたら人間って邪神様から見たら、台所によくいる黒い虫みたいなもんかも知れませんねぇ〜
──そう? でも私は好きだな、人間のそーいうとこ。



「その上、今の私なんかこの通り下手に硬いですし。
ホント、邪神様にとっちゃ鬱陶しいあの虫そのものですよねぇ」
邪神の放った炎に氷の幻術におまけに火の鳥を真正面から受け止めながら、エルマンは苦笑してしまった。
ローザリア重装兵となって完璧に近いほど防御を固めたエルマンにとっては、神の炎といえども大したダメージではない。こうなると逆に不安なのは──彼はちらりと背後を振り返る。
そこではジャミルが息遣いも荒く、またもオーヴァドライヴの発動体勢に入っていた。
「兄さん、もう兄さんこそLPが限界っす! もう、リヴァイヴァは駄目っす!!」
「だけどお前、またゴッドハンドが来やがったら!」
「それでも、です! これ以上兄さんの命削るわけにいかんのですよ!! 兄さんの体力、私よりもずっと貧弱なんすから!!」
「……てめぇ、いつも一言多いんだよ。
ちなみに、今与ダメどのくらいだ」
顔色が真っ青ながらもジャミルはまだ冷静さを失っていなかった。正念場における、冷酷とも言えるほどのこのジャミルの落ち着きは、さすが昔っからエスタミルで盗賊として生き抜いてきただけのことはある。
その気迫に圧されるように、エルマンは答えた。「今、84000超えたあたりです」
「もう少しじゃねぇか。こうなったら最後にもう一度、リヴァイヴァかけるぜ!!」
エルマンが止める間もなく、ジャミルはオーヴァドライヴを発動させる。当然のように二人にリヴァイヴァをかけると、ジャミルはロッドによる変幻自在を神に叩きつけた。
「もう、勝とうが負けようが関係ねぇ……
今すぐ、ここで、てめぇだけは叩き殺す!!」
邪神の咆哮を背にしてひらりと舞い降りるジャミル。だが着地した瞬間──
来襲したものは、風と魔と炎の連携術の嵐。そいつを見事に喰らってしまったジャミルは柱まで吹っ飛ばされてしまう──命を削ってかけたばかりの蘇生魔法が、一瞬で発動して消えてしまった。
「兄さん! だから言わんこっちゃねーですよ!!」
最早その炎のロッドは、ジャミルの生命を吸い切ったように真っ赤に燃え盛っている。「もう駄目です! 今度リヴァイヴァやったらそれだけで兄さんが死んじまうかも知れんですよ!!」
「……分かってる」ふらふらになりながらも、ジャミルはそれでも立ち上がった。その両手からは炎の幻が生まれている──火術詠唱の準備だ。「兄さんってば! だからリヴァイヴァはもう……」
「大丈夫だ、次はセルバを張る」
「えっ」
「知ってるだろ、セルフバーニングなら奴の攻撃は意外と凌げる。お前はとにかく変幻自在をぶちかませ!!」
「意外と言いましても、今の兄さんには心許なさすぎですよぉ!」
「炎と氷幻術が防げれば十分だ、元々装備のおかげで水術と土術は完璧に防いでるんだからな!!」
「た、確かにそうですがいつまでもつか……」
エルマンの反論などものともせず、ジャミルの周囲に炎の壁が生み出された。
その間にも、猛り狂う邪神の攻撃は止まらない。
炎に闇に氷に風に邪術、ありとあらゆる術法がミックスされ、それに柱の崩壊も加わり二人とダウドの死体の上に襲いかかる。
再びエロールが来る気配があるはずもない中、二人はただ耐え抜きながら攻撃を続けるしかなかった。いくら防御力が高いとはいえ、これだけ吹き飛ばされ焼かれ柱の下敷きとなったエルマンの身体は最早血まみれ、泥と灰だらけのボロボロだった。
何十度目かに神を滅茶苦茶に斬りつけ、竜巻で吹き飛ばされ柱に激突した直後──それでもエルマンは震える手で算盤を弾く。「こ……これでもうそろそろ、もうちょっとのはずなんですが……うぐぐ」
顔面蒼白のままジャミルも息せき切って尋ねた。「もうちょっとって……どのくらいだ!?」
「計算上はあと一撃ほどなんです……が」
「分かった、とにかくやるぞ!!」
その瞬間、もう何度目かになるか知れないジャミルのオーヴァドライヴが発動した。
まずは自分たちを癒しの水で回復、その直後に再びジャミルはオーヴァドライヴを行なう。禁じ手に近いオーヴァドライヴ連続使用であるが──世界の運命を決める神との戦いで、そんなことは言っていられない。
二度目のオーヴァドライヴ発動後、ジャミルは炎のロッドを手にする。再び炎の壁を自分に張り、さらにかすみ二段と小転の連携技がサルーインに炸裂した。
ぜいはぁと激しく息をつきながら、ジャミルは叫ぶ。「エルマン!! 今の与ダメは!?」
もうちょっと。本当にもうちょっとのはずだ、どうか、神様──
だが、消え入りそうな声で呟いたエルマンの言葉は、それだけでジャミルのなけなしの気力を奪い去りかねないシロモノだった。
「93000を……超えてます」
「え?」
真サルーインのHPって、9万じゃなかったか。それを3000も超えただと?
「……やっぱり、です。すんません、兄さん」
「何だよそれ……てめぇまさか計算違いでも」
言われて、エルマンは俯いたままゆっくり首を横に振った。「前の周でも同じことがありましてね。
やっぱり今回も起こっちまいましたか……変幻自在のダメージ加算ミスによるもんです」
変幻自在は強力な技だが、非常に高速の多段攻撃の為ダメージが計算しづらい。だから通常は、初撃の10.1倍のダメージと見做してそのダメージを計算するしかない。だが多段攻撃のうちミスがあった場合、そのミスは計算のうちに入れることが出来ない──つまり、計算上の数値と実際の与ダメージとではどうやっても差が発生してしまうというわけだ。
「だから今回も私、初撃の10.1倍でなく10倍と換算して計算してたんす。グランドスラムのダメージも少な目に見積もって……
なのに、やっぱりこれだけの差が出てきちまった」
言いながらエルマンは乱暴に袖でごしごし顔を拭う。灰に塗れた袖で拭った顔はさらに真っ黒になってしまった。「……もうちょっとなのは、間違いないんです。でも、あとどの程度やればいいのか分からないんですよぉ!!」
その両肩が大きくしゃくり上げる。もうエルマンは恥も外聞もなく泣き叫ぶ寸前だった。
もしかしたら残りはもうちょっとどころではなく、1万や2万ほどもあるかも知れない。
もしかしたら、何度も時間を繰り返したことでモンスターが強くなっていったように、サルーインもまた強くなってしまったのかも知れない──邪神だけはいくら時間を重ねようとHPは固定、これは変わらないと思っていたのに。
ジュエルビーストや並み居る強敵のみならず、サルーインさえもが時間を繰り返して強くなってしまうのだとすれば──その可能性に思い当たってしまい、エルマンの両膝ががくりと折れかかる。
「もう、限界っす……私、もう、こんな戦いはイヤです!!」
「お、おい落ち着け、バカ!!」
そんな二人の絶望にも構わず、邪神は未だに悠然と立ちはだかり、傷を治癒させるが如くにその柱を復活させた。
「大丈夫だ」ジャミルはそのさまを睨みつけながら言う。その横顔に血の気はほぼなかったが、希望までが消失したわけではなかった。「あいつは成長なんかしやしねぇ。
何故なら、あいつは神だから。それも破壊神。
成長とは真逆のところにいる神なんだぜ」
「で、でも……」
「大丈夫、お前がまた計算ミスっただけだ。
気にすんな、もうちょっとなんだろ!!」
言いながらジャミルはまたまたオーヴァドライヴの詠唱。最早何かに憑かれたかの如くオーヴァドライヴを連発するジャミルを見ながら、エルマンは逆に冷静さを取り戻した。
──これまでのサルーインの行動パターンから予測すると、次の攻撃はゴッドハンドが30%。術法攻撃の可能性が30%。
残り40%が心の闇──強烈な状態異常を引き起こす、まさに邪神らしき卑劣な攻撃だ。
ゴッドハンドがジャミルに飛んでくれば当然その場で全ては終わる。そればかりか、術法攻撃が連携してジャミルに飛べばそれでも終わる危険性が高い。心の闇なら即死の可能性はないものの、どちらかが眠りや混乱状態になろうものならそれだけでほぼ絶望的だ。
どうする。どうすればジャミルを守り切れる? 攻めるか、守るか?
──ジャミルの癒しの水を受けつつ考えた後、エルマンが出した結論はただ一つ。
「……開き直るしかないっすね」
誰にも聞こえないような低い声で呟くと、エルマンはロペラを構え直した。
今のジャミルのLPは残りたったの1。そんな彼にリヴァイヴァをかけ直したところで全く無意味だ。
この状況下で、エルマンがジャミルを確実に守り切る方法はただ一つ──
邪神の先手を取り、なおかつ、とどめを刺すことだ。
その条件に合致するロペラの技は二つ。電光石火か変幻自在か。
電光石火なら先手を取れる可能性は非常に高くなるが、攻撃力には今一つ欠ける。
変幻自在なら抜群の攻撃力を誇るが、先手を取れるかどうかは分からない。
「これが成功したら──
私のこと、もうノロマとか鈍足とか言わんで下さいよ!!」
崩れゆく柱と燃えさかる炎で黒煙に包まれる邪神の間。その床を蹴り、エルマンは一気に駆けだした。
ほぼ同時に、サルーインの神の手が再びエルマンを掴みにかかる。
ジャミルが絶叫しかけた次の瞬間──



ゴッドハンドも、心の闇も、恐るべき術法連携も──来ることはなかった。
都会の盗賊の眼前に展開されたものは、
黄色い帽子の会計係の、華麗なる変幻自在の舞。



邪神の最期の咆哮と共に、サルーインを護っていた柱が全て崩壊する。
そして、全ては光となり吹き飛ばされ──









「なぁ神様よぉ」
「……」
「黙ってんじゃねぇよ。俺らがどうしてここに転送されてきたか、分かってんだろぉ??」
天空の神殿にて。
見るも無惨にボッコボコにされたエロール神を、容赦なく片足で踏みつけるジャミル。ゴミを見る目で光の神を見下げ果てるのも忘れない。
「……そう、君たちは見事に真なるサルーインに勝利した。しかも3人だけで。
これは神の力をも凌駕する、素晴らしき人間の知恵と勇気の勝利……グフっ」
「いい加減なことほざいてんじゃねぇよ」エロールの頭をぐりぐり踏みにじりながら、ジャミルは怒鳴らずにいられない。「一体あとどんだけお布施したらちゃんと働いてくれるんだアンタは!?」
その背後で、少し赤くなった拳にふうっと息を吐きかけたエルマンも、負けじとエロールに嫌味をぶっ放す。
「お金を頂いたらきちんと働く、これ人の世の常識なんすけどねぇ。
お金をもらうだけもらって働かないとか、アナタ引きこもりのニート以下じゃないスか。どうスか神様、働かずに喰らった明王九印のお味は?」
「あ、あのぉ〜」さらにその後ろから、こわごわとダウドが二人に声をかけた。その顔はようやくこれで冒険(という名の地獄)から解放されるという安心感でいっぱいだった──「もういいじゃないか二人とも。
おいらは死んじゃったかも知れないけどこうして生き返ったし、サルーインにも勝ったんだ。もうこれでエスタミルに帰れるんだろ?」
「冗談じゃねぇぜダウド」ジャミルはきっぱりと言い放つ。「お前が死んじまったってのに、何でサルーインに勝ったなんて言えるんだよ!?」
「えぇ!? な、何を言ってるのジャミル? サルーインには勝ったんだよねぇ!?」
「ダウドさん、残念ながら」エルマンがおもむろに説明した。「チームリーダーたる兄さんが満足しない限り、いくらサルーインに勝利したところで勝利したことにならんみたいなんですよ。
つまりこの場合、私ら3人が全員生還してサルーインに勝利せん限りは、平和を取り戻したことにはならんのです」
「いやちょっと待ってエルマン、全然意味が分からない!!」
「私も最初それを聞いた時は耳を疑いましたがね……
今回に限って言えば、正直兄さんに賛成ですねぇ。ダウドさんもちゃぁんと生き残った上で勝利の美酒を味わいたいってのも勿論ですが、何より……」
エルマンは糸目をほんの少しだけ見開いて腕組みしつつエロールを見下ろす。糸目から覗く小さな黒目にはひとつの憐憫もなかった。「あれだけのお布施ですよ。エロール神にきっちり返していただかんことには、腹の虫がおさまらなくてねぇ」
「えぇえぇえぇエルマンまで何やる気になっちゃってるのぉお!!? だってもういい加減あのゴッドハンド勘弁してくれよぉ、エルマンだけはおいらの味方だと思ってたのにぃ!!」
「あのねダウドさん、確かに私だってもうゴッドハンドやらアニメートやらは嫌ですよ?
でも、代金分の働きをしてくれない奴はもっと嫌です! それが神様だろうが何だろうが、私にとっちゃクズです、ゴミです、生きる価値もない燃えないゴミ!!」
神を拳で叩き潰した上正々堂々とゴミ呼ばわりするエルマンに、ダウドは恐れを隠せない。
「で、でも、一応おいらを生き返そうとしてくれたし……」
「既に死んだお前をな。光の神様ならあの状態でも復活させてくれたって良さそうなもんだがなぁ……それが出来ないならせめて俺かエルマンを回復させてくれたって」
「とにかく、結果出していただかんことにゃ私も満足できませんよ。
きっちり返していただくまで、私しゃいつまでだって待ちますからねエロール様!?」
それでもエロールは、弁解も謝罪もせずに沈黙を守ったままだ。
ジャミルもそれ以上責めるのを諦め、ため息をつく。「とりあえず、俺たちはもっと強くなる為にちょっと修行するから……また下界へ転送してくれねぇかな」
「えぇジャミル、またゴールドマインに引きこもるの!? いい加減鉱夫を助けようよぉ〜」
「いえダウドさん、あの人ら助けたら今度はあすこのいい鉱石独り占めされちまいますからね。その為にも鉱山は放置しておいた方がおトクなんすよ」
「お前の外道っぷりもなかなかのものになってきたな……とにかく、思い切り強くなって今度こそ文句なしにサルーインをぶちのめそうぜ!!」



そして、光に包まれ天空から下界に転送されていく三人。
その後ろで、ずっと一部始終を見守っていたバーバラが声をかける。
「ねぇ、エロール……貴方、少しぐらいは弁解したっていいんじゃない?」
彼女の膝の後ろから、ナタリーもひょいと顔を出した。「散々エルマンたちに殴られたから恩寵出さないなんて、もうヤダよ神様? だってエルマンたちが神様を殴るのは、恩寵が出てくれないからだからね?
それに私……エルマンやみんなが握りつぶされて焼かれるの、もう見たくないな。慣れたけど」
そう──ナタリーはバーバラと一緒に、毎度サルーイン戦になると何故かこの天空の神殿に転送され、二人で邪神の戦いを見せられるハメになる。最初は小さなナタリーは見ていられず逃げ出したことすらあったが、何度も繰り返した今となっては本人も言う通り、慣れたものだ。
だが──もうそろそろ、限界が来ようとしている。エルマンも、ナタリーも。
この前のジュエルビースト戦でも分かるとおり、エルマンは人としての理を一瞬とはいえ超えてしまった。のみならず、先ほどの邪神戦でも遂に、酷い絶望に耐えきれずに壊れかかった。
ジャミルがいなければ、もしかしたらエルマンは完全に精神を崩壊させていたかも知れない。それほどの恐怖と絶望が、あの一戦には満ちていた。
「エロール。貴方、この間ジャミルに言ったわね。この時間のループに関して、まだ話せないことがあるって」
バーバラは尋ねる。エルマンがゴミ呼ばわりして憚らないこの光の神が、最後のヒントを持っているかも知れない──その希望にかけて。
「それは、私にもやっぱり話せないこと?」
エロールはおし黙ったまま、首をゆっくり縦に振った。バーバラはひとつため息をつくしかない──
「私、少しは貴方に信用されてると思ってたんだけどなぁ。だからアメジストだって、毎度毎度私に託してくれるんだろう?
貴方が何も話してくれないなら、今度からアメジスト受け取るの考え直そうかな」
冗談めかして言ったバーバラのその一言を聞いて、目深に被った帽子の奥で、エロールの瞳が僅かに動いた。「……バーバラ。
私は、君たち人間を愛している。
これまでの戦いを見て──君たちを、さらに愛おしく思うようになった」
「え?」
「だから私は、君たちを失いたくはない。
その想いが、君たちをさらに窮地に追い込んでいる──」
さっぱり意味が分からない。バーバラは首を傾げるしかない。「どういう意味? 貴方、そんなに意味の分からないことを言う人だったかな?」
「分からなくて構わない。今私が言えるのは、これだけだから。
私とて──未来を変えたいと思うのは、君たちと同じなんだ」






クジャ男子3人ブラ珍マルディアス旅〜真サル決着編〜へ つづく。


 


 

 

 

某おそ松にかまけてたら随分間が空いてしまいました……そしてまたしても長くなった長く。
今回の戦闘の実際についてはほぼブログに書いたとおりです。誇張でも何でもなく描写の通りの厳しさだったのもいつも通り。
そしてクジャ男子3人旅はまだまだ続いております。実は今の時点(2016/5/13)でも3人全員生還しての真猿撃破は未達成というorzorz……目下ゴールドマインでイフ&イカ狩り中。やっとエルマンのHPが690に達しようかというところです(ちなみにチームトップ)
全員のHPが700超えたらまた挑戦しようかなと思ってますが、ステ上げ終わっても財宝掘ったりお布施したり道場終わらせたりとか色々あるのが微妙に面倒くさい。そして、それが終わってきちんと真サルを倒さないとこの話の続きが書けません。
アルベルト編とか旅芸人二人旅とかのネタも控えてるから早めに終わらせたいんですが、今までになく上がっていくステ見ると結構楽しくて……(^^;)


あと、倒れてるダウドにエロールが来たってのは本当ですが、LP0になった時だったかどうかは忘れました……(そしてその戦闘はさすがに負けた) 
でもエロールのアホ挙動見てるとLP0のキャラに来たって何もおかしくないと思ってる。ターンが経過すればさすがに来ないだろうけど、LP0になった直後だったら来そうだな。そうなったらせっかくだから復活させてくれたっていいじゃんと思うけど。正確な情報知ってるかたいらっしゃいましたら教えてくださいorz

 

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