真サルーイン戦inシフ編その1

 

ほぼ実話プレイ日記SS風第7弾つづきのつづき。
バルハル女戦士・やる代さんことシフが遂に真サルーインに挑むの巻。その1とありますがどれだけ続くか未定。多分3まで。
毎度のことで申し訳ありませんが、くれぐれも真サル攻略の参考にはなさらぬようご注意願いますorz

 

 

ジュエルビースト封印に見事成功し、新たな仲間ファラを入れて数日後。
シフ一行は遂に、邪神真サルーイン──その直前まで到着した。
「エルマンのアドバイス以外に特に何の対策もしないまま来てしまったけど、大丈夫かねぇ」
既にボッコボコのボコに伸してボロ雑巾と化したミニオン・ワイルを背後にしつつ、シフは珍しく弱気な一言を漏らす。だがエルマンはすかさず突っ込んだ。「これ以上どう対策しろってんですかい・・・・・・
武器はほぼみんな強化しまくりましたし、技だって覚えまくりましたし、財宝だって掘りまくり、防具だってこれ以上は望めませんし。
もういい加減やめましょうよぉシフさん、もうあのゴールドマインでの修行の日々はイヤですぅう!!」
「でもねぇ」シフはエルマンの持つウコムの鉾をじっと眺める。「あたしはどうもその、オーヴァドライヴに頼るのがイヤでね」
「えぇ!? 冗談じゃありませんぜシフさん、最低でもオーヴァドライブ役が一人はいないと話になりませんって!」
騒ぐエルマンにファラも言う。「あたいもなんだかイヤだなぁ。エルマンのオーヴァドライブって、ウコムの鉾経由なんでしょ? LPが大変なことになっちゃうよ」
「んなこたぁ先刻承知と、口酸っぱくなるほど言ってるでしょ!
いいっスか皆さん! 運命石10個全てを捧げた真なる邪神を封じるには、可能な限り先手を取り続けることが必須! 通常どおりにオーヴァドライブを詠唱しても、真サルーイン相手じゃ先に叩き潰されちまいます。だからこそLPに余裕のある私が中列に立ち、ウコムの鉾の速度効果を利用してオーヴァドライブを発動させるってのがこれまでの・・・・・・」
「LP尽きちゃったらどーすんの。死んじゃうよ?」ファラが唇を突きだして文句を言うと、エルマンは肩を落とした。「はぁ〜・・・・・・やっぱり人の話、なんっにも聞いてないんスねぇ」
「何それ。むっかつく!」
「エルマン、ファラはこれでも貴方を心配してるんですよ。その言い方はどうかと思います」
「ちょっとディアナ、これでもって何よぅ」
ディアナに窘められ、エルマンは慌てて頭を下げた。「す、すみませんした! 
心配せんでも大丈夫ですよ。だからこその、さっきゲットしたコイツです」
言いながらエルマンは荷物袋から、まあるく膨らんだ数十年モノの缶詰を取り出す。途端にその場には禍々しい妖気にも似た悪臭が漂った。
「皆さん寄ってらっしゃい見てらっしゃい、これこそが伝説の生命の素、ミイラの薬スーパー!!
って、ウォエップ・・・・・・わざわざ取り出させんで下さいよ・・・・・・うぅう」
「オー、こいつは素晴らしい香りだ。いつぞやのディアナさんとファラさんの冥府人参&紫スライム鍋に匹敵するなぁ」
「臭いの酷さについては前周参照スよ。とにかくこいつをオーヴァドライヴで使って、私はLPを補充しますんでね」
だがシフもファラも、不満げにエルマンを見つめる。ディアナも一応の理解はしているものの、納得はしていない表情だ。
「エルマン。アンタ、本当にそれでいいのかい」シフが腕組みをしながら尋ねる。「そんなに命を削る真似、やっぱりあたしは賛成できないね」
エルマンは一瞬、ぽかんとなってシフを見つめた。だがすぐにその糸目は思い切り逆ハの字になる。
「賛成できないったって、これ以上の方法がないんですから仕方ないでしょーが!!」この分からず屋どもがとでも言いたげに、エルマンは肩を震わせつつ叫んだ。「私が一体何回真サルーイン戦やったと思ってるんですかアンタら!?
最初はとてもとても手が出せなくて、次にやった時はオーヴァドライヴ役3人でもとんでもなく手一杯で、それでも時間が巻き戻っちまったから今度はオーヴァドライヴ役を2人に減らして、それでも駄目だったから今回は私1人で・・・・・・その間に私、一体何回負けてあの世を見たか。何十回あのゴッドハンドに握りつぶされたか!!!
これ以上は無理ッス、無理無理ですっ!!」
そんな彼に誰も声をかけられず、一行は黙ってしまった。
シフを初めとして、ジャンもディアナもファラも、時間の逆行に巻き込まれた人間だ。だがこの中で、エルマンのようにずっとジュエルビースト封印戦、デス戦、シェラハ戦、果ては真サルーイン戦までもこなした者はいない。
普段明るくぎゃいぎゃい騒いでいるからなかなか気づけないが、何度も何度もジュエルビーストや真サルーインを倒してはまた冒険開始前の時点に全てを戻される、そんな虚しい時間をエルマンはずっと繰り返している。その心情を本当に理解できる者は、ここにはいないのかも知れない。
やっぱりどこかで、バーバラを見つけておくべきだったか──シフが呟きかけたその時。
「じゃ、こうしましょう」ジャンがふっと進み出て、エルマンの手から缶詰を取り上げた。「こいつは私が持ちますよ、エルマンさん」
「・・・・・・へ? ちょ、ちょっと待ってくださいぃ!」薬を取り上げられたエルマンは慌ててジャンの手から取り返そうとするが、ジャンは高々と自分の鼻先まで薬を持ち上げて悠々と笑ってみせる。とてもエルマンの身長では届かなかった。「ハハハ、取り返してごらんなさい〜ってウヘェ、酷い臭いだ」
「ごらんなさい〜じゃないでしょジャンさん! そいつは私が持たにゃならんのです、返してくださいよ!」
「大丈夫、いざとなったら私がエルマンさんを回復しますから」
「だからそれじゃ意味がないんですって! 私自身がオーヴァドライブで薬を使わないと、LPは元には戻らんのです!」
じたばた暴れるエルマンの額を片手で押さえつつ、ジャンは静かに言った。その顔に、もういつものおちゃらけた笑みはない。「エルマンさん。私は貴方にお約束したはずですよ、必ず守ると。まだ信じられませんか?」
その言葉に、エルマンの動きがはたと止まる。
実際、ジュエルビーストを封印して以降のジャンの働きぶりは実に目覚ましいものだった。セルフバーニングを殆ど使用していないにも関わらず物理攻撃はほぼ90%に近い確率で防ぎ、同時に何度も何度も仲間たちの盾となりその命を救ってきた。
「それでもやはり、信用できませんか?」
真顔に戻ったジャンを、エルマンは左の糸目をほんの少し開きつつ注視する。シフが言葉を継いだ。
「あたしもその方がいいと思うね。エルマン一人に何でも負担させちゃいけない、あたしらが何の為に5人揃ってると思ってるんだい?」
「そーだよ! そんなにあたい達が信じられない、エルマン? あたいはアンタより力も素早さも上なんだよ、アンタのオーヴァドライヴなんかに頼らなくたって、あたいがサルーインをぶちのめしてやるよ!」
「回復であれば私に任せてください、エルマン。術具経由ではありませんが、私もそれなりに素早さはあります。貴方のような一般人に全てを任せるなど、ローザリア薔薇騎士の名折れ!」
「・・・・・・」
ファラとディアナの加勢に、エルマンは黙って俯いてしまう。やがて彼は右腕で乱暴に顔を拭った。「み、皆さんがそこまで言うなら仕方ありませんっ・・・・・・うぅ」
「アレ〜? もしかしてエルマン、泣いてるぅ?」
「な、ななな何ですかファラさん! ちょ、顔覗き込まんでくださいよ!」
「アハハ、糸目腫れ上がってんじゃん。面白いからもっと見せてよ〜」
「いや、ですからそのこれは・・・・・・って、両手で頬ムニってするのやめて下さいぃ、ファラさんの腕力だと痛いんですってそれぇ!!」
「ファラ、やめなさい。あんまりやるとエルマンが可哀想ですよ」
その様子を見ながらシフが大笑いする。「アッハッハ、決まりだね。素直にジャンに渡しな、エルマン」
言われて、エルマンは両腕でごしごし目のあたりを拭いながらにっこり笑った。「ヘヘ・・・・・・常識のある方って、いいっスね。
願わくば、料理の常識もつけていただければ良かったんですが」
「「は?! 何か言った?(言いましたか?)」」
ファラとディアナが同時にエルマンを睨みつけ、彼はその恐怖に飛び上がる。「はわっ!? な、何でもありませんって!!」
「ハハハ、これにて一件落着ですね」「ちょっとジャン。大勝負の前に言う台詞じゃないだろう」
「じゃあ、ミイラの薬はジャンさんにお任せするとしましょう。その代わり!」エルマンは一つ咳払いをすると左手を腰に当て、右手の指で丸を作ってシフたちに思い切り突きつける。「もし私のLPが2以下になるようなことがあったら皆さん、1人10万金賠償してもらいますぜ!」
「うわぁ、そいつは大変だ。ただでさえ危うい帝国財政が破たんしちまう」
全く大変そうに聞こえないジャンの声色に、シフはまた噴き出した。「そりゃいいねぇ。だけど、全てはサルーインに勝ってからだよ、みんな。行くよ!」



そしてシフたちは運命石10個を捧げ──遂に真・サルーインと対峙した。
作戦は、前回と大して変わらない。ローザリア重装兵であるシフがグランドスラムを叩き込み、押しも押されぬ城塞騎士となったジャンは最前列で全員を護る。誰かが危なくなったら水竜剣で最速の回復を狙う。
ディアナはリヴァイヴァ及び魂の歌での回復役、ファラはダークの剣で攻撃もしくはリヴァイヴァ役、もしくは聖杯。
ただ一つ、ホークの時と大きく違うのは──オーヴァドライブ役がエルマンただ一人という点だ。彼はモーグレイとエスパーダロペラの両方を持ち、第一形態時はロペラでかすみ二段、第二形態に入ったらウコムの鉾経由でのオーヴァドライブを使用してひたすら一人連携を狙いつつサルーインをぶん殴り続ける。それが今回の作戦の基本だった。
第一形態はシフのグランドスラムとジャンの剣閃、そしてファラの変幻自在とで非常に効率よくサルーインを殴り続けることが出来ていた──「って、シフさぁん! 私にも少しは攻撃さして下さいよぉ!」
「仕方ないじゃないか、あんたのLPをここで無駄遣いするわけにいかないんだからね。あんたはディアナと一緒にリヴァイヴァをみんなにかけといておくれ、ホラそろそろ第二形態だよ!!」
「え、もうですかい!? スムーズに行ってくれてるのはいいんですが、・・・・・・いいんですかねぇ」
エルマンが呟いている間に柱の崩れる音が響き──邪神の間の天蓋が崩壊し、天空に19本の柱がそびえ立ち、破壊神が雄叫びを上げる。第二形態突入である。
「今だよエルマン! BPは十分貯まってるだろう、やりな!」「やっちゃって下さいよエルマンさん、第二形態開幕の狼煙を上げてやりましょう!」
「って、シフさんもジャンさんも私の話なんっにも聞いてませんよね!?
柱が全部立っている間は攻撃力も回復力も激減しちまうんですってぇ! こんなタイミングでオーヴァドライヴして攻撃したって大損になっちまいますぅ!」
「いえ、攻撃出来る時は全力でするべきです。奴は父上母上の仇・・・・・・」「ほぉら、早くしないとゴッドハンドとやらが来ちゃうよぉ〜!」
「ええぃもう、損ですけど仕方ありませんっ!」皆の勢いに押され、エルマンは半泣きになりながらオーヴァドライブの詠唱を始める。幸いにも、サルーインの攻撃が来る直前に術の発動には成功し──そのままエルマンはロペラを構えて飛び出し、変幻自在と電光石火の5連携を炸裂させた。
「ほぉ、さっすがウコムの鉾の速度効果ですねぇ! あのサルーインから楽々先手取ってしまうとは」
ジャンは喜ぶが、エルマンの顔は晴れない。「当たり前でしょ、何の為に私がLP削りまくってると思ってるんです?
しかし今のダメージは・・・・・・せいぜい5000ちょっとってトコですかねぇ。うまく行けば1万超えられるんですが」
「大丈夫だよ見てごらん、柱はだいぶ崩れたじゃないか! あとはもう一度力貯めるまで、あたしらに任せな!」
シフがすかさずグランドスラムを叩き込み、ジャンも攻撃を続ける。ディアナとファラは手分けしてリヴァイヴァを全員にかけて、そして再びエルマンのオーヴァドライヴのチャンスがやってきた。柱はほぼ半分以上崩れきっている。
「行きますよ、今度こそ・・・・・・おりゃああぁ〜!!」
だが、エルマンが時間停止術を発動させたちょうどその瞬間──邪神が歪んだ笑みを浮かべた。
同時に黒雲が割れ、柱がその下から全て復活する。「そ・・・・・・そんな!?」
<ハハハハハハハハ!!>呆気にとられるエルマンたちをあざ笑う邪神。<貴様の小手先の時間操作などで、私が止められるとでも思ったか!? そんなもの、とうに見切ったわ! ハハハハハハ>
「くぅ・・・・・・これじゃ、またまた大損ですよぉ」ためらうエルマンに、時間を止められつつもシフが叫ぶ。「あんたが止まってどうする、エルマン! 柱が復活しても、ダメージがある程度通って柱が壊せりゃいいんだ!」
その言葉に、エルマンはモーグレイを構えて飛翔する──ヴァンダライズとアッパースマッシュの5連携。エルマンの身長の倍近くもある両手大剣の刃によって邪神は大きく切り刻まれたものの、その嘲笑は止まらない。<何だ、今のは? 弱々しいにも程があるぞ>
邪神の言葉どおり、そのダメージは酷く小さかった。「やっぱり、5000程度っすね・・・・・・モーグレイでもコレって、こんな大損初めてですよぅ」
「うるさいよ!」言いながらシフはまたも思い切りろばの骨で大きく地面を割った。その上をファラが飛び、変幻自在を叩き込む。「あたいだって、これでもジャミルに負けないくらい強くなったんだから!」
そしてエルマンを庇いつつ、ジャンはブラッドスパルタンを放つ。「下がっていてください、エルマンさん! も一度、チャンスを待ちましょう!」
各人の怒涛の攻撃により、流石の邪神の笑みが微かに歪みを見せる。後方からはディアナがリヴァイヴァをぶっ続けで放っていた。「油断してはダメ! 一瞬でも気を許せば、すぐに攻撃が来る!」
「ちょ、ディアナさんっ! 駄目ですよそんなにリヴァイヴァ乱打しちゃ、貴方LPもうないじゃないッスか!」エルマンは慌てて彼女を制止しようとしたが、ディアナは止まらない。
「父上、母上、兵士たちの無念・・・・・・ここで晴らせるのならば、命など捨てても構わない。
行ってください、エルマン。私のことは気にせず!」ディアナの周りを火術詠唱者特有の炎の幻が包み、その光の照り返しで彼女の眸は爛々と赤く燃えていた。だがその額はじっとり汗で滲み、息が少しずつ荒くなっていく。それでもディアナは蘇生術の詠唱を続ける。
そんな彼女を嘲るように、サルーインの手から魔法壁解除術──ヴォーテクスが放たれる。ディアナが全員にかけた蘇生術は無情にも剥がされていった。
だがそれでも、ディアナは蘇生術を再び唱え始めた。「ディアナさんてば! やめてくださいよ、私しゃミイラの薬があるからいいですが、貴方は・・・・・・!」
エルマンが叫んでいる間に、サルーインの両拳から雷光の如き不吉な輝きを帯びた邪術が放たれる──「あ、あれは! マズイですよ、心の闇ッス!!」
避ける暇もなく、神の邪術は天空を覆いパーティに襲いかかる。エルマンが気がついた時には、ディアナと自分以外の全員がその場に倒れ、眠りの幻術にかかっていた。それでもディアナは負けじと、またもや蘇生術の詠唱を始める。「エルマン、そろそろBPは貯まっているはず。私は蘇生術をかけていますから、貴方は構わず攻撃を!」
「貴方ねぇ!」遂にエルマンが切れた。「ノブレスオブリージュだか何だか知りませんけどね、ディアナさんには殿下と弟さんがいらっしゃるんでしょ!?」 「・・・・・・!」その言葉に、ディアナの燃える瞳に一瞬の戸惑いが生じる。
「大事な人がいらっしゃるんでしたら、貴方死んじゃいかんですよ!」咄嗟にエルマンはウコムの鉾を構え、ディアナの術より先にオーヴァドライヴを発動させた。「エルマン!? 貴方、まさか・・・・・・!」
そのまさかだった。彼は一旦オーヴァドライヴを行ない水術で全員を起き上がらせた──そしてオーヴァドライヴ中に再度オーヴァドライヴ。今度は蘇生術リヴァイヴァを全員にかけていく。
「さて。これでもう、ディアナさんは当分リヴァイヴァ使うこたありませんよ!
って、うぅう・・・・・・流石にキツイっすね」
彼の血を吸いきり真っ赤に染まったウコムの鉾を杖がわりにしつつも、エルマンはふらっと膝をつく。術具経由によるオーヴァドライヴは勿論、蘇生術リヴァイヴァの連発も彼の生命力を大幅に削り取っていた。
その機をサルーインが見逃すはずがなかった。邪神の周囲で紅蓮の炎が燃え上がる。
「まずい! あれは・・・・・・邪神の術連携!?」ディアナがエルマンの方向へ視線を飛ばすより早く、サルーインの火幻魔風術、全てが組み合わさった極大火炎の剛速球が彼に向けて発射された。
直後に大爆発が起こり、柱もその破壊力に崩れだす。凄まじい爆風があたりを覆い尽くした後、焼け焦げた空気の中でディアナが見たものは──
「ハァイ、ディアナさん。エルマンさんは無事ですよ」輝くスキアヴォーナの刃を左に構え、右腕にぐったりしたエルマンをかかえたジャンが、自信たっぷりに微笑んでいた。「言ったでしょう、必ず皆さんをお守りすると!」
ジャンはいつもと変わらぬ陽気さで、それでも剣先はしっかりサルーインに向けたままエルマンを降ろす。「さぁてエルマンさん、お薬の時間ですよぉ・・・って、ウップェやっぱり酷い臭いだ」「え、ちょ、ジャンさん!? いっぺんに流し込むのヤメテお願いヤメテ下さいぃひぃいい」
「ジャ・・・・・・」ディアナの喉からは何故かそれ以上の言葉が出てこない。恐らく熱風のせいだけではない、喉元では何かがつかえ、目元からは逆に熱いものが溢れ出しかける。陽気にミイラの薬を無理矢理エルマンの口に注ぎ込もうとするジャンと、殆ど手足も動かせない状態になりつつ何とか抵抗しようと暴れるエルマンを見ながら、ディアナの視界がうっすらぼやけていく。
「ディアナ! 油断しちゃダメって、あんた自分でいつも言ってるでしょ!」ファラが炎の中から飛び出して、何のためらいもなくサルーインを切り刻む。想像を絶するほどの邪神の雄叫び──
「うるさいねぇ! 神かどうか知らないけど、大の男がぎゃーぎゃーと!!」地表を揺るがす轟音と共に、シフが邪神の身を床ごと叩き割る。柱が空中で次々と叩き割られていく。
<何を、これしきの攻撃! 神の柱などすぐに復活す・・・・・・!?>
その瞬間、邪神の眼に止まったものは──敢然と立ちあがり、ウコムの鉾に自らの血を注入しつつ時間操作術の詠唱を開始した、糸目の小さな人間。時間操作術は神の手をもってしても止められない、それを扱う者はいの一番に警戒せねばならぬ相手である。
だがここにきてもなお、邪神には慢心があった。何せ詠唱中の相手は人間どもの中でも酷く矮小な、か弱い存在だ。<そんなもの、既に見切っているわ! 何度やろうと無駄だァ!>
嘲笑と共に柱が全て復活する──同時にオーヴァドライヴも発動してしまった。
エルマンにとっては本日3回目の大損。だが。
「ここで攻撃せんかったら、それこそ一番の大損ですよっ! ミイラの薬も消費しちまいましたし!!」モーグレイを手に飛び上がったエルマンは、お構いなしにヴァンダライズとアッパースマッシュの連携を叩き込んだ。シフのグランドスラムが、ファラの変幻自在が、ジャンのブラッドスパルタンが後に続く。
<こ、これは・・・・・・貴様ら、許さんぞ・・・・・・神に本当に抗えるとでも!!>
神の嘆きをものともせず、シフがエルマンに薬瓶を投げ渡す。「エルマン、こいつを使いな! 虎の子だっ」
「へ? これは・・・・・・技術強化の妙薬!?」
「あんたの話じゃ、もうそろそろゴッドハンドとやらが飛びまくる頃なんだろう。だったら構わずオーヴァドライヴで一斉攻撃した方がいい、奴に攻撃をさせるな!! ファラもジャンも攻撃に回れ、ディアナはとにかく一人も死なすな!」
「「「了解!!!」」」
一斉に怒涛の波状攻撃を仕掛けるシフ・ファラ・ジャン。エルマンもそれに続いて再びオーヴァドライヴを発動させる。その眼前で当然の如く復活する柱──だがもう彼は怯まなかった。
「塵も積もれば山となる! 利子だって積もり積もればエラいことになるんですよっ!!」
力の限りモーグレイで身体ごと邪神に激突するエルマン。炸裂する5連携。
あまりの勢いにモーグレイが砕け散ったが、彼は構わずに再度ウコムの鉾に力を、自らの血を込める。「ここまで来たんス・・・・・・今度こそ・・・・・・時間を取り戻させてもらいますよっ!!」
再び発動する時間操作術。エルマンは今度はエスパーダ・ロペラを構え、必殺の変幻自在を繰り出す。そして──





「あの、姐さん」
「なぁにエルマン」
「私ら、確かにサルーインを倒したはずッスよね。はずなんスよ」
「そうね」
「そうねじゃないでしょー!!!!????
私がロペラで変幻自在5連発を決めて、サルーインが力尽きるのも確認したはずなんスよ!! なのに、なのにぃい!!!
どーしてまた、この天空の神殿に来てるんスか私らアァアアア!!!???」
エルマンの言葉通り、サルーインは確かに倒れたはずだった。だが彼ら5人は何故かその直後──
最終試練の最後に到達するこの天空の神殿に転送されていたのである。そしてどういうわけかそこにはバーバラとナタリー、そして例の詩人もいた。
「しかもここって、サルーインにぶち殺された後いつも来るはずの場所ですよねぇ姐さん!?
私ら確かにサルーイン倒したはずなんですよぉおおおどーしてここに来てるんスか、姐さんぁああああん!!!」
「う〜ん、どうしてだろうねぇ」
「どうしてもこうしてもないでしょ、私どんだけLP削ったと思ってるんスか!! オーヴァドライヴ役が一人でもやっと勝てたと思ったら勝ったことにすらされてないってどーいうことスか、ねぇえええええ!!!」「う〜ん・・・・・・」
糸目から滂沱の涙を流してバーバラの両脚に組みついて揺さぶるエルマン。そんな彼を呆れたように背後からナタリーが眺める。「エルマン、落ち着いて・・・・・・最後の変幻自在、カッコ良かったよぅ」
泣き喚き続けるエルマンを宥めすかしつつ、バーバラはそばで無言を貫く詩人と、少し離れてじっと天空を見上げて腕組みをしているシフを見つめた。周りにはジャンもファラもディアナもいたが、皆一様に戸惑いを見せている。主にエルマンの号泣っぷりに。
「エルマンさん、落ち着いてくださいよ。今までこういうことがなかったってことは、もしかしたらいい兆候かも知れませんよ」
「そーだよ。あたいらにはよく分からないけど、サルーインを倒してもここに来ちゃうってことは普通ないわけでしょ? ってことはさ、アンタの言う時間のループってヤツが途切れたのかも知れないよ?」
ジャンとファラの前向きな言葉に、エルマンはふと顔を上げる。「そ、そうかも知れませんね・・・・・・もしかして、ひょっとすると、奇蹟が起こったんですかい・・・・・・?」
バーバラにしがみつきながら、エルマンは祈るようにガタガタ震えながら詩人を振り返った。だが──詩人は何も答えない。
エルマンが、いやこの場の全員が絶対に認めたくない現実を、バーバラは敢えて口にする。「エルマン。サルーインに勝ったにも関わらず、ここに来たことがなかったわけじゃないよ。
思い出してごらん。あれは確か、グレイの時だったね」
「どういうことです、バーバラ?」ディアナがエルマンを気遣いつつ尋ねる。バーバラの言葉で何かを察したのか、エルマンは彼女の膝にしがみついたまま、密かに両目をガンと見開いていた。油汗をタラタラと流しながら。
「最初に真サルーインに挑戦したのはグレイだった。その時エルマンは一度死んじまったんだよ・・・・・・他の4人が頑張って真サルーインを倒したけど、グレイは満足しなかった。全員が生きていないと意味がない、ってね。
そうしたら彼らはエルマンと一緒にここに来た。だからその時はもう一度時間を戻して再戦したんだよ」
「つ、つまり、全員が生存していないと勝利したことにはならないと? そりゃないでしょう、だって我々は全員生き残っていますよ」
「違う。ここに来る条件というのは、おそらくみんなが生き残るかどうかには関係ない──シフ!」
バーバラは大声でシフの背中に呼びかけた。バルハル族の戦士はその兜の後頭部に飾られたパワーデビルの仮面を、無言でゆっくりと揺らす。バーバラはさらに続ける──「あんたは満足したのかい? この結果に。
この戦いに、本当に満足した?」
輝く太陽を背に、シフはその巨体をゆっくりとバーバラたちの方へ向ける。影を帯びた彼女の巨躯、ひときわ鋭く光る青い双眸は、エルマンたちの目には何故か恐怖の対象に映った。そして──
「ダメだね」
一瞬何が起きたのか分からず、エルマンは開眼したままぶるぶる震えだす。「ダメって・・・・・・し、しししシフ様、一体何を・・・・・・?」
天空の神殿を破壊する勢いで両こぶしを握り締め、シフは叫ぶ。その腕の筋肉は大樹の幹のごとく盛り上がっていた。
「こんなもので満足できるわけがないだろう!!
あんなに強い奴を相手にして、あたしゃ滾ってきちまったよ!!! あたしはもう一度、いや何度でもあいつと戦ってみたいねぇ!!!」

「は、はわあぁああああ・・・・・・?」「し、シフさん?」エルマンは勿論、ジャンまでが二歩も三歩も引いていく。
「まずはエルマン! やっぱりオーヴァドライヴは邪道だよ!!」
「へ、へぇ?」シフの言葉が全く理解できず、エルマンは開眼したまんまで彼女を凝視しながらぱちぱち瞬きを繰り返すことしか出来ない。「シフ様、何やら受信でもされましたか・・・・・・?」
「アンタ男だろ! しょーもない時間操作術なんか使わずに、サルーインに勝ちたいとは思わないのかい!?」
「そうだよね!」何と、ここでファラがシフに加勢した。「あたいだって、もっともっと冒険して暴れたいよ! 今まで南エスタミルでくすぶってた分を取り戻してやるんだ!」
さらにディアナも拳を握りしめつつ言い放つ。「私も賛成です。サルーインは父と母の仇であるだけでなく、全ての災厄の元凶。この手で何度叩き潰したところで、満ち足りるものではありません」
「そ、そんなぁ。ファラさんもディアナさんも考え直してくだせぇ!!」
「仕方ないな・・・・・・エルマンさん、多数決ですから諦めましょう。女は強しです」
「ジャンさーん! 少しは止める努力してくださいよぉ!!!」
シフはそんな文句は一片たりとも聞かず、ドカドカと歩いてきてエルマンの腕を掴む。「そうと決まれば善は急げだ! エルマン、ウコムの鉾をファラに渡してもらうよ!」
「ほぇ? どど、どしてです?」
「何とぼけてんだい、あんたがウコムの鉾を持ってたのはオーヴァドライヴの最速発動のためだ。
オーヴァドライヴを使わない以上、素早さの低いあんたが持つより速いファラに持たせた方が得だろう?」
「そりゃそうですが・・・・・・って、マジでオーヴァドライヴなしで行くつもりですかい!?」
「当たり前だろう。オーヴァドライヴなしであいつを殴り飛ばさない限り、あたしは満足できないねぇ!!」
「やったぁあ! 使ってみたかったんだぁ、ウコムの鉾!!」
意気揚々とはしゃぐ女たちを後目に、エルマンの両肩がぶるぶる震えだす。「そういうことっすか・・・・・・ここに私らが来たのは、シフさんが戦いに不満だったから・・・・・・
つーことは、彼女を満足させるまでこの戦いはいつまででも続くと」
「やっかいだね」バーバラはぽんとエルマンの肩を叩いた。「しかも、彼女は戦い続けるたびにさらに強い獲物を求めるタイプだよ」
「他人事みたいに言わんで下さいよぉ!!」
降りそそぐ太陽光の下、シフはむんと右拳を握って筋肉の状態を確かめている。エルマンの目にはその筋肉は肉眼で分かる速度で膨張を続けているようにさえ見えた。さらにその体躯からは爆発的な汗が、そしてオーラが立ち上っている。
「姐さん。やっぱり、人って見た目ッスね・・・・・・せっかく常識人に出会えたと思ったのに、オチがコレっすか」
「そう落ち込まないの。私はやっとヒントらしいヒントが見えたと思ってるよ」
「ほぇ?」
「だからそんな顔しないの! 早く行かないとシフに殴り殺されるよ」「は、はいぃ!!」





「・・・・・・で、まんまとサルーインに殴り殺されてきたってわけかい」
シフ一行が再び天空の神殿を出発して数刻の後。
彼女たちは、全員ズタボロのボロになって神殿に転送され、バーバラと詩人の前に転がっていた。
「うぅ・・・・・・すまないね。みっともないところを見せちまったよ、バーバラ」
「申し訳ありません、バーバラ。私が不甲斐ないばかりに」
「ちっくしょー、もーちょっとだったのにぃ!!」
「エルマンさん、しっかりしてください。ホラ、もう着きましたよ」
エルマンの状態が最も酷く、全身黒コゲのまま一歩たりとも動くことが出来ない。慌てて駆け付けたナタリーがようやく聞き取ることが可能だったその呟きは──「うぅうう、ゴッドハンドは、ゴッドハンドはもうカンベンしてください・・・・・・剣の雨の直後にゴッドハンド3連発って、反則ッス・・・・・・うぅ、アブラハブラハゲハゲサルーイン、エ〜ロイムエッサッサ〜ウララ〜ラ〜♪」
「エルマン、落ち着いてってば! ここにいればどんどん回復するみたいだから、ね?」
何やら妙な経まで唱えだしたエルマンは、体重が5割ほど削げ落ちたかのように頬がこけている。そんな彼をナタリーが慌ててぎゅっと抱きしめたが、途端にエルマンは錯乱状態で大騒ぎを始めた。「ぎ、ギャアアアアアアアアァ!!!! こ、この感触! もうヤメテヨシテヤメテ後生ですからやめて下さい、もう全身の骨という骨を粉砕されるのはイヤですぅううう!!!」
「な、何よ失礼ねエルマン!! せっかく私が抱きしめてあげてるのに!!」
そんな彼を、バーバラの治療を受けながらジャンは申し訳なさげに見守っていた。「いやぁ、確かにゴッドハンドはトラウマ級でしたねぇ・・・・・・ハハハハ、ハ・・・・・・」
だがそんな彼らを見ながらもなお、シフはやる気まんまんだ。「1戦目じゃぁ味わえなかったからねぇ、あの迫力。さすが神様だよ、戦いはこうでなくちゃね」ボロボロになりつつも、彼女は豪快に笑って左拳を握りしめてみせる。
「そうですね。このような惨敗はイスマス侯の娘として、ローザリア薔薇騎士としての恥です」
「もうウコムの鉾の扱いだって慣れてきたし、あたいも今度は大丈夫だよ〜!!」
「あ、相変わらず皆さんやる気十分ですねぇ、ハハハ・・・・・・でも大丈夫、今度こそ私があのゴッドハンドを防いでみせますよ! アレはもう見切りましたっ」
「エルマン、大丈夫だよね? あんたは剣士になったんだし、好き勝手にロペラとモーグレイが使えるんだ。ウコムの鉾を使う必要もない、LPの心配はもういらないんだ。思う存分暴れな!!」
そんなシフの言葉に、エルマンは魂が抜けたように白目を剥いたまま恨み言を吐く。「あのぅシフ様、今は私のLPよりもSAN値の心配をしていただきたいんスが・・・・・・うぅう」
「そいつを自分で言ってられるうちは大丈夫だね。さぁ、回復したらすぐ行くよ!!」










次回、〜真サルーイン戦、もっとやるよ!!〜へ つづく


 


 

 

 

シフ編の真サルーイン戦は一本にまとめようと思ってましたがあまりにネタ量が多くてまさかの3回(多分)分割。
その1その2は一本にしようと思ったのですが、その1とその2であんまりにも雰囲気相違が著しいのでここも分割しました。
シフ編サル戦のネタは最初マジで少なかった。随分最近まで、最初に書いたこの1戦しかやらずじまいでした。
ゴッドハンドも全然来なかったし、シフ様が満足するわきゃないぜコレ!ってことで、ジャミダウエルマン三人旅と並行しつつシフ編の5人を強化してサルーイン戦を何度かやってたらいつのまにかネタ量過多に。次回はついにODなし真サル戦本番に突入。エルマンが大変なことになっちまいました・・・・・・SS上でもプレイ上でも。


詳しい装備内容などはブログ記事に書いております。
ミイラの薬の件はジャンがカッコ良くエルマンから取り上げたように書きましたが、実はまたしてもの私の大ポカだったり。


そして当たり前ですが、オーヴァドライヴがサルさんに見切られるなんてこたぁありません。基本的に7ターンごとに柱は復活しますが、エルマンのオーヴァドライヴのタイミングがたまたまそれと合致してしまっただけと思われる。
柱がだいぶ崩れてきたし行ける!と思ってエルマンのオーヴァドライヴを入力した次の瞬間、都合よく柱が復活してくるもんだからマジでこのクソ猿どうしてやろうかと思ったんですが、多分この「いまだ!」と思ったタイミングと偶然7ターン目が合致したんじゃないかと。要はいつもの私のうっかりです。
真サル戦ではターン数を数えておくのが大事とはよく聞きますが、最低でも剣の雨ターンぐらいは把握しとけよということか。つか、その前に第二形態開幕でいきなりオーヴァドライヴやるなという話ですが。


あと、当然ですが城塞騎士が術法攻撃から味方を護るという芸当はできません。できませんが・・・・・・ジャンのお役立ち度をなかなか書けてなかったんでせっかくだからということで。ホント、セルバほぼ使ってなかったのにジャンのあのディフレクト率は半端なかった。隠しステータスついてるんじゃないかってくらい。
どこかのサイトでも言及されていたような気がしますが、ジャンは城塞騎士への適性という点ではラファエルとタメかそれ以上だと思います。少なくとも全パーティキャラ中トップを争うレベルなのは間違いないかと。


もう一つついでに。
何となくキャラの言動が某血界戦線に似てきている気がしてもそれは気のせいです。多分。
エルマンの錯乱ぶりがランチ回の某レオ君のそれと似てる気がしてもそれは中の人と糸目とチビ属性による妄想です。
滾るシフ様がエデン回の某クラウスさんと似てる気がしても(ry




 

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